第9話 詩織と子供達



 森の中にまるで粗大ゴミでも捨てるように、捨て置かれたスホは疲れ切って眠りに付いた。


 母の温もりをおぼろに感じながら泣き叫び、泣き疲れ、どのくらい経ったのだろうか?


 優しそうな高齢のおばあちゃんに抱き抱えられて、ある一軒家に辿り着いた。


 今まで、住んでいた家とは比べ物にならない、あばら屋に暫くの間身を置く事になった。それは母の側近の母親が住む家だった。



 もう直ぐ4歳のスホは、何とか生き延びる事が出来たが、精神的なダメ-ジが強かったせいで1年程寝たきり状態が続いたが、回復して何とか日常生活も送れるようになった。


 だが、ショックの余り記憶喪失で5歳までの記憶は一切ない。


 こんな北朝鮮に居ても、いつ何時使者の手によって粛清されるやも知れない。そして、母の母国、日本に帰った。


 

 ◆▽◆

 スホは学生時代に、韓国エンタ-テーメント・キング社の関係者の目に留まり韓国の芸能界に入って行った。


 ハングル語の飛び交う環境だった為、言葉の壁は難無くクリア。そして今の地位に上り詰める事が出来た。


 幼少期は不幸続きだったが?打って変わって今は幸せ一杯のスホ。


 だが、あれだけ2人の付き合いを祝福していたジアンの父親が、最近二人の付き合いに難色を示している。


 一体何故?


 それを聞くべくジアンと、お父様の元に向かったスホ。

 すると……とんでもない言葉を発せられた。


 それはスホの父親が、大殺人者で妻と子供2人を殺害したのだと言うのだ。

 一体どこからそんな話が?


 スホは休暇を取って日本に帰国した。そして父に問い質した。



 *****


 2000年11月の底冷えのする寒い日に、殺害された岸田詩織さん当時43歳、すみれさん15歳、百合さん13歳の3人は親子である事は分かったのだが、父親の雄介さんとは一体どういう関係なのか?


 先代の岸田太郎氏(リ・ジフン)は、2002年3月のまだ肌寒い朝に長い闘病生活の末、肺癌で85歳の生涯を閉じた。



 バブル崩壊以降、実質上の社長だった雄介氏は窮地に立たされている。


 バブル崩壊のあおりを受けて企業倒産が相次いでいた時代。


 この様な現状化、当然の事ながら雄介のパチンコ店も大打撃を受けている。


 そこであの日、朝鮮総連に出向き送金額の交渉に出掛けた。



「売り上げも落ち込んでいる現状化、送金額を今までの7割にして欲しい!」と懇願していた。


 そしてあの日「男と片をつけてくる」と言っていた岸田詩織と岸田雄介氏が夫婦で無ければ、詩織さんと2人の娘さん達とは、どういう関係なのか?



 ◆▽

 1993年、山々が赤や黄色にデコレーションされて何とも華やかな晩秋の事。


「岩田」ドハは「金」ミノの計らいで岸田雄介氏と、親しい間柄になって行った。


 ミノと『岸田コ-ポレ―ション』は、もう何十年も取引をしている周知の関係。


 雄介は2年前に妻を交通事故で無くしていた。


 とうとう子供も授かる事が出来ず、愛する妻にも先立たれて、まだ傷も癒えぬ最中に、ミノはよく雄介を気分転換に外に連れ出してくれていた。何とも有り難い男で、雄介もミノの事を信頼しきっている。


 そんなある日、ミノが「ゴルフにでも行きましょう」と声を掛けて来た。勿論喜んで出掛けた。


 ゴルフ場に着くと。そこに居たのがドハと詩織なのだ。


 雄介はグラマラスなボデイと、1980年後半から1990年代にかけて絶大な人気を誇っていた宮沢りえに何処となく似ている詩織に、釘付けになった。


 あの当時、絶大な人気を誇っていた憧れのアイドルに何処となく似ている、そんな詩織に一瞬で恋に落ちてしまった雄介。

(探し求めていた女性と……遂に出会うことが出来た💛)胸一杯の雄介。


 

 ◆▽◆


 ドハは矢継ぎ早に、結婚の催促をする詩織に辟易している。


 最初から利用出来る要素が多い詩織に目を付けていた、上層部からの指示で動いていただけの事なのに、余りの結婚願望に困り果てて居る。


 端正な顔立ちの魅力的な男ドハを、上層部が利用してホストまがいな仕事をやらせて、詩織に近づくよう指示を出していただけの事。



 ◆▽◆

 一方の雄介にとって幸子はドストライクな好みのタイプの女性。子供も居なかった雄介にとっては理想的な女性だ。


 ひょっとしたら子供も一生拝めないと思っていた最中に、子連れのましてや自分のタイプの女性と巡り合い、有頂天になっている。


 実は、詩織は実はあの北朝鮮に向かう工作船から、海に投げ込まれた幸子だったのだ。


 あれ~?もう既に死んでいるのでは?


 益々混迷の一途を?


 じゃ~!『岸田コ-ポレ―ション』社長雄介の息子隼人は誰の子供なのか?



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