第4話 異世界クイズ

 「えーっと……つまり、どういうこと?」


 「だーかーらー! オレは元々男で、気が付いたらこの世界にいたんだよ!」


 森から脱出したシオンとイリスは、森から遠く離れた川のほとりに、ベースキャンプを作り、一休みしていた。

 そして、二人で釣った魚を食べながら、話題はシオンが何者なのか、という話題に移っていた。

 シオンは、自分が日本にある東京という都市に住んでいた男子高校生であり、気が付いたらこの世界にいたことを説明した。

 しかし、イリスには全く理解できない話であった。

 何度説明されても、「どういうことかよく分からない」という結論に辿り着いてしまう。


 「やっぱり信じられないよなぁ……」


 十数回も同じことを説明することに疲れたシオンは、信じてもらうことを諦め、肩を落とす。


 「んー……。そうだなぁ……」


 イリスは少し考え込むと、何かを思いついたように顔を上げた。


 「そうだ! じゃあ、私がこの世界の常識クイズを出すから、それに答えて……!」


 「お、おう!」


 彼女の自信満々な表情に釣られて、答えられるはずもないのに、何故かシオンもやる気になってしまう。


 「あ、嘘は禁止だからね?」


 「いや、つかないよ!?」


 意地悪な忠告に抗議しながら、イリスによる異世界クイズが始まった。


 「第一問! この世界には、十の種族が存在しています。さあ、それ何でしょう?」


 「えー……。多分、一つはさっきイリスが言ってた、人間種(ヒューマノ)ってやつだよな。あと九つ……。分かりません……」


 「えっと、じゃあ、第二問! この世界は、三つの大陸で構成されています。その大陸名は?」


 「わ、分かりません……」


 「……だ、第三問。この大陸での貨幣通貨って分かる……?」


 「……分かりません」


 イリスの質問に全く答えられないシオン。

 そんなシオンを見て、イリスも声のトーンが下がっていく。


 「も、もしかして、本当にこの世界の人じゃないの……?」


 「だから、そう言ってんじゃん……」


 「で、でも、どこからどう見ても女の子だよね……?」


 「それに関しては、オレが一番聞きたいんだよなぁ……」


 ため息をつき、肩を落とすシオンを、イリスはただ黙って見つめていた。

 彼女の話は到底信じられるものではない。

 何かの目的があって、嘘をつき、イリスに近づいてきただけかもしれない。

 だが、彼女が嘘をついているようには思えない。

 それは、イリスと初めて会った時とイリスの名前を聞いた時の反応で分かっていた。

 この世界に生きている人間であれば、彼女のことを知らない人間はいないのだから。


 「それで……オレのこと信じてくれるのか……?」


 いつの間にか、シオンは顔を上げ、イリスの目をじっと見つめていた。

 その目に嘘はなく、あるのは困惑と不安、そして諦めの色だった。


 「……うん。信じる。あなたは嘘をついてなんかない。……それに、助けておいて見放すような真似なんてしないから、大丈夫だよ」


 彼女のことを信じると決めたイリスは、優しく微笑んだ。

 その笑顔は、シオンにとっては、何も分からない暗闇の荒野を照らす一条の篝火にも等しいものだった。

 それに、ここまで真っ直ぐで、純粋な優しさに触れたことは、シオンの記憶をどれだけ遡っても初めての体験だった。


 「──ありがとう、イリス」


 自然と溢れ出そうになる涙をこらえて、力強い笑みで、彼女の優しさに答えた。


 「──どういたしまして、シオン。よし! じゃあ、まずは色々とレクチャーしないとね。今のままじゃ、この世界で生きていくなんて不可能だから」


 「本当にありがとうございます……!」


 「その前に、ここから移動しよっか。また追いつかれたら面倒だし……」


 「……? 了解……?」


 彼女が一体何から逃げているのか。

 それはまだ分からないが、今は彼女の言葉に頷き、二人は再び馬に乗って、その場を移動するのだった。

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