異世界壊し屋稼業~巨大ハンマー一発無双、助けた美少女たちと晴らせぬ恨み、晴らします~

レモン塩

第1話

「オラァァァァ!!」


 長さ1kmの巨大なハンマーを振るう。一振りで城の半分が塀ごと吹き飛び、二振りですべてが崩れ落ちた。それを眺め、俺はハンマーを日曜大工サイズまで戻す。


「ありがとうございます! これで重税から救われます、 イチロウ様のおかげです!!」


 町娘が俺に平伏して礼を言う。キレイなブロンドに、豊満な胸が印象的な少女だった。


「俺は弱い者の味方だ。料金はもらうがな。また何かあれば言ってくれ」


 まあ、この街にはいないだろうが。


 俺はサトウイチロウ、28歳。稼業は壊し屋、つまり依頼を受けて物を破壊する仕事だ。ただし弱者からの依頼しか受けないと決めている。日本から転生する際、この世界で弱者を助ければいつか日本に帰すと言われたからだ。その際受け取った不思議なハンマーのおかげで、今の稼業は成り立っている。


 重税、犯罪被害、山林開発、依頼の理由は様々だ。権力者に恨まれる依頼も多い。当然一つ所へ留まることはできない、必然とスタイルは流浪になった。


 さて、次はどの街へ行こうか。革のバッグから地図を取り出す。現代の水準からすると質の悪い紙に、不正確な表記。

 しばらく眺め、ゲトーという街が目についた。ここから馬車で5日といったところか。街は海に面しており、眺めも良さそうだ。


 幸い金はある。拠点としていた街で馬車を拾い、ゲトーの街へ向かった。



 御者に礼を言い、馬車を降りる。宿を取って荷物を置くと、酒場へ足を延ばした。


 上下の空いた、両開きのドア。まるで西部劇だと思いながら、うす暗い酒場へ入る。外装も内装も、一級の店のようだった。東京のオーセンティックバーにも引けを取らないだろう。


 俺の黒髪と腰にぶら下げたハンマーを見て、店主は俺が「壊し屋のイチロウ」だと気が付いたようだ。露骨な媚が顔に出る男だった。


「これはこれは、イチロウ様。お噂はかねがね、これはほんの気持ちでございます」


 カウンター席へ腰かけると、すぐに一杯注がれた。真昼間だからか、俺以外に客はいない。


 よく磨かれたグラスに、たっぷりのウイスキー。煙たさが鼻をくすぐる、上等の一本。この店にしてみれば最上級の品だろう。


「もらえると言うなら頂くが、なぜ? 俺があんたに何かしてやったか?」


「先々月あなた様に助けていただいたエライザ、あれは私の妹でございます。暴漢に襲われ、乱暴されかけていた所を救っていただいたと聞いております。本当にありがとうございました」


 そんなこともあったような気がする。何せここは異世界だ。身分制もあれば法も未整備で治安も悪い。弱者は虐げられるばかりで、無数の依頼がある。


「俺は自分の義務を果たしただけだ。感謝されるようなことじゃない」


 言いつつ、ウイスキーへ口を付ける。本当に上物だった。異世界ではなかなかお目にかかれないだろう。


 満足した俺は酒の感想を述べて店を出た。客がいない。中にはそれが確認したくて入っただけだった。


 酒場が面した道路の反対端まで行き、ハンマーを巨大化させる。ドア越しにその姿を見た店主がカウンターから駆け出そうと動き出す。遅い。ハンマーを振るう。石材、木材、ガラスの砕ける音と共に、店が灰燼と化した。


 ハンマーのサイズを戻した俺は、一仕事を終えて宿屋へ戻る。今回の依頼は密造酒を高級品と偽り捌く酒場の破壊。先ほどの店主が随分と荒稼ぎしていたらしい。依頼者は御者だった。弟が密造酒に騙され、命を落としたとのこと。対価として馬車の代金を無料にしてくれた。流浪の身には路銀の節約はありがたい。


 

 宿屋へ戻ると、俺の部屋の前でうずくまっている少女がいた。流れるような銀髪が美しく、フリフリの、いわゆるゴスロリ的な白黒のドレスを身に着けている。金のかかりそうな服で、商家の娘か、貴族だろうと思った。


 体調が悪いのかと思い、声をかける。日本で同じことをすれば、間違いなく下心を疑われ、最悪通報されるかもしれない。

 だが、少女の答えは俺の予想とは違っていた。

 

「御高名なイチロウ様とお見受けいたします。どうかわたくしの依頼を受けてくださいませんでしょうか」


 どうやら少女はうずくまっているのではなく俺に土下座をしているようだった。安宿に似合わない身なりが、異質さを際立たせている。俺の依頼者は弱者に限る。俺を知っているということは、その情報も得ているはずだ。


「まずは事情を聞かせてくれ。俺の部屋……は良くないな。食事のついでで良ければ、レストランで話を聞こう」


「ありがとうございます。是非ご一緒させていただきます」


 深々と、それこそ額を床板へこすりつけるほどに頭を下げる銀髪美少女。


 今まで土下座をされたのは一度二度ではないが、その中でもかなり必死さを伺える態度だ。


 こんなに金のありそうな娘が、何を俺に頼むことがあるのか。不思議に思いながら、少女と一緒にレストランへ向かった。


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