第10話 お父さん

 なんだろう、今日は我が家の女性陣と猫達の様子がいつもと違う気がする。

 それは、帰宅直後から感じ始めたことだった。


「にゃーん」

「おっ、チャーコ、ただいま」

 三匹さんにんの内、唯一俺にすり寄ってくれるチャーコ。

「あ、お父さん、お帰り!」

「あぁ、ユキナ、ただいま……」

「チャーコ、一緒に遊ぼう!」

 次女ユキナは、まるで攫うように俺にすり寄ってきたチャーコを抱えると、階段を登って行ってしまう。

「俺には、癒やしの存在は与えられないのだろうか……」

 心に隙間風を感じつつ、俺はダイニングへと向かった。

 そこには、ソファでくつろぐ長女サツキと、サツキにべったりくっついて幸せそうな表情かおをしているサバオがいる。

 ……なぜだろう、なぜか少し……ほんの少しだけど、イラッとしたのは……

「疲れてるんだな、俺……」

 鞄を置き上着を脱いだ俺は、妻の桜子を見る。

「お帰りなさい」

「うん、ただいま……」

 俺は固まった笑顔を浮かべる。

 いつも以上に妻の足元にすり寄っている、キジタローの姿が目に入ったからだ。

「なんなんだ、今日は……」

「なんなんでしょうね……キジタロー、なんだか今日はとても甘えん坊さんなのよ」

 言う妻は、とても嬉しそうだ。くそう。

 俺はキジタローに嫉妬しているのか、妻に嫉妬しているのか。いや、どちらも正解な気がする。

 俺は複雑な気持ちで、冷えた缶ビールのプルタブを開けたのだった。

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こっち向いてニャン! 鹿嶋 雲丹 @uni888

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