第9話 はじめまして!へんたいのおにーさん!

「お兄さんってお友達少ないの?」


「いきなり何を言い出すんだ?」


 いつも通り俺の部屋でゴロゴロしていた彩音が唐突にそんなことを言い出した。


「だってお兄さんのお友達って瀬奈お姉さん達しか見たことないし」


「まああいつらと連んでることが多いが…」


 だからと言ってあいつらしか友達がいないって訳ではない。


「前に王様ゲームの話をしただろ?氷上や夏川以外にだって一緒にバカなことする友人くらいいるわ」


 バカしかいないとも言う。


「そっかー」


 そう言って俺のベッドの上で漫画を読み始めた彩音を見てふと気付く。


「そう言う彩音は友達いるのか?お前の友達を見た覚えがないけど」


 しょっちゅうウチに遊びに来ていているのはもしかして友達がいないからではなかろうか?もしかして氷上と同じでボッチ?


「なにおう⁉︎私は瀬奈お姉さんと違ってちゃんと友達いるもん!」


 彩音の交友関係を心配していると返ってきたのはそんな言葉。分かったから氷上をディスるのはやめてやれ。


 適当に彩音を宥めていると俺が信じてないとでも思ったのか彩音は立ち上がって宣言した。


「今度お友達を連れてきて私がボッチじゃないって証明してあげる!」


「はいはい」


 別に疑っている訳ではないが、彩音の気が済むならそれでいいか。




________________________________




 そんなことがあった後日、彩音が友達を連れてウチに来た。今更だけど初対面の小学生を家に連れ込むなんてヤバくない?その子もよく来たな。


「お邪魔しまーす!お兄さーん!友達連れてきたよー!」


「おじゃましますのです!」


 ドアを開けると彩音と初めて見る子がそこにいた。


「この子が友達の緑川小唄ちゃん!可愛いでしょ?」


 彩音が紹介した子はクリクリした大きめの目が印象的な可愛らしい子だ。


「はじめまして!へんたいのおにーさん!」


 小唄ちゃんは笑顔でそんなことを宣った。


「はぁ…はぁ…お嬢ちゃん、今どんなパンツ履いてるの?」


「本当にへんたいさんなのですっ⁉︎」


 初対面からブチかましてきたからノッてやったらこの反応である。なんとなくアホの子臭がする子だな。


「そっちが先に言い出したんだろうが。ちなみになんでそんなこと言ったんだ?」


「彩音ちゃんがおにーさんはへんたいだから気を付けろって言ってました」


「彩音は後で説教な。とりあえず中へどうぞ」


 言い訳をしてる彩音を無視して家の中へ入れる。


「んで友達を連れてきたはいいがこの後どうするんだ?ゲームでもするようなら部屋から持ってくるけど」


 流石に初対面の小学生女子を部屋に入れるのはマズいだろう。頻繁に部屋に遊びに来る小学生女子がいるけどそこは無視する。


「えー?わざわざ持って来なくてもお兄さんの部屋で遊べばいいじゃん?」


「お前は気にしないだろうが小唄ちゃんは初対面の男の部屋なんて抵抗があるだろ?」


「そんなことはないのです!むしろ男の人の部屋に興味があるのです!」


 気を遣ったつもりだが何故かノリノリだった。


「ならいいけど。彩音、案内してやってくれ。俺はお茶やお菓子持ってくから」


「分かった!行こ、小唄ちゃん!」


「突撃おにーさんのお部屋なのです!」


 バタバタと騒ぎながら階段を登っていく小学生二人。子供は元気だなぁ…。世間一般的には自分もまだ子供なのを棚に上げてお茶を用意する。


 適当に選んだ菓子と一緒にお盆に乗せて運び、部屋の扉を開ける。


「むぅ…男の人はベッドの下にエッチな本を隠していると聞いたのですが何もないのです」


「私も探したことあるけど見つけれなかったんだよねー。お兄さんのお友達が言うにはパソコンの中だってー」


「おとうさんはベッドの下に隠してましたがおにーさんはそちらでしたか。早速見てみるのです」


 そう言ってパソコンを立ち上げる小学生二人。


「むっ!ロックが掛けてあります。彩音ちゃんはパスワード分かります?」


「分かんない。とりあえず適当に入力してみよっかー。…I love AYANEっと。ダメかー」


「I love KOUTA。これでもダメですか…。ちょこざいなのです」


 そんなパスワードにする訳ないだろ。特に小唄ちゃんは今日初めて出会ったんですが?


「そこまでにしろロリ二人。人の部屋で何を探してやがる」


「男の人の部屋に入ったらエロいものを探すのが常識と聞いたのです」


「そんな常識はない」


 どこでそんなことを聞いたんだ。やっぱりアホの子だなこの子。呆れながらお茶とお菓子をテーブルに置くと二人は部屋を漁るのをやめてこちらにやってきた。


「お兄さん、今日のおやつはなにー?」


「ケーキ。好きなの選んでいいぞ。ティラミス以外なら」


「私はティラミスー!」


「話聞いてた?」


 俺の言葉を無視してティラミスに手を伸ばす彩音の腕を掴む。


「離してよ、お兄さん。好きなの選んでいいんでしょ?」


「ティラミス以外ならって言っただろうが。お子様はお子様らしく甘ったるいショートケーキでも食ってろ」


「お子様がティラミスを食べてもいいでしょ!お兄さんも大人気ないよ!こう言う時はお子様が優先的に選ぶものでしょ⁉︎」


「普段は子供扱いすると怒るくせに都合の良い時だけ子供になろうとするな」


 そう言ってギャーギャー騒ぎながらティラミスを取り合う俺と彩音。


「お菓子を取り合って喧嘩するなんて本当の兄妹みたいなのです」


 チョコレートケーキを食べながら小唄が呟いた言葉は真剣な顔でジャンケンをしている二人の耳には届かなかった。






「ティラミスおいしー!」


「くっ…俺はなぜあそこでグーを出した…」


 俺の繰り出したグーを彩音の出したパーに粉砕され、ティラミスは彩音の物となった。ああ…俺のティラミス…。


「ケーキ一つで騒ぎ過ぎなのです」


 チーズケーキを食べながら小唄ちゃんが呆れたように言ってくる。ほっとけ。


 ところで君さっきまでチョコレートケーキ食べてなかった?もう二つ目かよ。


「お兄さんがジャンケンに負けたのが悪いんじゃーん。ざぁ〜こ!ざぁ〜こ!」


「唐突なメスガキムーブはやめろ。わからせられたいのか?」


「わからせ…?」


 意味が分からなかったのか小唄ちゃんが首を傾げている。知らないなら知らないほうがいいよ。


 溜め息を吐きつつミルクレープを箱から取り出す。


「あっ!ミルクレープ!お兄さん、一口ちょうだい!」


「ふざけんな」


 俺からティラミスを奪っておいてさらに俺から奪おうというのか!


「ねぇー、一口ちょうだい!ねえってばー!」


 駄々をこねながら彩音が俺を揺すってくる。やめろ、食えないじゃないか。


「ティラミス一口あげるからさー」


 そう言って彩音がティラミスを刺したフォークを差し出してくる。


「しょうがないな」


 差し出されたティラミスを口に含み、彩音にミルクレープの乗った皿を渡そうと目を向ければそこには口を開いた彩音が。


「あーん」


「………」


 溜め息を吐きつつ一口分のミルクレープを食わせてやる。溜め息ばっか吐いてんな。


 その内俺の幸運が底をつくんじゃないかと思いつつミルクレープを食べていると小唄ちゃんが俺達を興味深そうに見ているのに気付いた。


「どうした?」


「いつもそんな感じなのです?彩音ちゃんがわがまま言ったり、甘えているのところなんて初めて見たのです」


「そうか?こいつってよくわがまま言うし、結構甘えん坊だぞ?学校じゃ違うのか?」


「学校じゃみんなを引っ張っていくタイプなのです」


「ほーん。こいつがねぇ…」


「………?」


 彩音に目を向けてみれば話を聞いていなかったのか、見つめられているのに気付いて首を傾げている。


「小唄ちゃんや、せっかくだから学校での彩音について教えてくれよ。もう一個ケーキやるから」


「私にお任せなのです」






「………と、まあこんなふうに彩音ちゃんはみんなに頼りにされ、男女共に人気なのです。モテモテなのです」


「ふーん。で?それ誰の話?」


「話聞いてました⁉︎彩音ちゃんの話なのです!」


 小唄ちゃんに彩音の学校での様子を聞いてみたら、わがままで甘えん坊の彩音がみんなに頼りにされるという。普段のこいつを見ていると信じ難い。猫でも被ってんのか?


「彩音ちゃんは優しくて面倒見が良いのです。だから頼りにされるんじゃないですかね?それに加えて明るく話しやすい上に可愛いからモテるのです」


「本人の目の前でそういう話をしないで欲しいんだけど…」


 目の前で自分の話をされている彩音は居心地悪そうにしている。まあ恥ずかしいわな。


「学校じゃモテモテらしいが誰かと付き合ったりしないのか?そもそも今の小学生って誰かと付き合ったりするもんなの?」


「小学生でも付き合う人達はいるのです。彩音ちゃんは告白されても断ってて誰とも付き合っていないのです」


「ふーん。まあ誰かと付き合ってたら頻繁にウチに来ないか。気に入る奴はいなかったのか?」


「えー?だってみんな子供っぽいんだもん。私の気を引く為にちょっかい出してきたりさー。それで適当にあしらうとすぐ不貞腐れるし」


「私もされたことあるのです。逆効果だと分からないんですかね?やたらと自分はすごいってアピールしてくるのも鬱陶しいのです」


「だよねー。まあ男子はそんなんらしいけど」


「私も聞いたことあるのです。好きな子に意地悪するのはよくあることらしいのです。そういうものだと割り切るべきなのですかね?」


「お前ら…」


 素直になれない男子の精一杯のアピールは逆効果の模様。女子の方が早熟だと言うが同い年の男子を子供扱いしてる…。


 擁護してやるかと考えるも小学生当時の俺は遊ぶことしか考えていないお子様だったと気付いた。異性を意識してる分、その子達の方がマシじゃね?


「それに私は昔からよくお兄さんと一緒にいたからねー。尚更同級生が子供に見える」


 そう言って彩音が甘えるように擦り寄ってくる。


「あー……年上と普段から一緒にいればそうなるか」


 腕に頬擦りしている彩音の頭を逆の手で撫でてやりながらそう零す。すまん、彩音の同級生諸君。早く精神的に成長してくれ。


「なるほど、彩音ちゃんは昔から同級生のことを子供っぽいって言ってましたが、普段から年上のおにーさんに甘やかされていれば同級生は子供にしか見えないのも納得なのです」


 俺達の様子を見ていた小唄ちゃんがそんなことを言うが、割と君も同級生を子供だと思ってるよね?


 

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