第8話 シュレディンガーのパンツ

「じゃあ早速やろう!」


 そう言って笑顔でクジを差し出す彩音。いつの間に作ったんだ…。


「つーか今の話を聞いてやろうとするのか…」


 普通やめようと思わない?


「まあいいんじゃないですか?」


「流石に過激なのは困るけど…お手柔らかにね?」


 以外にも氷上や吉崎は乗り気だ。マジかよ。


「まあ男子だけでやった時より酷いことにはならないだろ。ならないよね?」


 夏川が若干不安そうに言う。こいつらがどんな命令をするか想像がつかん。


「「「「「王様だーれだ?」」」」」


 なるようになーれ。







「私が王様ですか」


 最初に王様になったのは氷上。ちなみに俺は一番。


「最初ですから軽いものにしましょうか。二番が四番にデコピンしてください」


「ほんとに軽いな。四番は俺だ!さあバッチこい!」


 そう言って手を広げる夏川。テンション高え…。


「私が二番!いくよー?」


 ピシッ!


「ふっ、このくらいどうってことないな」


「デコピンなんかそんなもんだろ」


 デコピンしたの彩音だし。小学生女子のデコピンなんか大した威力もないだろ。


「軽過ぎましたかね?次はもう少し攻めてみましょうか」


「これくらいでいいんじゃない?自分に当たった時が怖いし」


 軽過ぎたかと次を考える氷上にこのくらいでいいと言う吉崎。平和だ…。男だけでやった時に比べて圧倒的に平和。どうかこの平和が続きますように…。






「私が王様!」


 そう言って彩音がクジを掲げた。彩音が王様か。


「それじゃあ一番が三番に…」


「あっ、三番は俺だ」


「ビンタ!」


「へぶっ!」


 フライング気味に自分の番号を明かした俺に一番だったらしい氷上のビンタが炸裂した。


「マジ痛え…。容赦ないなお前ら」


 命令した彩音もだが実行した氷上も少しは躊躇えよ。


「すみません。私もやりたくはなかったんですが王様の命令には逆らえなくて…」


「その割にはノータイムで来なかったか?」


「じゃあ、くっ!私の右手が勝手に…⁉︎」


「じゃあって言ってんじゃねぇか」


 くっ!鎮まれ私の右腕!って右腕を押さえながら三文芝居をしている氷上に呆れる。そもそもお前は左利きでビンタしたのも左手だろうが。


「女の子にはたかれるなんてお兄さんにはご褒美じゃないのー?」


「そうなんですか?なら感謝してくれてもいいんですよ?」


「こいつら…」


 いいぜ、そっちがその気ならやってやる。やはり人は争わずにはいられないらしい。


 平和?なにそれ美味しいの?(手のひら返し)


「あはは…平和って続かないね…」


 吉崎よ、世の中なんてそんなものだ。






「ははは!こんなに早く仕返しの機会がくるとはな!覚悟しろよ!」


 次に王様になったのは俺。これは天が俺に仕返しをしろと言っているのではないだろうか?


「大袈裟過ぎじゃない?それに狙い打ちできるとは限らないし…」


 吉崎がなんか言ってるが無視。


「一番!今日のパンツの色は⁉︎」


「流石ブラザー!躊躇なくセクハラを敢行するとは…!そこに痺れる!憧れる〜!」


 よしっ!その反応ってことは夏川ではないな!さあ誰だ!


「私ですね、白です」


 俺がワクワクしていると氷上が躊躇うこともなくそう言った。


「瀬奈ちゃん⁉︎少しは躊躇おうよ⁉︎」


「色くらいならまあ…。別に実際に見せる訳ではありませんし、それに私が言ったことも実際に見てみないと本当かどうか分からないでしょう?」


「ええ…」


 命令した俺が言うのもなんだがそれでいいのか?堂々とし過ぎである。恥じらいが足りない。


「確かに実際に見てみないと分からない…!氷上は白と言ったが本当は水色やピンクのような淡い色かもしれないし、赤や黒のような過激な色かもしれない!もしかしたら履いてないなんてことも⁉︎だが確認してみないと分からない!まさにシュレディンガーのパンツ…!」


 夏川がバカなこと言いだした。物理学者に戦争を仕掛けられるぞ。








「フッフッフッ!来たぞオレの時代!」


 次に王様になったのは夏川。テンションが高い。あとその笑い方はどこぞの41歳を思い出すからやめておけ。


「ブラザーがハードルを下げてくれたからな!俺はさらに攻める!俺は色だけじゃあ満足しねぇ!三番!今日の上下の下着の色形はどんなのだ⁈」


 夏川がそう高らかに命令する。今回の三番は…。


「下はグレーのボクサーパンツだ。上は……着けてません☆」


「ハルかよっ‼︎」


 そう叫んでクジを床に叩き付ける夏川。女性陣から白い目で見られている。そう、三番は俺だった。


「俺でよかったじゃないか。色を聞いた俺が言うのもなんだが俺以外に当たってたらセクハラでぶん殴られるぞ」


「だって色だけじゃあどんなの履いてるか想像し辛いし…」


「流石にその発言はドン引きだよ…」


「セクハラで訴えますよ?」


 項垂れている夏川を吉崎と氷上がゴミを見るような目で見ている。夏川の言うことに納得したのは内緒。


 




 実は俺に当たって残念だなんて思っていない。








「オレが王様だ!二番と三番がポッキーゲーム!」


 次に王様になったのは再び夏川。その命令は定番と言えば定番のポッキーゲーム。俺は一番だからハズレ。別に残念だなんて思ってない。(二回目)


「二番は私だね…」


「三番は私ですね」


 二番が吉崎、三番が氷上か。これは…


「キマシッ!」


「ナイススナイプだオレ!」


 テンションが上がる俺と夏川。百合の花が見られるぜ!


「……しょうがないからやろっか、瀬奈ちゃん」


「そうですね」


 そう言ってポッキーを咥える二人。


「………」パシャシャシャシャシャシャ!


「………」●REC


「ちょっ⁉︎何撮ってるの⁉︎」


「あっ!咥えたばかりで離すなよ!」


 スマホで連写と録画をする俺達に気付いて吉崎がすぐに口を離しやがった。


「もう終わり!一応咥えたんだからいいでしょ⁉︎」


「ちっ、何cmまで近づくって指定するべきだったか。まあ良い動画や写真が撮れたから良しとしよう」


「消してっ!」




 




「四番が一番に膝枕。恋人みたいなセリフも付けて」


 次に王様になったのは氷上。


「ふふふ、たまにはこうやって甘えるのも悪くないかな」


「まったく…男の膝枕なんて大して寝心地良くないだろ。女に比べて固いだろうし」


「ハルにしてもらってるっていうのが大事なんだよ。それにこれはこれで悪くない」


 そう言って俺の膝に頭を乗せている奴がこちらを向く。そいつは何かを堪えるような表情をしてるが俺も同じだろう。







「そうかよ。なら好きにしろ………夏川」





 そう、俺が膝枕をしていたのは夏川だ。


「オレ、密かに膝枕に憧れてたんだけど……泣きそう。つーか吐きそう……」


「こっちのセリフだ。何が悲しくて男に膝枕してやらなきゃならん」


 地味に口調も変えやがって。


「くふふ、最高ですよ先輩達」


「………」


「お兄さん、後で私にもしてー」


 王様は愉快そうに笑っている。クーデター起こすぞ。何故か吉崎は無言でガン見している。あと夏川はもう起き上がれよ。


「……なんかこれはこれでいい気がしてきた」


「おいバカやめろ」


 そんなに膝枕が好きなら彼女でもつくってしてもらえ。


「ホモォ…」


「………」


「やめろ。いやほんとやめて下さい」


 愉快そうに笑ってた氷上が表情を変えて引いている。吉崎は相変わらずガン見だが何故か頬が赤くなってきている。


「もう終わりだ終わり」


「いでっ」


 そう言って夏川の頭を膝から叩き落とす。


「あっ…」


 吉崎が残念そうな声を上げた気がするが俺は何も見てないし聞いていない。目覚めてないよね?


「にゃー」


 空いた膝に頭を乗せてじゃれついてくる彩音の頭を撫でながら俺は吉崎から目を逸らした。


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