「私」の報告記録(2023/04/17)

(性的表現がある為、念のため閲覧注意)


 J先生との接触から、私がオクト研究に協力するようになって、そろそろ約一カ月。

 私の協力スタンスもある程度固まって来た。


 まず、当初の予定通りJ先生やMがオクトについて記録したものを、日誌やメール、論文問わずに私が独断で編集し、インターネットで社会と共有すること。

 そして、私自身はオクト研究に直接の参加は極力しないことだ。オクトとの会話にも、正直なところ興味がないわけではない。寧ろ、興味津々だ。間接的にしか関われないというのはもどかしい。また、オクトからの交信の結果のようなものが私の身の回りにも起きていることは、一抹の恐怖を生活の中に与えている。


 昨夜も、Mに報告すべきと感じる経験をした。

 いつものようにMから送られて来たデータを「小説」の形に編集しているその最中だ。

 夜に体調不良を感じ、体温を測ると37.7℃の発熱。私は市販の頭痛薬を飲み、その夜は解熱したが、そのまま眠りにつくとその日、印象的な夢を見た。


 夢の中で私は全裸であり、椅子に座っていた。

 下半身に違和感を覚えて見ると、陰茎が膝の先程までに肥大し、緑色に変色していた。私はギョッとしてその場から離れようとしたが、身体が動かない。

 何とか椅子から立ち上がると、足下から二匹の百足のような虫が私の股間に目掛けて這い上がって来た。

 二匹の百足で這い上がる間も、陰茎は見ている内に肥大したと思うと、射精した。快楽物質が脳内に回ってくる感覚を覚える。

 萎えた陰茎は、萎んではいるものの変色したままであり、這い上がって来た百足の一匹が、陰茎の先端に触れた。


 私は悲鳴を上げた。すると私の身体はいつものように布団の上である。夢から覚めたのだと思い、汗で冷たさを感じる身体に嫌悪感を覚えて起きあがろうとしたが、無理だった。

 まるで身体全身に重りをつけられているような感覚。世に言う「金縛り」現象であることに気付いた。

 「金縛り」は科学的にも理由のつけられる心霊現象の一つである。その為、私も焦ることなく目を瞑ろうとしたのだが、何かがズシリと腹の上に乗る重みを感じた。

 一瞬、同居人かと思ったが、私が目を開けるとそこに居たのは目の虚ろな、一人の少女だった。

 その少女の顔には見覚えがあり、高校時代の友人の一人であることを、すぐに確信した。だが、これもまた疲労や体調不良の時にはよくあるとされる夢である。

 もう付き合いすらない古い友人やかつての同僚が夢に出てくることは珍しくない。

 その時には、彼女が古い友人であるという意識などは特になく、彼女がそのまま身体全身に覆い被さってくることにも特に違和感を覚えなかった。

 気付けば既に朝になっており、スマホからアラームも鳴っていた。私はアラームを消し、今度こそ起き上がった。「金縛り」時に感じた汗の感覚はなかったが、下半身に粘ついたものを感じた。どうやら夢精していたようだった。

 性的な夢を見た後に起きると射精している、というのも決して珍しい現象ではない。

 私は特に思うことなく、下着を着替え、シャワーを浴びて仕事に向かい、一日を過ごしたが、仕事終わりにスマホを触っている際に、覚えのない録音データが記録されていることに気付いた。

 あまり褒められたことではないが、オクト研究への協力を続けている中でもう慣れてしまった為、これも特に躊躇することなく、スマホにイヤホンを付けて再生をした。

 またいつもの、オクトからの交信による男児の声の音声記録かと思ったが、少し様子が違った。

 記録されているのは、女性の声だった。私の覚えていた、夢に見たあの高校時代の友人の声と似ていた。

 笑い声と「しーね、しーね、しーね」の連呼であるのは変わらないが、録音の最後に確かに「楽しいね」と発音する男性の声が聞こえた時には背筋に悪寒を覚えた。

 その声は、私の声に似ていた。というより、録音された私の声そのままであった。


 録音時間を見ると「月曜日 03:33」とある。それが「金縛り」時の時間と合致することに気付き、私は昨日の一連の流れを早速Mに報告したところ。耳につけたままにしていたイヤホンから声が流れて来た。

 その声はまたしても「しーね」と一言つぶやいていた。



(音声データ内容文字起こし 月曜日 03:33 927秒)


女性の声:……しーね。……しーね。……しーね。うふふふ。はは。あはは。ふふ。しーね。しー。ねーしねしー。しーね。しーね。


(124秒 ノイズ)

(その後、喘ぎ声。324秒)


女性の声:うふ。ふふ。しーね。……しーね。ふふ。うふふふ。あはは。はは。ふふふ。


(333秒 ノイズ)


女性の声:しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。しーね。


男性の声:楽しいね。

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