Mのメール(2023/04/03)

from : M・M

**********@*****.ne.jp

to : ****.***@**.ne.jp

CC : ************@gmail.com , ***********@******.ne.jp , ************@******.co.jp


 メールでの連絡を失礼する。

 昨夜のSとのこと、聞いたよ。やはり音声通話のような直接的過ぎるやり取りでは、外部にいるKとの連絡は不可能な部分が大きいようだ。

 初日にJ先生に直接会った時もそうだけど、Kとのコンタクトを取ると必ずオクトの影響と思われる録音データがKのスマホに残されているのも興味深いけど、Kを危険に合わせたいわけじゃない。

 今後は出来る限り、メールやメッセージアプリでのやり取りを中心とさせてもらう。君とオクトを会話させることが難しそうなのは残念だけど、君とのやり取りの目的は、僕らの研究を外部にフィクショナルなものとしてでも良いから記録を残すことだ。わざとらしくね。

 でもせっかくだし、今度オクト関係なく酒でも飲もう。Sも一緒に。そのくらいなら、オクトも許してくれると思うよ。


 因みに、今回も前回と同様にCCを付けているんだけど、これは送られていないと思う。前回、メールが送られてきたかどうかだけを各送り先に対し、事務的に確認を取ったんだけど「送られていない」と返事をもらったから。

 ただ、一応今回もCCはつけておく。これでまたメールが先方に送られなければ、それはもうそういうことだと諦める他ない。


 J先生に、量子乱数発生装置による実験を提案したが、没にされた。トンネル効果を利用した乱数発生装置によってオクトの近くで乱数を発生させれば、確かに偏りは見られる可能性は高いが、それがオクトによるものと証明はできないし、たとえできたとしても結局そんなデータは外部に発信することは不可能だから無意味ないし効果が薄いとのことだった。なるほど、確かにもっともな意見なので言う通りに、実験は行わないことにした。

 実際、乱数発生装置による偏りが科学的に有意なものと認められたことはほぼない、というかゼロと言って良い。こればかりはオカルト的与太話に首を突っ込み過ぎた弊害だね。

 オクトはそこにいるんだから、仕方ないんだけど。僕の同居している幽霊と一緒だ。

 確かにそこに存在しているって僕が思ったところで、それを証明する手段は何もない。超常存在をどう記録するのか、そのアプローチを未だ科学では答えを得られていないのが現状だ。

 だからこそ、僕のような、運良く超常存在と出会うことの出来た人間にとって、その方法を模索することは一つの使命だと感じている。その気持ちは今も変わることがない。ただ、Kはこの話嫌いだったね。今でもそうなのかな。


 乱数発生装置で思い出したけど、M大学のI先生にもコンタクトを取ってみた。そう、あのI先生。

 結果から言うと、ダメだった。

 データの送信どころか、メールも電話も無理。Kとコンタクトを取った時みたいに、偽の理由をでっち上げてもいいんだけど、流石にね。どうすれば僕らの研究をI先生のような人に伝えられるかは模索したいところだ。Kもできたら考えといてよ。


 で、本題。

 I先生は無理だったけど、雑誌の取材を取り付けた。本当は君も呼ぶつもりだったんだけど、昨日のことがあるから、取材の様子を録音するに留めておこうと思う。

 因みに、今回のメールにも添付データがあるけど、それはあれね、昨日Sが言ってたやつ。

 あれはホントに怖かったよ。流石の僕も「ヤバいな」と思った。それで今度はSに記録を取ってもらうように頼んだんだけど、拒否されてさ。僕もこれに関して無理強いは出来ないから、仕方ないけど。


 また連絡する。よろしく。



(添付データ:M・S・オクト)


M:では話を始めます。よろしくお願いします。

S:よろしくお願いします。

O:よろしくお願いします。

M:口述記録で直接会話を打ち込むから、できるだけハッキリした発音でお願いします。

S:わかりました。

O:わかりました。

M:じゃあまず簡単なところから始めようかな。二人の好きな食べ物は何?

S:焼きそばですかね。

O:リンゴです。

M:オクトはリンゴ好きだね。

O:食べられませんが。

S:ご飯はおいしいね。

M:うん? 美味しいね?

S:特に肩の骨がおいしいね。

O:私もそう思います。

M:何の話?

O:僕の頭はこんがらがったよ。

S:あ、でもあの時のテストは100点でしたよ。

O:二人ともごめん。僕は今からちょっと出かけなくちゃならないんだ。ごめんね。また後で会おうね。

M:どこに? まだ始まったばかりだよ?

O:いや、今日は行かないことにしよう。さようなら。

S:さようなら。

O:あーあ。今日も疲れたよ。

S:もう、いい加減にして。

M:何のこと。

S:あっ!そうか!そういうことだったのか!

M:うわ。びっくりした。急に何。

S:おい! 誰か来てくれ! 助けて!

O:うぐぅ。

S:くそぉ。あいつめ。

M:ふざけないで。

S:お兄ちゃん!お兄ちゃんってば!!しっかりしてよ!

O:あれ? 君は誰だい?

S:お兄ちゃん、死んじゃダメだよ! 私を一人ぼっちにしちゃ嫌!

O:大丈夫。死なないよ。

S:嘘つきいいいい!

O:痛いです。


(ノイズ12秒)

(その間、Sは何かがツボに入ったように笑う)


S:好きな食べ物はメロンですね。

O:みんなでリンゴを食べましょう。

M:わかった。

S:メロンを食べに帰りましょう。

O:帰りましょう、みんなで。あそこへ。

S:うん!

M:わかった! 中止! 中止! 一回、記録止める!


(音声入力記録停止)

(オクトとの交信用機材をシャットダウン)

(S、話しかけても応答なし)

(M、一度部屋から離席)

(Jを呼び、およそ6分52秒後、部屋に戻る)

(S、Mが扉を開けるなり「おかえりなさい」と応答。スマホゲームをプレイしていたらしい。特に異常なところはなし)

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