第6話

7月1日の午前11時半頃であった。


房江ふさえの家族が暮らしている家に房江ふさえの兄・涌井吉兵衛わくいきちべえ華代はなよと夫婦の息子・基次もとつぐ(42歳)と基晴もとはる(40歳)と吉兵衛きちべえのオイゴ・森野勝もりのまさる(32歳)とまさるの婚約者・仁村華保にむらかほ(30歳)の6人がやって来た。


大広間に6人と房江ふさえの7人がいた。


起史たつし房代ふさよは、家に不在であった。


テーブルの上には、近所にある料亭で注文したひつまぶし重の特上セットが並んでいた。


房江ふさえは、ものすごく困った表情で華代はなよにわびた。


ねえさんごめんなさい…起史たつしは勤務日だから仕方ないけど、房代ふさよが料理を作らないと言うて家から出ていったのでものすごく困っているのよ…」


華代はなよは、やさしい声で房江ふさえに言うた。


「いいのよいいのよ…ねえあなた…」


華代はなよが言うた言葉に対して、吉兵衛きちべえは『ああ、かまんかまん…』とやる気のない声で答えた。


華代はなよは、かどにやさしい声でまさるに言うた。


まさる房江ふさえおばさんに話したいことがあるのよね…」

「(ものすごくいい子の表情で)あっ、はい。」


まさるは、ものすごくいい子の表情で房江ふさえに言うた。


「あの〜、おばさま…紹介します…仁村華保にむらかほさんです。」


華保かほは、房江ふさえに対してほほえみでごあいさつをかわした。


「初めまして…仁村華保にむらかほです。」


このあと、まさる房江ふさえに対してプロポーズのOKをもらったと伝えた。


房江ふさえは、満面の笑みで言うた。


「まあ、プロポーズのOKをもらえたのね…よかったわね…」

「ありがとうございます…ぼく…これで家庭を持つことができました。」


まさるは、希望に満ちあふれた表情で房江ふさえに話した。


近くで聞いていた基次もとつぐ基晴もとはるは、ものすごくいらついた表情を浮かべていたが、怒りたい気持ちを必死にガマンしていた。


同じ頃であった。


房代ふさよは、名古屋市中心部にあるテナントビルの中にあるノッツェ(結婚相談店)にいた。


自分ひとりだけの力で結婚相手を探すと訣意けついした房代ふさよは、この日ノッツェに会員登録とうろくした。


会員登録とうろくを済ませたあと、早速コンカツを開始した。


じっと動かずに出会いの機会を待つのはものすごくイヤ!!


うちの結婚は、うちひとりの問題よ!!


うちひとりの力で結婚相手を見つける…


周囲まわりからカンショーされるのは、ものすごくイヤ!!


またところ変わって、有松のイオンタウン内にある大垣共立銀行の店舗にて…


起史たつしは、ものすごくいらついた表情でデスクワークに取り組んでいた。


この日、出勤する予定だった女性従業員が『カレシが予約入れたから…』と言うて勝手に休んだ。


そのために、起史たつしが急きょ出勤した。


起史たつしは、勝手に休んだ女性従業員がたくさん残した仕事の後かたづけに取り組んでいた。


この時、起史たつしのもとに上の人が大きめのふうとうを持ってやって来た。


上の人は、ものすごくもうしわけない表情で起史たつしに言うた。


起史たつしさん。」

「(ものすごくいらついた声で)なんでしょうか?」

「ひとつたのみたいことがあるけどかまん?」

「はい…」

「昼前ですまんけど、この書類を大豊たいほうそめ物に届けてくれるかな?」

「はっ、かしこまりました。」

「すまんねえ…」


上の人から大きめのふうとうを受け取った起史たつしは、デスクからたったあとおつかいに出ようとした。


この時、上の人が起史たつしを呼び止めた。


起史たつしさん。」

「なんでしょうか?」

「もうひとつ、たのみたいことがあるけどかまん?」

「もうひとつたのみたいことって、なんでしょうか?」

「話は、来年の4月1日からのことだけど…」

「来年の話?」

「ああ…来年の4月1日から…大垣ほんてんに勤務している片岡くんが育休に入ることが決まったのだよ。」

「育休?」

「せや。」

「おかしいですよ…」

「なにがおかしいねん。」

「男性従業員さんが育休を取ること自体がおかしいですよ。」

「おかしくないよ。」

「絶対におかしいです!!」


上の人は、ものすごく困った声で言うた。


「せやから、来年の3月に出産する予定の奥さまが育休を取れないから、ピンチヒッターで片岡くんが…」

「課長、もういいでしょ…」

起史たつしさん。」

「だからどうしろと言うのですか!?」

大垣ほんてんの人が起史たつしさんに来てくれといよんや!!」

「だから、なんで大垣ほんてんに来てくれと言うのですか!?」

「片岡くんは、札束を数えるのが早いのだよ…大垣ほんてんの人は仕事が早い人に来てほしいといよんや…片岡くんの一番上のお子さんが来年小学5年生になるのだよ…今は児童クラブにいるけど、クラブのホーシンで…」

「用は、出ていけと言われたのでしょ…もういいでしょ…書面を届けてまいります…」


上の人は、起史たつしに対して『まだつづきがあるのだよ…』と言うて止めようとした。


(ガーン!!)


「ああああああああああああああああああああああああ!!」


思い切りブチ切れた起史たつしは、上の人の右足を思い切りふみつけたあと店舗から出た。


(ピーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)


7月2日から7日の間も、起史たつし中村区なかむらの家と有松の職場の間を地下鉄と名鉄を乗り継いで往復していた。


起史たつしは、通勤電車でんしゃの中でいちゃついている若いカップルさんたちを見るたびにものすごくいらついた。


オレは、1日も休まずにひたすらガマンしてがんばっているのに…


通勤電車でんしゃの中で若いカップルがイチャイチャしている…


あれ見るたびに…


ホンマに腹立つわ…


男の39歳と40歳はちがうと周囲まわりがいよったけど…


それはどう違うと言いたいのだ…


40歳以上の男が結婚したらいかんと言う法律きまりごとでもあるのか…


ふざけるな!!


起史たつしは、名鉄有松駅につくまでの間ひたすら腹を立てまくった。


7月8日の朝8時過ぎであった。


背広姿で黒の手提げかばんを持っている起史たつしは、大急ぎで家から出ようとした。


この時、起史たつし房江ふさえに止められた。


起史たつし。」

「なんだよ~…」

「どこへ行くのよ~」

「これから出勤するのだよ!!」

「困るわよ…」

「なにが困るのだよ!!」

「きょうは、半田のおじさんがうちに来るのよ…」

「オレは勤務日だから有松へ行くのだよ!!」

「きょう1日だけ休んでよ〜」

「なんで休めと言うのだ!!」

「半田のおじさんがものすごく困っているのよ…おかーさんが職場に電話しておくから…きょう1日だけ休んでよ~」


房江ふさえから休んでくれと言われた起史たつしは、ものすごくひねた表情で『分かった…休む!!』と言うた。


房江ふさえは、職場に電話をかけて『1日だけ休ませてください…』と頼んだ。


その日の昼前のことであった。


家に吉兵衛きちべえ華代はなよの夫婦と基次もとつぐ・基晴とまさるがやって来た。


家の広間のテーブルに、5人と房江ふさえ起史たつし房代ふさよのあわせて8人が座っていた。


7月1日に、まさる房江ふさえに対して華保かほからOKをもらえたので結婚すると伝えた。


しかし、きのう(7月7日頃)になってまさるのツゴーが急に悪くなった。


まさるのツゴーが急に悪くなったことを聞いた吉兵衛きちべえがひどくオタオタした。


だから華代はなよは、房江ふさえに助けを求めた。


話は変わって…


やむなく勤めを休んだ起史たつしは、ものすごく怒った声で房江ふさえに言うた。


「オラオドレ!!なんとか言えよ!!なんとか言えよオラ!!」

起史たつし、そんなに怒らないでよ…」

「ふざけるな!!」


向かいに座っていた華代はなよは、過度にやさしい声で起史たつしに言うた。


起史たつし、ごめんね…」

「ふざけるな!!」

「ごめんね…」

「伯母さま!!」

「おばさんは、悪気があって休ませたのじゃないのよ…おじさんとおばさんがひどく困っているから…」

「ふざけるな!!頼みごと頼みごと頼みごと頼みごと頼みごと頼みごと頼みごと…あんたらはオレにどうしろと言いたいのだ!!」

「おじさんとおばさんは、起史たつしさんにしあわせになってほしいといよんよ~」

「ふざけるな!!」


起史たつしの怒りがよりひどくなったので、房江ふさえがひどくおたついた声で言うた。


起史たつし…おじさんとおばさんは起史たつしにチャンスを与えるといよんよ~」

「チャンスとはなんや!!」

「おじさんとおばさんは、起史たつしは今までずっとガマンしていたからしあわせなってもいいよって…」


この時、向かいに座っていた基次もとつぐ起史たつしに殴りかかった。


「オドレ起史クソバカ!!ぶっ殺してやる!!」

「なんやオドレ!!」


見かねた華代はなよは、泣きそうな声で基次もとつぐに言うた。


「ちょっとやめてよ!!なんで起史たつしに殴りかかるのよ!!」


基次もとつぐは、ものすごく怒った声で華代はなよに言うた。


起史たつしにしあわせになれと言うたから起史たつしを殺すんや!!」

「やめてよ!!」

「やかましい!!」


華代はなよは、必死になって基次もとつぐを止めた。


基次もとつぐに殴られそうになった起史たつしは、怒った声で言うた。


「ふざけるな!!なにがしあわせになれや!!まさるのツゴーが急に悪くなった理由がなんであるのかを説明しろ!!」


ものすごく困った表情を浮かべている房江ふさえは、まさるのツゴーが急に悪くなった理由を説明した。


まさるは、(プロポーズの)OKをもらえたけど…急にツゴーが悪くなったので結婚できなくなったのよ…」


房江ふさえからことの次第を聞いた起史たつしは、ものすごく怒った声でまさるを怒鳴りつけた。


「オドレクソバカ!!」

「ごめんなさい…」

クソバカ!!」


房江ふさえは、ものすごく困った声で言うた。


起史たつし!!」

「なんや!!」

「なんでまさるに八つ当たりするのよ~」

クソバカが逃げようとしたから怒鳴った!!」

「落ちついてよ~」

「ふざけるな!!」

まさるは、華保かほさんと挙式披露宴を挙げる準備を始めたばかりだったのよ…」

「だからどうして急にツゴーが悪くなったのだ!?」


華代はなよは、ものすごく困った声で説明した。


起史たつしさん、落ちついてよ~まさるは故意にツゴーが悪くなったといよんじゃないのよ…会社からテンキンしなさいと言われたのよ…」

「そんないいわけなんか通用しない!!」

まさる!!だまってないで説明してよ…おじさんとおばさんは困っているのよ…」

「分かりましたよ~」


まさるは、ものすごく困った表情で1枚の書面を出した。


書面は、言うまでもなくテンキンジレイ交付書であった。


まさるは、ジレイ交付書をテーブルの上に置いた。


ものすごく悔しい表情を浮かべていたまさるは、自分の口から理由を言うことができなかった。


なので、華代はなよまさるに代わって起史たつしに説明した。


まさるは…仙台の支店にテンキンになったのよ…」

「仙台の支店だと…ウソをつくな!!」

「ウソじゃないのよ!!まさるが勝手なことをしたので、後始末をするために仙台へテンキンしなさいと言われたのよ!!」


房江ふさえは、ものすごく困った声で華代はなよに聞いた。


「それで…後始末が完了するまでにどれくらいかかるのよ?」


華代はなよは、ものすごく困った声で答えた。


「そうね…15年前後…早くても5〜6年かかる…と思う…その間、華保かほさんは…」


それを聞いた起史たつしは、ものすごく怒った声で言うた。


「だからどうしろ言うのだ!?」


房江ふさえは、ものすごく困った表情で起史たつしに言うた。


「おばさんは、まさるのピンチヒッターで華保かほさんと結婚してほしいといよんよ…」

「ふざけるな!!」


(ガツーン!!)


思い切りブチ切れた起史たつしは、基次もとつぐのこめかみをグーで殴りつけた。


「なんやオドレ!!」

「ふざけるな基次クソバカ!!」

「オドレ起史ムシケラ!!ぶっ殺してやる!!」


思い切りブチ切れた起史たつし基次もとつぐが殴り合いの大ゲンカを繰り広げた。


「ワーッ!!」


(ガツーン!!ガツーン!!)


このあと、基晴もとはる吉兵衛きちべえのこめかみをグーで殴りつけた。


「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてーーーー!!」


房江ふさえは必死になって叫んだが、4人の耳に房江ふさえの声は聞こえていなかった。


まさる転勤サセンされたので、華保かほと結婚できなくなった…


華代はなよは、起史たつしに対してまさるに変わって華保かほをしあわせにしてほしいと頼んだ…


しかし、起史たつしは拒否した…


基次もとつぐ基晴もとはるは、吉兵衛きちべえ華代はなよのやり方が気に入らないので、起史たつしをボコボコに殴りつけた…


結局、起史たつし華保かほが結婚する話は立ち消えになった。


同時に、房江ふさえかたと吉兵衛きちべえかたの家の関係はより気まずくなった。

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