第3話

時は流れて…


6月23日の朝8時頃であった。


場所は、JR・名鉄・近鉄・地下鉄の名古屋駅ターミナルにて…


社内恋愛推進会社をやめた起史たつしは、有松ありまつで暮らしている房江ふさえ親類縁者しんるいの紹介で名鉄有松駅のすぐ近くにあるイオンタウンの中にある大垣共立銀行の支店に転職した。


1年ごとに更新する契約社員で、お給料は以前より少しだけど下がった。


お仕事は、5月8日から始めた。


起史たつしは、毎朝地下鉄東山線と名鉄本線の電車を乗り継いで通勤していた。


ダークブラックのスーツ姿で黒の手提げかばんを持っている起史たつしは、毎朝つらい表情を浮かべながら通勤していた。


4月に発生した深刻なもめごとが原因で、起史たつしの気持ちはひどくすさんでいた。


恋人を作って結婚したいと言う気持ちは、起史たつしの中に全くなかった。


(ピーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)


ところ変わって、名鉄本線を走る電車の中にて…


ダークブラックのスーツ姿で黒の手提げかばんを持っている起史たつしは、電車のつり革につかまった状態で立っていた。


毎朝、起史たつし通勤電車でんじゃの中で高校生同士・大学生同士・アルバイト従業員同士の若いカップルさんたちをたちををよく見かけた。


起史たつしは、若いカップルさんたちがラブラブモードになっているのを見るたびにいらだちをつのらせた。


そのたびに『なんで、自分は恋愛運が悪いのか…』と考えていた。


両親おやがじっと待てと言うからその通りにした…


それなのに、自分にふさわしいお相手に出会えなかった…


幸せな結婚の定義とはなんや…


ふざけるな!!


ところ変わって、有松のイオンタウン内にある大垣共立銀行の店舗にて…


ダークブラックのスーツ姿の起史たつしは、5月8日からずっと札束を数える仕事をしていた。


時は、午後3時半頃であった。


起史たつしが座っているデスクに上の人がヘラヘラわらいながらやって来た。


上の人は、ヘラヘラわらいながら起史たつしに言うた。


「ちょっと起史たつしさん〜」

「なんでしょうか?」

「忙しいところすまんけど、頼みごとを聞いてくれるかなァ〜」

「頼みごとって、なんでしょうか?」

「今月いっぱいでコトブキ(結婚退職)の根尾ねおくん(支店の男性従業員さん)の挙式披露宴のカンパを募ってるのだよ〜…いい?」


起史たつしは、ものすごくめんどくさい声で言うた。


「また従業員さんの結婚祝いですか〜」


上の人は、ヘラヘラわらいながら起史たつしに言うた。


「まあそう言わずに、少しでもいいからカンパしてーなァ〜」

「分かりましたよ…」


起史たつしは、ブツブツと言いながらスーツの内ポケットから長財布を出した。


その後、サイフの中から3万円を取り出した。


起史たつしは、サイフの中から取り出した3万円を上の人に渡した。


3万円を受け取った上の人は、ヘラヘラわらいながら起史たつしに言うた。


「おおきに…助かったよ~」


その後、上の人はくちぶえをふきながら席から離れた。


起史たつしは、トキントキン(するどい)の目で上の人の背中を見つめた。


さて、その頃であった。


またところ変わって、恒興夫婦つねおきふうふの家族が暮らしている家にて…


家のダイニングに、房代ふさよがいた。


房代ふさよは、エコバッグの中に入っている食材を冷蔵庫に収納する作業をしていた。


この時であった。


(ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ…ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロ…)


広間に置かれている白濁色のハウディ(プッシュホン)の着信音が鳴った。


ダイニングで食材を整理していた房代ふさよが電話に出た。


電話は、恒興つねおきからであった。


受話器を手にした房代ふさよは、やや怒った声で言うた。


「もしもしおとーさん!!今どこにいるのよ!!…浜名湖…浜名湖で何してるのよ!!…おとーさん!!ヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラわらいながらもの言わないでよ!!…おとーさん!!毎晩のお献立を考えているうちの身にもなってよ!!…きょうはおとーさんの大好物の肉じゃがを作ろうかと思っていたのよ!!…おとーさんは、うちら家族よりも旧友おとこのゆうじょうが大事だと言うたから肉じゃが作らないわよ!!家の貯金をギャンブルや酒に使うなんてドサイテーよ!!ふざけるな!!」


(ガチャーン!!)


思い切りブチ切れた房代ふさよは、電話をガチャーンと切ったあといらついた表情でつぶやいた。


おとーさんはドサイテーだわ…


なにが娘の幸せを考えているよ…


おとーさんがギャンブルにのめり込んだことが原因で、うちが結婚できないのよ…


もういらない…


女の幸せなんか…


いらない!!


日本このくにで幸せな結婚なんか…


できるわけないわよ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る