第27話 水魅の落煙[みなみのらくえん](前編)

 ギムレーの国……妖精たちが暮らす南の楽園……だがアエギルの去った後の光景は、楽園と呼ぶにはあまりにもひどすぎた。


 辺りは湿地と化し、その上にはエルフやトリコーンたちの死体が無数に転がっていた。


 そして、すぐに気にかかったのは、先に来ていたフレイアたちの事だった。ジェロムたちは近くにあった崩れかけた寺院に足を踏み入れた。


「誰かいますか~?」


「はい。あなた方は旅の者でしょうか?」


 奥から若い騎士が一人、現われた。名はローエングリンというらしい。


「この国は……先程何者かに攻め込まれて、この有り様です」


「ちょっと、その前にフレイア姫……ミドガルドのフレイア姫を知らないか? それとフェイさんにジナイダに……トムとディックとハリーも……」


「そうすると貴方がジェロム様ですね。フレイア姫は御無事です。あとジナイダさんも奥にいらっしゃいます。ただ……その……」


 ローエングリンの口から出た言葉……三人ともとても信じられないような事実……それはトールにとってはすさまじいショックだった……


「……三人とも死んだって……姐さんも……? へっ……あんたも冗談がうまいね……」


 トールは床に泣き崩れた。心で事実を受け取り、あえて騒ぐようなマネはしなかった。


「……もう一人、少し前に女の人が来ていますが……ジェロム様はこちらへ」


「私も行きます」


 ローエングリンにジェロム、リディアが続く。

 奥に会った部屋には女教皇ギネビアとフレイア、ジナイダにスキールニルもいた。


「あっ! これはジェロム様、お久しゅうございます。ところで王子は?」


「あいつは……もう……すぐ……来るよ。会って来たからよ……」


 スキールニルは一瞬、笑顔を見せる。しかし、フレイアもジナイダも暗い表情。


「ジェロムくん……あの……私……一生懸命魔法で戦ったんだけどね……え~ん!」


「わかってるからよ~、泣くなよ~」


「ごめんなさい……私こそ戦術の一つでも身につけていれば……」


「おいおい、姫様まで……」


 今までうつむいていたギネビア皇が顔を上げて話し始めた。


「少し遅かったようですね……。アエギルという男の召喚したリヴァイアサンの攻撃でジェロム、あなたの仲間が四人、命を失いました。そしてこの寺院に仕える聖騎士も三人、アエギル自身との戦いで破れました。


ランスロット……いえ、今はヘイムダルと名を変えたあの人に続いて、ガウェインもトリスタンも……そにいるローエングリンの父であるパルシファルも六魔導、水のアエギルには歯が立ちませんでした」


「こっちはイミルに先……オーディンが殺されたわ。みんなでなんとか倒したけれど……」


「それじゃかたきは討てたのですね」


「残りはアエギルとスルトです。スルトは貴方ジェロムを狙っているはずです。あの二人が揃えば、私たちは今度こそ全滅するかもしれません。


それに、もしあの者達が『グラール』の聖なる力を超える魔の力を身につけていたとすれば……『グラール』は容易く破壊され、聖騎士の力も完全に消えてしまうでしょう。ただ、『ブリーシンガメン』の……」


 その時……話は半ばで中断された。寺院が崩されていくのだ。


「奴ら……もう来やがったのか……!!」

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