第三章 決戦へ

第22話 勇者ね(前編)

 光……あの時、なにも持っていなかったはずのヘイムダルの手に現れた輝く剣……。その光は実体を持たないロキを斬った。


 そしてそのロキも、光の剣も、ヘイムダルも、そのまま消えた。


 ジェロムの耳に残ったのは、光に斬り裂かれたロキの断末魔の叫び声と……ヘイムダルが最後に言った言葉……


 『これがオレの……インナーライト……』。ジェロムにはそう聞こえた。

 それにしてもあいつは……


「何を考えているのです?」


「はっ!? え……!? あ……ああ。いいえ、何でもありません」


 ジェロムたちは国を救った勇者としてヨトゥンヘイム城に招かれていた。今、ちょうど皇帝に礼を言われていたところ。


「あなた方が勇気を出して悪と戦ってくれたおかげでこのヘル帝国も、都も、そして私や国の人々までもが無事に済みました。礼金の2000000ポード、受け取ってくれますね?」


「……受け取れません。俺達は金や物のために戦ってるわけじゃないですから。どうしても受け取ってほしいと言うのなら、その金は壊された闘技場や町の一部の修理に使ってもらいましょう」


「ああ、貴方は何と素晴らしい方なのでしょう。わかりました。貴方のような方の言う事なら断るわけにもいかないでしょう。このお金は国のために使いましょう」


 皇帝が大臣に何やら合図をした。大臣は一度下がった後、大きな包を持って来た。


「これはある物からあずかっていた武具。ジェロム」


「はい?」


 ジェロムが包みを開けると、中にあったのは見覚えのある品々。名刀村正の太刀と正宗の脇差し。そして鎧、兜、脛当てなどの当世具足一式。鎧の裏には『聖鳳凰ひじりほうおう』の名が彫られている。


「何でも、親友からもらった刀を壊してしまって……そのおわびとか……」


「そうですか。では、これはもらっておきます……。それと……この剣、ジークフリートさんに……」


「それはバルムンク!? つまり、ジークフリートとクリームヒルトを城へ呼びもどせ……と?」




 ヘル帝国の南……小人の国ニーベルンゲンに行くため、大河ギイェルを船で下る。


「……で、結局リディアはどっか行っちまって、ジナイダとトールさんとフェイの姐さんが連れということに……」


「姐さんの親衛隊も忘れるな! オレは疾風のトム! トム・ジョーンズだ!」


「……おいらは迅雷のディック。ディック・ブラウン」


「ホホホ……私はハリー・スミス。怒涛のハリーとでも言いましょうか」


 現在、舵をとるのはトム、ディック&ハリーの3バカトリオだ。


「乗組員……合計8人。……ん? 姫様、何ですかそれは」


 フレイアが船室から本をもって来た。どうやらノートらしいが。


「ヘイムダルさんの荷物の中にあったんです。詩が書いてあります」


「……そう言えばあいつ、会ったばっかりの時……自分のこと詩人だって言ってたっけ。楽器も持ってねえのに変だと思ってたが……そういう詩人か」


 ジェロムはノートを開いて見てみた。

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