第12話 双方の案(後編)

「始め!!」


 フェンリルが地面に右手をついた。地震クウェイクの魔法だ。フェイは倒れぬよう必死にこらえた。


 やがて地震がむと、フェイはタロットカードを出し、シャッフルした。フェンリルはその間にむちを用意した。


 フェイが隠者のカードを引く。フェンリルは気にせず鞭を構える。


「慎重に攻めるとしましょうか……」


 フェイはそう言ってベールをとった。


 フェンリルの鞭がフェイの手首に巻きついた。フェイはその鞭をそのまま自分の方へ引っ張った。フェンリルも自分の方へ鞭を引くが、片手で引いているフェイの方がまさっていた。


 フェンリルは力で負け、フェイの後ろへ飛ばされた。フェイはすぐさま後ろを向き、袖の中から水晶玉を取り出してフェンリルへぶん投げた。


 水晶玉はフェンリルに当たり、頭をかち割った。フェンリルはダウンするがフェイは次の攻撃の用意をして待つ。


 カウント6……頭から血を流しながら立ち上がったフェンリル。フェイは近づいて顔面に蹴りを入れた。再び倒れるフェンリル。


 カウント7……苦しそうに立ったフェンリルのこめかみに、フェイが手刀を放つ。

 フェンリルはこらえるが、フェイはその顔をつかんでアイアンクロー。その上膝蹴りを何十発も入れ、アバラも折った上に最後はアッパーカットで決めた。


 アゴの砕ける音とともにフェンリルは場外へ飛ばされた。反撃をする間もなくフェンリルは負けた。


「こんな弱いんじゃ最初からぶちのめした方がよかったわね……」


 フェイの冷たい言葉がトールの耳にもとどいた。




「……すごかったよな~、あの試合。フェイっていうひとあのガキ、ボコボコにしちまうんだもんな~」


「ジェロムさんよ……そのフェイってのがかしらだよ。俺様のいた海賊団のな」


「そしてボコボコにされたガキが六魔導、地のフェンリルだ」


「……!!!」


 二つの事実が四人の耳に入ったのはその日の夜のことだった。


「れ~でもな……何か違うんだよナ……あの豪快なところは姐さんそのままなんだけどよ……」


 トールが珍しく真面目な顔を見せた。


「……前と雰囲気が全然違うんだよ! なんだか……冷たい感じがするんだ……それに口調もあんなに丁寧じゃなかったし……もっと明るくて……元気って物があったよ……」


「あなたまでそんなに暗くならないで……トールさん。でも、あのフェンリルさんって方……六魔導のわりにはちょっと弱すぎませんでした? 魔法も一度しか使ってませんでしたよ?」


「敵にさんをつけるな、フレイア。フェンリルは手加減していた。というか、あれはフェンリルではないと言った方がいい。奴の本当の姿……本当の力はガルムの比ではない」


「……武闘会が終わったら何かするつもりって事か? ヘイムダル」


「それはわからん……だがこっちから事を起こすのはよした方がいい。あの姿のままフェンリルを倒したらどうなるかわかってるだろ?」


「殺人罪で……」


「そうだ。わかったら普通に戦って終わらせることだ。多分、この大会の裏に何かある。会が終わった後にでもフェンリルは正体を現わすだろう。その時にこの大会に参加しているオーディンや……さっきのフェイみたいな達人の協力を得られれば幸いだからな」


 ヘイムダルの言ったその言葉にジェロムもトールも考えを固めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る