第12話 双方の案(前編)

 メリルの投げたナイフがジェロムの鎧のつぎ目を断った。大袖と草摺りが落ちた。


「ああっ!! ヨロイが!!」


「叫んでるヒマはないわよ!」


 ついに大鎧はバラバラになった。ジェロムの防具は陣鉢と手甲だけになった。


 それからもナイフはジェロムの足元に飛んで来た。当然、後ろに下がることになり、ジェロムは場外に追いつめられて行く。


(ちくしょう……早くナイフなくなんねーかな……)


「悪いケド、ナイフあと100本はあるわよ。残念でした」


 ジェロムは後がないことを悟り、捨て身の攻撃に入った。ジェロムはメリルに飛びかかった。


 不意をつかれてメリルはナイフを投げそこなった。その彼女の両手首をジェロムがつかむ。


「離してよ!」


 メリルはジェロムにヘッドバットをくらわした。


(痛っ! すげ~石頭……)


 続いてジェロムの(ピ~ッ)に蹴りが入った。


「はうぁ!!」


 ジェロムは白目をむいてダウンした。


 カウント2……痙攣けいれんしているジェロムの足をつかんでメリルが場外の方へ引っぱった。


 カウント5……ジェロムはまだ動けない。


 カウント7……メリルがとどめのキックでジェロムを場外に出す。はずだったがから振りして勢いで後ろに倒れて頭を打った。


 カウント10……ジェロムはやっと立ち上がった。


「本来なら負けとなりますがメリル選手がK.O.されて(?)いるのでこの試合、ジェロム選手の勝ちとします!」


(……何だか気の毒だなあ……)


 ともかくジェロムの勝ちである。




 一方、トールの方はというと、斬りかかって来たコヴェントリィを投げ飛ばしてすでに勝っていた。




「第四試合、Aブロックはラヴィ・スブラーマニャン対ヒジリ・ホウオウ、Bブロックは……」


 Bブロックの出場選手の名前を聞き、ヘイムダルも、トールも大いに驚いた。


「フェンリル・アンヌンツィオ対フェイ・ド・コルターサル!」


(フェンリル……!! 六魔導、地のフェンリル!?)


(コルタ……コルターサルってことは……姐さん!!)


 アンヌンツィオとしか名乗らなかったフェンリルの名が明かされた。

 その姿はただの子供にしか見えなかったがヘイムダルは知っていた。フェンリルの本当の姿を……。


 フェイと呼ばれた女性は黒いベールをつけていて顔が見えなかったが、名前が全部わかった時、トールは彼女がかしらであると気付いた。

 しかし数か月ぶりに会った彼女は以前とは何か違っていた。




 スブラーマニャンのシミターがホウオウに振り下ろされた。だがそのシミターはホウオウの攻撃で二つに折れた。

 次の攻撃はスブラーマニャンの脇腹を貫いた。ホウオウが勝った瞬間だった。


(あの刀……あれも名刀らしいな。切れ味だけじゃなく硬さもかなりのものだ。しかし俺やカレンの他にも名刀のコレクターがいたとは……。ヒジリ・ホウオウか……日知ひじり……ひじり……? 聖鳳凰か? だとすればあの刀は村正と……脇差しは正宗だな!?)


 ジェロムは次の対戦相手の試合を見て思った。

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