コーヒー少年

 それから会社へ向かい、会長室に行った。

 澤村会長は「おかえり、お疲れ様。」と出迎え「現地はどうだったかな?」と尋ねた。僕は、現地で経験し学んだ事を出来る限り細かく話した。澤村会長もひとつひとつうなずいて聴いてくれた。

「なるほど、わかった。今日は疲れてるだろうし、このまま退社して1週間の休暇だ。ゆっくり休みなさい。その後はガンガン働いてもらうから、そのつもりで。また会おう。」

「はい、ありがとうございました。」



 家に着いたのは18時。ご飯を食べている頃だろうか。

「ただいまー!」

「おかえりなさい!翔吾。待ってたわよ。」

 母さんがいきなり抱きついてきた。

「ちょっ、苦しいし!なんで僕が帰った事を知って…あ!じぃちゃんか!口止めしておけば良かった。」

「今日は兄ちゃんのお陰で、お寿司の特上だよー!早く着替えて、食べよう。」

 

 ニャー…ン

 

 足元に小さな黒い猫がいた。

「え?どうしたの?これ…」

「迷子の迷子の子猫ちゃん。探したけど、飼い主も見つからなくてね。これも何かの縁でしょ。」

「そっか。可愛いな。名前は?」

「ちょこ。」

「ちょこか。よろしくな。」

 抱きあげると言ってもまだ小さくて、手のひらに乗せるサイズだ。こてつもウチに来た時は、このくらい小さかったかな。

 ちょこは小さいながらも、喉をゴロゴロ鳴らし手を甘噛みした。

「さ、食べましょ!」

「あ、その前に言わせて。」

「うん?」

「ただいま帰りました。またこれからも、よろしくお願いします。」

「なによ〜。あらたまっちゃって!」

「ははは。やっぱり家が一番だよ。」

 母さんと話してる隙に、絢也が大トロばかり持って行った。

「おい!」

「早い物勝ちだよ。」

「あ、ほら!ちょこも狙ってる、危ない!」

 


 1週間の休暇は、ほとんどじぃちゃんの店で過ごした。やはりコーヒーを淹れると落ち着く。

「美味いな…。」

 じぃちゃんが目を細めながらコーヒーを飲んだ。

「現地で、しっかり品質を鑑定してきた豆だからね。それと、はい!鈴華さんには、キャラメルフレーバーのアイスコーヒーだよ。」

「ありがとうございます。パフェみたいでとてもオシャレですわ。」


 カラン…とドアの鈴が鳴り、裕太が入ってきた。と、同時に後ろに牧野さんもいた。

「いらっしゃいませ!」

 


 全てはこの店から始まった。

 これはコーヒーを愛する僕の物語。



                  【完】

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コーヒー少年 ちはや @chi_haya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ