チャンスの神様

 澤村さんが帰ってからも、僕はしばらく茫然ぼうぜんとしていた。

「翔吾、大丈夫かい?」

 じぃちゃんに声をかけられ、我に帰る。

「あ、あぁ…うん。」

「澤村君も凄い話を持ってきたな。」

「どうしようかな。」

 嬉しくて、心がくすぐられている。

 

 チャンスの神様!ありがとう‼︎


 そう、これはきっとチャンスなんだ。

 全身ツルツルで、前髪しかない神様が走って来たんだ。後は前髪をガシッとつかむだけ!チャンスは一度きり。迷いがあって掴まなかったら二度と掴めない。

「僕、帰るね。母さんに話してくる。」

「浮かれて転ぶなよ。気をつけて帰りなさい。」

「はーい。じぃちゃん、ありがとう。」


 家に帰ると母さんが夕飯の準備をしていて、絢也しゅんやはソファでゲーム機で遊んでいた。

「ただいま。母さん、ちょっと話があるんだが…よろしいだろうか?」

「このままで良いならいいけど〜、翔吾、なんだか喋り方がジジくさいわよ?」

「いや…なんて言ったら良いのか、なんていうかその…実は、だね…」

「実話?」

「いや、そっちの実話じゃなくて。実は就職の話が来て、留学の話が来たんだけど…」

「は?意味がわからないんだけど。大丈夫?頭でもぶつけた?」


 僕はじぃちゃんの店で、澤村さんに会った事と就職や留学の事を話した。説明が上手く出来なくて、母さんが理解するまでに30分くらいかかっただろうか。食事の支度も終わっていた。

「随分と見込まれたものね。それで、翔吾はどうするか決めたの?」

「僕は澤村さんの会社に行きたいと思う。留学もあるけど、現地に会社の人がいるし、英語は頑張ればなんとかなると思うし。」

「良いんじゃない?翔吾がそう決めたなら。でも英語?留学先、ブラジルよね?」

「英語じゃないの?世界共通語だし。」

「ブラジルはポルトガル語じゃない?」

「ポ、ポルト…ガル?」

「そうなるとパスポートやビザも必要だし。えー、本当に行くの?翔吾1人だなんて、ちょっと不安…私も一緒に行こうかしら。」

「いや、まだ決まったわけじゃないから。」

「でも…本当なら凄いわ!」

「母さんは賛成してくれるんだね?」

「えぇ?だって、いつも言ってるでしょ?自分のやりたい事は自分で決める!好きにしなさいって。」

 

 それから…

 澤村さんに連絡をして会社の見学をするのは、冬休みが終わる年明けになる。

 

 

 

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