就職の話

 季節はもう秋から冬へと変わっていた。

 もうすぐ冬休みに入る。(と言っても、1週間から10日くらいだけど。)

 もうすでに、就職が内定したというクラスメイトもいる。僕はマイペースで就職活動をする事にした。具体的には、ここ!という会社も決めていないが、学校に掲示されている求人票は必ずチェックしていた。

 

 放課後、帰宅準備をしていると、珍しくじぃちゃんから連絡がきた。

 

『今日は早めに店に寄りなさい』

 

 僕は皆に軽く挨拶をして、急いで店へむかった。まさかまた、じぃちゃんの具合が悪くなったのか…と、良からぬ心配をして。


「じぃちゃん!」

「やぁ、おかえり。」

 じぃちゃんは、無事だった。

「連絡なんて珍しいから…慌てて帰ってきたよ。」

 僕は息を切らしながら、コップに入れた水をいっきに飲み干した。

「もうすぐ、澤村君が来るんだ。お前に話があるらしい。」

「澤村さん…、あぁ、コーヒーの…。」

 

 招待状の事を、すっかり忘れていた。時間を作って行こうと思ってたけど、こてつの事があって、それどころじゃなくなってしまったんだ。お礼も、行けなかったお詫びもしてない。まさか、怒ってるとか…?どうしよう。


 間もなく澤村さんは、ドアの鈴を鳴らしながら入ってきた。

「やあ、久しぶり。元気そうだね。」

 澤村さんはじぃちゃんと挨拶を交わした。

「翔吾君も、忙しい時期だね。」

 僕は緊張でドキッとした。 

「あ、あの。招待状貰ったのに、僕、行けなくて…すみません。」

「いやいや、とんでもない。たまたま貰ったチケットだったから。おじいさんから聞いたよ。いろいろ大変だったね。」

「はい、もう大丈夫です。」

「今日は君に話があって来たんだ。そこのテーブルの席でいいかな?」

「はい!」

 窓際の席で、僕は澤村さんと向かい合って座った。


「話というのはね、単刀直入に言うと、ウチに就職しないか、という事なんだけど。」

「はぁ……はい?」

 突然の展開に僕の声は裏返った。

「翔吾君の持つ資格は滅多に取れるものではなくて、今は学生だから行事も呼ばれてはないけれど、このまま…別の仕事に就いてしまうのは勿体ないと思うんだ。もちろん、君が他にやりたい事があってというのなら、話は終わってしまうんだけど。」

「はい。」

「どうかな?どこか勤めたい所がないのなら、ウチに来ると言うのは。」


 突然の話に僕は驚いた。


「ただし。」

 澤村さんは、とても厳しい顔をした。

「条件がある。」

「はい。」

「ただ一日中コーヒーを淹れて過ごすわけじゃない。わかるね?コーヒー豆の原産国に行って、買い付けする事から始まる。」

 原産国?話はとんでもない方向に進んだ。

「今の君がいきなり、外国におつかいに行けるだろうか?」

「行けません…。」

 そうだ、僕はまだひとりでなにかをした事はない。必ず家族がそばにいたから…。ましてや外国なんて無理だ。


「そう、ガッカリする事はないよ。だから君に提案なんだ。まず、ウチの会社に入るために大学へ行ってもらう。留学と言ったらわかるかな?そこで沢山学んで欲しい。もちろん、費用は会社が出すよ。ある程度の生活費もね。」

「留学…⁉︎」

「急な話だから、びっくりしちゃうよね。君のおじいさんには話してある。今日、家に帰ったらお母さんとも相談しなさい。これは私の会社の資料だよ。会社の見学も出来るから、私にいつでも連絡しなさい。さて、私の話は終わり。」

 

 僕はボーっとした。これは…夢か⁉︎

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