お絵描き

 本日晴天なり!

 今日は裕太と愉快な仲間たち…いや、裕太と美術部のみんなと先生が来る日だ。

 特別な1日にして貰えたら、僕も嬉しい。


 いつもより早めに出て、スーパーで買い物をする。牛乳、イチゴ、コーンフレーク、生クリームにアイスクリーム、その他諸々。

 大きく膨らんだショッピングバッグを自転車のカゴに入れて走って行くと、いつも行くパン屋さんの前を横切った。

「あ!そうだ。パン…!」


 意外にも荷物の多さに、自分でも驚いてしまった。買い過ぎたかも知れない。

 材料を冷蔵庫に入れながら、エプロンをつけてみんなを迎える準備をした。


 しばらくしてドアの鈴の音と一緒に、ひょっこりと裕太が顔を覗かせた。

「ちぃーす!翔吾。みんな来たぞ。」

「あ、いらっしゃい。来てくれてありがとう!」

 先生と女子3人、男子は裕太入れて2人。

「へーぇ、ここが翔吾の店か。」

「いや、僕じゃなくてじぃちゃんのね。」

「昭和って感じねぇ。」

「先生って、昭和生まれっすか?」

 裕太が意地悪く言う。

「やだなぁ〜令和に決まってるじゃない。」

 そこは誰もツッコミは入れたくなかったらしく、女子の1人が「翔吾、して!」と話題を変えた。

「うん、準備は出来てるよ。先生はコーヒーでいいかな?」

「え?わ、私もお絵描きが良いかなぁ〜。ちょっと、映えてみたいじゃない?」

「映え…」

 裕太が呟いた。

「あ、私はお絵描きとパフェがいい!」

「はいはい。今、作るから待ってね。お絵描きのリクエストはあるかな?」


 さっきから飛び交うとは。

 以前、学校の文化祭で出した模擬店で、僕はラテアートとコーヒーを担当した。

 ラテアートは意外にも好評で、コーヒーは先生たちが次から次へと足を運び、お持ち帰りを含めて完売した。

 その事がキッカケとなり、部活動でもほぼ必要以外に会話をすることのなかった部員たちと交流するようになった。

 

 コーヒーは苦い、という大人な飲み物のイメージが強い。もっと沢山の人に、美味しいだけじゃなく、コーヒーを楽しんで貰うためにと思いついたのがラテアートだ。

 それは僕の発想ではないけれど、僕は絵を描くのが好きだから…とは言え、今日の部員たちはここぞとばかり難しい注文をしてくるわけで。


「はい、まずはこちら〜、切り株に座ったクマさん。」カップのそばに、ハートの形に切ったイチゴと生クリーム付きだ。

「キャー!可愛い。映えるぅ!」

 一番はしゃいでいたのは、先生だった。

 それからお絵描き三昧、パフェ三昧。

 今日はいつものコーヒーを淹れるのは難しいかもな…そう思っていた所へ、カラン…と牧野さんが入ってきた。

「なんだ今日は。高校生の溜まり場か?」




 

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