コーヒーの味

「か…母さん…。」

 ハッと目を覚ました。

 両頬を両手でパンッと叩く。

 寝言だとしても、『母さん』と言ってしまうとは…恥ずかしい。

 そういえば中学の時、男の先生に向かって『お母さん』って呼んじゃった時あったよな。

 僕がコーヒーに興味を持ったのも中学生の時だったな。懐かしいな…。


 僕が中学二年生の頃だ。

 コーヒーを飲んでいる母さん。

「あのさ、僕…僕もコーヒーの味が分かるようになりたいんだ。どうしたら良いだろう。」

 母さんはキョトンとして、

「んー…。これは手軽だからインスタントだけど、本当にコーヒーの味を知りたいなら豆選びからよ。豆を買いに行ったお店のオジサンの所、覚えてる?買う時にコーヒー豆を試食したの。」

 僕はなんとなく思い出した。良く試飲のコーヒーをくれたけど、僕は飲めず弟の絢也しゅんやが喜んで飲んでいたんだ。


 母が思い出したように

「あの時よねー!オリジナルブランドとブルーマウンテン買って、飲むのを楽しみにしてたのに。朝、ザラザラーって音で目が覚めて…」

「あぁ、絢也がコーヒー豆を食べたんだ。」

「そうそう!豆が二種類あったのに、よりによってブルーマウンテンを鷲掴みしてたの。あれ100g2000円もする高級品だったのに!匂いがわかって選んだのかしらね。」

 まったく、まいっちゃうわよね。という顔をしながら「あ、それでコーヒーの味の話だったわね。今日せっかく休みだし、一緒に豆を選びに行こうか。」

 僕は大きく頷いた。


 コーヒーショップの豆はズラッと並び、どれをどう選んで良いのかわからなかった。

「どれが良いって聞いてもわからないでしょ?とりあえず、一般的なオリジナルブランドと、比較する為に酸味があるキリマンジャロにしよう。コーヒーミルがないから、今日は豆を挽いてもらいましょう。」

 豆を挽いてもらって待っている間に、コーヒー豆の種類、産地、味の見方を母さんに教わった。まだ、よくわからないけど。


 僕と母さんは、家に戻ってからすぐにコーヒーにとりかかった。

 オリジナルブランドはコーヒーメーカーで、キリマンジャロはドリップ式で。

 そして僕の前に二つのカップが並べられた。

「これで、コーヒーの味の違いがわかるわよ。」

 僕は恐る恐る二つのコーヒーを飲み比べた。

「おぉ…」

「ね?全然違うでしょ。このコーヒー粉が無くなったら、今度は自分で豆を選びなさい。自分のコーヒーの好みがわかるようになったら、今度は違うお店に連れていくわ。でも飲み過ぎないようにね。カフェイン中毒あるから。」


 その後はコーヒーミルを買って貰い、自分で豆からコーヒーを淹れるようになり…ひとり分だけ淹れていると、当然のように「アタシの分は⁉︎」と母さんに叱られるようになった。

 

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