アフターストーリー



 この街に帰って来ると心が安らぐ。下町情緒あふれる街並み、醤油の香ばしい匂いを纏う煙、料金表が貼られた自動ドアに煌びやかな看板、屋根が付いたベンチに光を反射する水面みなも


 ウィーン。


 「──しゃいませ〜今日の目玉商品は」


 買い物カゴを左手に取ると、目の前の自動ドアが開いた。

 ここのスーパーに来るのも一年振りだろうか。


 ヴィーン。ヴィーン。


 ポケットに入れたスマホが振動している事に気づき右手で取る。


 「もしもし」


 『颯斗、そろそろ家に帰ってくる頃よね?』


 「そうだけど、どうしたの?」


 『仕事終わりで悪いんだけど、お使い頼まれて欲しくって』


 「そんな事だろうと思ってスーパーに来てるよ、欲しい物は?」


 『野菜や豆腐は買ったんだけど一番肝心なお肉買い忘れちゃって』


 「母さんらしい、お肉はなんでもいい?」


 『なんでもじゃ駄目かな〜、今日はすき焼きにするから肩ロースをお願い』


 「すき焼きとか豪勢じゃん」


 『そりゃ〜あなたが久しぶりに家に帰ってくる訳だし、たまにはね』


 「どーも」


 『あとお酒なんかもお願いしようかな』


 母さんがお酒を飲みたがるなんて珍しい、明日は雪でも降るのだろうか。


 『ん〜とね、女子が好きそうなお酒を』


 「女子がって、ビールでいいんじゃない?」


 『私はビール好きだけど颯斗たちはビールでいいの?』


 「僕らもビール派だからビールで大丈夫だよ」


 『そしたらビールをお願い』


 「了解」


 『しかし時が経つのは早いわね〜』


 母さんは感情深げに何か言っている。話しが長くなりそうだなと僕は思い「話しは帰ってからゆっくりしよ、じゃっ切るよ」と言って電話を切った。


 「颯斗くん見て!イカ焼き売ってたよ、これも買お」


 いつの間にかイカ焼きを僕が持っているカゴの中に放り込む。本当に好きだよな〜イカ焼き、と心の中でツッコんだ。


 「そういえば菓子折り売ってたりしないかな?」


 「イカ焼きの後ろの棚に売ってたよ〜」


 僕らはスーパーでお肉、お酒、菓子折り、そしてイカ焼きを買って、母の待つ実家へと手を繋いで向かった。



 結婚の挨拶をする為に。






              ─了─

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雨の音がなるほうへ 三久 田 @mitsuhisa_den

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