第6話 初恋の人

果たしてレダの危惧は当たらずとも遠からずだった


但し美少年の方が、やさぐれ男達よりも一枚上手だったというのが真相で


マリウスはフンッとホッペを可愛らしく膨らませてプリプリ憤慨する


「僕、今日〜

いつも優しく良くしてくれる知り合いの果物売り露天商のおじいさんおばあさんの店の留守番、してたんだ」


「ふぅんそれで?」


「アイツらガラ悪くやって来て、お金も払わずに幾つもグシャグシャ食べたんだよ?!


子どもだって見くびって、酷い、レダお姉様だって許せないでしょ?!


そんでもって食べかすの皮とか芯をバシッて投げつけてきたんだよ!

もぅッッ

だからむっかついて

『やめて!』「お代を下さい!!」って怒ったら

『へーお前可愛いじゃん』

『売り飛ばしたら金になりそうだなぁ』


〜いきなり腕を捕まれて肩に担ぎ上げられてッッ!!


そのまま娼館に連れて行かれそうになったから、思いっきり耳にがぶって噛みついて、胸蹴り上げて逃げたんだ


ついでにコレ、素速く果物代に貰ったし?

で、追いかけられたんだ僕」


マリウスはペラッとソコソコ膨らむ革の小袋を、如何にも自慢そうに服の中から取り出した


キンッと金属音が涼しく響く


「中、ちゃんとお金か確認したの?」


とりあえずレダは促した


この少年、そんなドタバタな状況下で咄嗟にそこまで出来ると言うことは、中々の度胸と腕前だと感心する



袋の中身は銀貨と銅貨が少し〜だった


取りあえず、革袋の中より損害を受けた果物代の実費を拝借し、露天商の方の帳尻に当てることにする


「エエッ!レダ亭今そんな大変な事になってるんですかっっ!」

「そうなのよ……」


マリウスの言葉にレダは眉間に皺を寄せてブーーーっと険しい顔をしてみせる


もっとも、美少女のレダが怒った顔は益々キュートさを強調する無自覚な妙な魅力を発散


マリウスは『うわーーーカワイイ……』


少し年上である彼女の麗しさに内心ボーッと思わず見とれてしまったが、ハッと我に返る


今そんな場合では無いのだ

邪心タップリの煩悩に浸ってたら嫌われてしまうこと受け合いだと思い直した


「じゃこの残りの銀貨、お店修理代とおじいさまのお薬代に……」


しかし真面目なレダは首を横にフルフルと振った


「うーん、でもそれは今回の事件とは無関係だから、ちょっと筋が違うわ?


貰ったとしても、多分私が尊敬するレダ亭オーナーご夫妻は全然喜ばないと思うの

〜そういう神様みたいな方達だから


だから『遺失物』として

お役人様騎士様の屯所トンショに、マリウスが拾って見つけたという事にして一度届けましょう


〜で、お役人様の裁定を受ければいいわ?


判断を仰いだその後、コレコレこの様に破壊行為があって〜ってね?

改めてレダ亭の損害を訴えれば正々堂々、その革袋内の銀貨より被害額をきっといただけるから


〜まぁぜんっぜん、これだけでは足りないけれどね」


「ーーーそうだね」


「あなたにも迷惑が掛からないし」


ニコッと微笑むレダの言葉にハッと顔を上げたマリウスだった


『こんな人、見たこと無い!』



周囲の大人はほぼほぼ皆ズルをする

『それでなけりゃ生き残れないもん』


だからこそレダの

そんな事は当たり前とする正直さ公正さに、ガツンと心打たれたのだった


だから俄然彼女に余計に興味が湧いた





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