第17話 パーティーを楽しむ

 ブレイク様と一緒に、馬車に乗って会場へ向かう。


 パーティーに参加するため、彼はいつもと違った素敵な格好である。見ていると、思わず頬が緩んでしまうのを止められない。辺境で見てきた、普段の凛々しいお姿も大好き。だけど、今日の彼はいつも以上に輝いて見える。


 隣りに座っている彼が、私を見て言った。


「今日のドレスも可愛いな」

「ありがとうございます! ……その、気に入っていただけましたか?」

「ああ、もちろんだ。よく似合っている」


 嬉しいッ! 彼に褒められただけで、嬉しくて仕方がない。満足して、もう幸せで胸がいっぱいになっている。これから開催されるパーティーには参加せず、このまま二人でずっと一緒にいたいと思ってしまうくらい。


「実はこのドレス、新しいデザインなんですよ」

「なるほど」


 今日は淡い水色を基調としたシンプルなAラインのドレスを着ている。ウエストの部分から裾にかけて少しずつ色が濃くなっているグラデーションになっており、光の加減によって色合いが変わるため、とても美しい。


 テンションが上って、色々とお喋りしてしまう。そんな私の話を、彼は優しく聞いてくれた。


 ブレイク様に相応しい女性になるべく、気合を入れて用意してもらったもの。彼も気に入ってくれたら嬉しいな。


「君の髪色にも合っているし、良いと思うぞ」

「ふふっ。嬉しいです!」


 大好きな人に褒められるのは嬉しいけれど、やっぱりちょっと恥ずかしい。でも、もっと褒めてほしいとも思ってしまう。ワガママだなって自分でも思うけど、好きな人に褒めてもらえたら、誰だって嬉しくなるはずだ。


 私の場合は、ブレイク様に夢中だから。人と比べて、喜びが大きいのかもしれないけれど。


 そんな会話をしている間に、会場に到着した私達。既に多くの人が集まっており、談笑している声が、あちらこちらから聞こえてくる。会場の中央には、豪華な料理やお酒が並べられていた。


 後で、ブレイク様と一緒に食べたい。だけど、まず先に挨拶をしなければならない方々がいる。彼と一緒に、招待客の方々へ挨拶して回らないと。


「ねぇ、あの人が噂の……」

「うわっ……」

「スタンレイ辺境伯って、例の……」

「あれが、そうなのねぇ……」


 彼と一緒に会場内を歩いていると、周りから注目されているのを感じた。悪意ある視線。ヒソヒソと話す声も聞こえてくる。どうやら、ブレイク様を貶すような内容のようで、ちゃんとは聞かないよう意識的に遮断する。先日の私の両親のような、酷い態度に怒りが湧いてくる。


「知り合いは、居るかな? 挨拶しておきたいんだが」

「そうですね……。どなたかいらっしゃったら、ご紹介いたしますわ」

「うん。頼む」


 しかし、ブレイク様は堂々とした態度で気にせず会場内を歩き続けている。私は、そんな彼の姿に見惚れてしまった。本当に素敵だ。


 彼が気にしていないのであれば、私が気にする必要もないだろう。


 それよりも、せっかくだから楽しまないともったいない。ブレイク様と一緒に居られる時間は限られている。この時間を無駄にはできないのだ。


 会場内で少し浮いていた私達に、話しかけてくる人物が居た。


「久しぶりだ、スタンレイ辺境伯。君が中央のパーティーに参加するなんて珍しい」

「お久しぶりです、ライリー公爵閣下。本日は、フィリベール王子殿下からご招待を受けまして」

「なるほど、そういうことか。それにしても、相変わらず君は忙しいみたいだな」

「いえ、そんなことはありませんよ。あれは、辺境伯としての仕事ですから」


 ブレイク様と親しそうに話をしている老紳士は、ライリー公爵閣下。前から交友があるようで、二人はとても楽しそうに話している。本当に良かった。ブレイク様にも話しかけてくれる人が居てくれて。


「おお、そちらが噂のご令嬢かな? 初めまして、私はアーサー・ライリーだ」

「ええ、彼女がレティシアです」


 ライリー公爵閣下の視線が、私の方に向けられた。ブレイク様が紹介してくれる。私は頭を下げてから、改めて自己紹介した。


「はじめまして、お会いできて光栄ですライリー公爵閣下。レティシア・スタンレイと申します。先日、ブレイク様の妻になりました」


 そう言って、微笑む私。なるべく丁寧に、ブレイク様の妻として失礼のなよう気を引き締めて、振る舞う。するとライリー公爵閣下は驚いたように目を大きく見開いた後、すぐ笑顔になった。


「そうか! 婚約したと聞いていたが、もう結婚したのか。おめでとう、スタンレイ辺境伯」

「ありがとうございます、ライリー公爵閣下」


 こうやって、結婚を祝ってくれる人も居る。それが嬉しい。そして、ライリー公爵閣下は私を見て言った。


「スタンレイ辺境伯は、とても素晴らしい男だ。妻として、彼を支えてやってくれ」

「もちろんです!」


 私は即答して、力強く頷いた。

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