私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~

キョウキョウ

第1話 価値観の違い

 ある日、花園のお茶会にて。


 私は、親友のミリアンと2人でおしゃべりする時間を楽しんでいた。私達の目の前には、今日も美味しい紅茶とお菓子が並んでいる。甘いものを食べると、とても幸せな気分になる。


 美味しいお菓子を挟んで目の前に座っているミリアンは、紅茶を飲んで一息つく。ふと思い出したように、彼女が私に質問してきた。


「ねぇ、レティシアはどんな男性が好きなの?」

「私の好きな男性? そうねぇ……。男性の好み……」


 男性の好みについて聞かれた私は、どういう人が好きなのかと真剣に考えてみた。


 今まで、あまり考えたことがなかったからなのか、なかなか思いつかない。自分はどんな人が好きなんだろうか。うーん。


 本来なら、婚約相手であるフィリベール王子と答えるべきだろう。だけど本心は、私の好みじゃなかった。容姿だけでなく、性格についても。


 浮気性で、あまり私のことを気にかけてくれないし。私も、言葉には出さないけど態度に出ているのかもしれない。それで私達は、関係が良くなかった。親同士が決めた婚約なので、お互いが納得していないという理由もあるかもしれない。


 でも私は貴族の令嬢だし、フィリベール王子は王族だ。好き勝手に恋愛結婚なんて不可能だろうと分かっていた。


 今は、ただの婚約相手でしかない。だけど、この先も一緒に生きていくことになるパートナーとなる人。だから、時間をかけてゆっくり好きになっていけたらいいかな、と思っている。


 そんな気持ちを、親友であるミリアンに打ち明けた。


「えーっ! フィリベール王子は好みじゃないの? カッコいいのに」

「カッコいい?」


 カッコいいという褒め言葉に、私は首を傾げた。フィリベール王子をカッコいいと思ったことは、一度もないからだ。どちらかと言えば、私は彼の顔が苦手だった。


「そうよ。顔立ちが整っていて、とても素敵だと思うわ。それに、あのサラサラした金髪が綺麗よね」

「なるほど」


 ミリアンの評価に、あまりピンと来ていなかった。確かに彼は、多くの女性達からモテているようだけど。


 私は彼が浮気しているのを知っているからこそ、皆とは違ったように見えているのかもしれない。


「まあ、でも。浮気するような人は嫌よね」

「そうね」


 ミリアンの言葉を聞いて、私は苦笑いを浮かべるしかなかった。私は何度か、直接その現場を目撃したことがあった。


 王宮にある庭の一角で、フィリベール王子が若い女性達に囲まれている姿を。他にも、物陰に隠れて見知らぬ女性と楽しんでいる様子など。


 そんな光景を見てきて、何度ため息が出たことか。もう慣れてしまったけれど。


「なるほどね。レティシアは、性格が第一優先ってことか!」

「いえ、そういう事ではないんだけど。私にも、好きな顔はあるわよ」

「そうなの! 例えば、誰とか?」


 興味津々といった様子で、身を乗り出してくるミリアン。そんな彼女に、私は思い浮かんだ人物の名前をあげた。


「ロベール様、とか?」

「え!? えーっと、それは、ガハリエ男爵のロベール様、よね?」

「そう」


 つい先日参加した社交パーティーでお見かけした、ロベール様の名前を挙げると、ミリアンは驚きの声を上げる。そして、予想外というような表情をしていた。何か、変だったかしら。


 彼は、優秀で誠実な方だと聞いている。女関係で悪い噂も聞いたこともない。それなのに、今までに何度か婚約が破談になったという話を聞いたことがあった。それで今も、婚約相手が居ないらしいけど。


 もしかしたら、私の知らない噂があるのかもしれない。それを、ミリアンは知っていたとか。その噂は、触れづらいことなのかも。


「そ、そっか……。えーっと、他には?」


 話題を変えるためなのか、別の男性の名前を求めるミリアン。聞かれたので、私は再び考えてから口を開く。顔が好みの男性について、思いつく名前を言った。


「他に……? うーん、アルマン様とかユジェーヌ様とか」

「あ、うん。そっか、わかったわ。レティシアは、容姿よりも性格を重視するタイプなのね。とっても良いことだと思うわよ」

「ん?」


 顔の好みで話しているつもりだったけれど、ミリアンは私が性格を重視していると勘違いしたようだ。


 そんな出来事があり、私は好みは普通の女性とは違っているんだと自覚するようになった。だって、周りの令嬢がカッコいいと噂している男性を見ても、私は全く良いとは思わないから。


 私の婚約者であるフィリベール王子もよく、ワーキャーと令嬢たちの黄色い声援を浴びている。けれど私は、それほど良いものなのかと疑問に思っていた。


 逆に、あの顔はちょっとね、と令嬢たちからの評価が低い男性に私はときめいた。


 なるほど、私がちょっと変わっているんだ、ということが判明した。自覚すると、今まで不思議に感じていたことがストンと胸に落ちた気がした。


 まぁでも、顔が好みじゃなくてもフィリベール王子は私の婚約相手であることには変わりない。


 この先、長い人生を一緒に歩んでいくことになる。パートナーとしてギスギスした関係よりも、仲良くしていきたい。そう思っていたのに、それは叶わなかった。




「レティシア! お前との婚約関係を破棄する!」

「……えぇ?」


 卒業パーティーの最中に、フィリベール王子からそんなことを言われたから。


 あまりにも突然のことだったので、私は無意識のうちに驚きの声を上げていた。

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