第20話 一緒の未来を掴むため

「くそっ、やっぱり強い」


 ドルンは魔女に向かって魔法を飛ばしながら、思わず漏らす。

 その魔法も魔女は軽々と避ける。

 そして挑発をするように、ドルンの事を見た。

 これで終わりか? とでも言うような瞳。

 先程からこれの繰り返しだった。

 魔力の量には自信があるつもりだった、きっとこれが異世界転生で得られるチートなんだと思っていた。

 それで叶わない敵がいるなんて思っても見なかった。

 それもそのはず、あの魔女はゲームにおける本当の最終ボスなのだ。

 ラスボスがローズであることは間違いないのだが、特定の条件を満たすことで裏ボスとして魔女が登場する。

 それはローズを倒したメンバーであっても容易には倒せないほどの強さになっている。

 そもそもが一人で戦うという前提ではない。

 仲間と一緒に戦って始めて戦いになるのだ。

 今ドルンがやっていることは傍から見ればただの無謀な特攻に過ぎない。

 それでも、ドルンは諦めるわけにはいかない。

 だって、愛する人を救うためにはあいつを倒す必要があるのだから。

 幸せは目の前だ。眼の前のはずなのだ。

 気合を入れ直して、再度魔法を飛ばす。

 当然魔女はそれを避ける。


「そこだっ!」


 避けることは当然想像していた。

 だから、放った魔法を操って魔女に向かって誘導する。


「……っ!」


 始めて魔女が驚愕の表情を浮かべた。

 遠隔で魔法をあやつる術はドルンが開発した魔法だ。

 これなら当たると確信をした。

 何度避けられても、追尾する魔法を次々と放つ。



 始めは避けることに苦心していた魔女だったが、次第に動きが変わっていく。

 時に余裕で避け、時にギリギリを演出し、それでも当たることだけはしない。

 まるで、遊ぶように魔法を避け始めたのだ。

 その表情には笑みすら浮かんでいる。

 これには流石のドルンも苦笑いを浮かべるしかない。


「嘘だろ?もう見切ったのかよ」


 追尾する魔法には一定のルールと軌道が存在する。

 普通は初見でわかるはずがないのだが、どうやら魔女はそれを見抜いたようだった。

 段々と避けることにも飽きてきたのか、魔女は自分の手からも魔法を発動し、ドルンの魔法にぶつけることで相殺し始めた。

 最初からそれをやらなかったのは、最初から遊んでいたからだった。

 完全に遊ばれている、そのことに気がついたドルンは絶望するしかなかった。

 魔法が全て消された。

 そして魔女は攻撃を開始する。

 魔女が魔法を放つ。直線的な攻撃。距離もあるのでドルンは軽々と避ける。

 しかし、避けたドルンをめがけて魔法が曲がった。


「なんだと!?」


 それはさっきドルンが使った魔法と全く同じだった。

 そう、魔女はこの短い時間でドルンの魔法を完全にコピーしてしまったのだ。

 辛うじて追跡してきた魔法も避ける。

 先程魔女がやったように、自分の魔法を当てて相殺した。

 一息を吐こうとして、思わず、息が止まった。

 眼の前、魔女の周りには、魔法の球がいくつも飛んでいた。

 見た瞬間わかった、あれは全て相手に誘導する攻撃魔法だ。

 さっき自分使っていたのと数が全然違う。優に30個はあるだろう。

 ニヤリと笑い、魔女がその魔法をドルンめがけて放った。


「嘘だろ……」

 あまりの驚きに30もある誘導弾が全て自分に向かって来るのを見ていることしかできなかった。

 ドルンの目の前で爆発が起こった。



「……死んでない?」


 ドルン様がつぶやく声に私は間に合った安堵の息を漏らす。

 ギリギリで間に合ったみたいだ。


「ドルン様、お怪我はありませんか?」


「……ローズ?」


「はい」


 魔女さんに送られた先でいきなりピンチを迎えていたドルン様に思わず飛び出してしまった。


「えっ?なんでローズ?それは!?」


 ドルン様が私を見て驚き、更に私の手から出ている物をみて驚く。


「茨の壁です」


 敵からの攻撃を防いだのは私の手から出た茨による壁のものだ。

 ぶつかって爆発が起きたけど、幸いにも茨は解ける様子がない。


「もしかしてウォール・ソーン……?」


「ああ、いいですね。そういう技の名前にしておきます」


「あ、いや、そうじゃなくて、いやそうではあるんだけど……」


 いい技名をくれたと思ったけど、なんか違うらしい?よくわからない。

 でも今はそんなことはどうでもいい。


「ドルン様は私が守ります。一緒に悪い魔女を倒しましょう」


 ドルン様の目を見て真剣に語りかける。少しでも私の覚悟が伝わるように。

 驚愕の表情を浮かべていたドルン様だったけど、私の目を見て顔つきが変わった。


「そうか……、わかった。一緒に行こう。一緒に未来を掴むんだ!」


「はい!」


 私がウォール・ソーンを解くと茨の奥から悪い魔女の姿が見えた。

 苦々しく私の事を見ている。まるで楽しみを邪魔された子供のようだ。

 でも、邪魔をされてきたのは私の方だ。


「容赦はしません!」


 悪い魔女に向かって手を突き出す。私の手から茨が飛び出て魔女を攻撃する。

 それに合わせてドルン様も飛び出した。

 その手には剣が握られている。

 悪い魔女が私の茨をさばきつつも、ドルン様に向かって魔法を放つ。

 しかし、それは私の茨で防ぐ。

 ドルン様は魔女に向かって一直線に進む。


「これで終わりだっ!」


 そして、ドルン様の剣が魔女の胸を貫いた。

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