第4話 渡る世間は鬼ばかり

「あいつ、山口さんと2人で六本木の夜に消えてったよ。起業家志望だけあって、『行動力』はんぱないわ(笑)」


サークルの女友達から、同じ九州出身の男の子が言いまわっていたと聞いた。


「いやいや、確かに山口さんと一緒に消えたが、何もなかった」と言いに行っても、仕方ないということくらいわかる。確かに自分の行動は大胆すぎたかもしれないが、チャンスがあれば「GO BOLD」(大胆にいこう)と、フリマアプリの社長も言ってるじゃん。


とにかくショックだった。

同じ九州出身の男の子とは、起業して九州を盛り上げていこう、と話していたのに。

学食でも、起業アイディアのブレストに付き合ってくれるくらい、仲のいい友達だと思っていた。


「あんた、わかってないね。あいつ、山口さんに起業アイディアをプレゼンして、出資を断られたらしいよ。だから、山口さんと仲良さそうにしているあんたを妬んでるんだよ。」


えっ、だって私も昨日会ったばっかりだし、ただ話していただけだよ?


・・・・・・


地方では、東京の大学に出ることができる人間は「勝ち組」。

でも東京に出てきた人間にはわかる、上には上がいると。

東京に出てきて以来、相手を凄いと思うことはあっても、自分が他者より凄いと思うこともなく生きてきた。

自己肯定感は、人生至上、最底辺を記録している。


だからこそ、他者から「妬まれる」なんて想像だにしていなかった。


「これが文字通り『渡る世間は鬼ばかり』」とつぶやきながら、山口さんからもらった名刺を取り出して、ショートメッセージを送った。



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