第3話 甘い夜のつづき

「その話もう少し聞きたいから、二人だけで、もう一軒いかない?」


近くに落ち着いて話せる店があるからといって、山口さんがスマホでお店に電話をし始める。

ついていくべきか、帰るべきか。

山口さんの目の奥に、違う色があることは目をつむり、これもチャンスかもしれないと思うことにした。


何よりも、さっきまで起業のアイディアなんて全く考えてもいなかったのに、あんなことを口走った自分に驚いていた。

「ハッタリも起業家に必要な才能のひとつ」という言葉を思い出しながら、意外と自分は行けるかもしれないと、少し笑ってしまった。


・・・・・・


そこからは何を話したか、はっきりとは覚えていない。

あまりに興奮しすぎたせいか、うまく自分の考えを話せていなかったと思う。


そんな私に対して

「キミなら、起業に成功すると思うよ。僕は応援するよ」と山口さんから熱いまなざしで返されると、より一層顔がほてる。まだ5月というのに、からだが熱い。

「やばい、そろそろ帰ろう」そう思い、では、そろそろ帰ります、と立ち上がろうとすると、山口さんが私の手をつかむ。


むかし母とみた「冷静と情熱のあいだ」という映画の映像がフラッシュバックしたと思うと、突然頭が氷水をかぶったかのように冷静さを取り戻す。


「明日改めてお時間ください」そういって、山口さんの手の上に自分の手をのせ、そのまま振り返らず、とにかく前を向いて歩いた。


・・・・・・


次の日いつもより遅れて大学に行くと、サークルの女友達が駆け寄ってくる。


「噂になってるんだけど、山口さんと寝たってホント?」




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