高校二年生になった私

私は無事に高校二年生になった。


朝、教室の黒板にクラス替えの紙が貼られている。


私は、恐る恐る覗き込む。


『B組か…。』

『おっ…。』

『ようやく嫌いな人と離れられた…。』

『隣のクラスだけれど…。』

『あっ…。』

『少しだけ話したことのある子も一緒だ…。』


私は少しだけホッとしたのを覚えている。


『よかった…。』

『これで少しは楽しく過ごせるかも。』

私の心の中は、清清しい風が通ったように軽やかだった。


これで、学校生活が楽しめると思ったから。

もういじめもなくなると思ったから…。


一年分思いっきり取り戻そうと思った。

楽しく学生生活を思っていた。



私…、クラス替えで酷いクラスだったら死のうと思っていた。

でも、少しは期待が持てたクラスだったから、死ななくて済んだ…。



だから、これからは楽しもうと心に決めていた……。


高校二年生の4月

私は、長い髪の毛をストレートにし、ハーフアップにした。

髪のアクセサリーに赤いリボンを着けた。


まつ毛をビューラーで上げ、マスカラをする。

ほんのりピンク色をしたチークを頬っぺたにブラシでふわっとのせる。

唇には、ティントを塗り、その上にストロベリーの香りがする薄いピンク色をしたグロスを塗る。


スカートを二回折って、膝上のスカートにした。


全身鏡に向かって、身だしなみを整えた。

「ヨシッ」

私は、自分の顔を見て口角を上げた。


「自信を持つのよ。凛。」

「あなたは大丈夫。」

そう呟いた。



新しい教室に着く。

私は、明るい顔でドアを開けた。


同じクラスになった友達に挨拶をする。


「おはよう。」


「おはよう。」


私は、自分の席に着いた。



前の私は、目立たないようにしてきたつもりだった。

大人しくしておけば、なにも言われないからって。

でも、何もしてなくても、大人しくしていても、結局は嫌がらせをされていた。



だから、『今度は、自分の好きなように生きてやろう。』

そう思った。

『自分の好きなことをして、嫌う人は嫌ってくれていいわ。』

そう気持ちを入れ替えた。


『自分を好きになれた。』

顔色が良くなっているのが分かる。



けれども、そんな私をまだよく思ってない人が居たようだった…。


クラスが替わっても、私の噂を知っている人達が少なからずクラスの中には居たのだ。


だから、私がスカートを短くしたり、メイクをしたり、雰囲気が変わったことが気に食わないらしい。



他の生徒だって、スカートを短くしているのに…。


何でも気になるみたい。

ほっとけばいいのに…。

私の場合、気に食わない人は視界から消してしまうの。

それなのに、そいつらがいちいち聞こえるように嫌なことを言ってくる。

小さいことも全部。

呆れるくらい。



私は、ようやくクラスが替わって、やり直したいって思っていたのに。

現実は違ったの…。

『クラスが替われば、人も変わる。』

そう思ってた…。

でも、違ったの…。


『私を受け入れてくれる。』だなんて思ってくれなかった…。


クラスが替わっても私がいじめられていることを知っている人が居て、このクラスでも、私をいじめようとしていた。



『私がどんなに変わっても、周りは一ミリも受け入れてはくれなかった。』



新学期が始まって少し経った頃だった。

体力測定があった日、私は反論した。

なんでも、いつも、嫌なことを言ってくる人が、やっぱり今日も相変わらず嫌なことを言ってきたからだ。

けれども、そいつらは、ひとりでは嫌なことを言えない、ひとりでは嫌がらせができない人だった。

俗に言う、『ひとりでは何もできない人』である。


「うわっ…。」

「東堂さん、本気でやってんのかよ。」

「東堂さん死ねよ。」

いつもの嫌がらせを言う人が言った。

あとの腰巾着も続いて言う。



『だから、私、初めて反論したわ。』



「いちいち、うるせーんだよ。」

「私をいじめてるくせに。」

「お前らが死ねよ。」

「やられたこと忘れてないからな。」

「一生呪ってやる…。」

そう言った。

心がスッキリした。

まだ、いい足りないけれど…。



近くにいた先生は、驚いていた。



嫌がらせを言う人と、その腰巾着も少しは驚いていた。



けれども…やっぱり、状況は何一つ変わらなかった。



すぐに、また、いつもの悪口が始まったのだ…。



『何を言っても無駄だ…。』

と思った。


『反論しても、無駄だ。』

私は、肩を落とした。


そして、体操服から制服に着替え、私は教室に戻った。


席に着こうと、椅子に手を掛ける。


すると、あるひとりの女子生徒が私に向かって驚愕な言葉を浴びせる。


「お前が死ねば?」

冷たい目で嘲笑うかのような顔をしていた。



「っ……。」

私は何も言えなかった。



私は、咄嗟に教室から飛び出した。


心臓が妙な感覚がする。

バクバクと心臓を通して、耳からその音が響いて聞こえる。


私は、いつも、ひとりになれる場所がある。

そこにたどり着き、呼吸を落ち着かせる。



けれど、あの時、『お前が死ねば?』って言われたとき、友達も近くに居たのに、何一つ言ってはくれなかった。


『大丈夫?』とか、『気にするな。』とかそんなこと言われなかった…。

絶対に聞こえてたはずなのに。



『やっぱり、学校も地域も違ければ、こうも違うのか…。』

そう思った…。

私は、窓から見える眩しいくらいの青空を遠い目をして眺めた。



私は、いつものようにメイクをして、鏡に向かって笑った。

そして、軽い足取りで学校へ向かった。


そうしていないと自分に呑み込まれてしまう気がしたから。

また、あの時のように、笑顔も声も封印して暗く過ごしていかなきゃいけない生活なんて戻りたくなかった…。



でも、高校二年生になっても、本当の自分は出さなかった…。

出せなかった…。

友達の前でさえも…。


自分の本当に思っていることなんて、友達にさえ話さなかった…。


『自分が思っていること、好きなこと、笑顔さえも、すべて嘘だった…。』


嘘なら自分がもし傷つけられても、本当の自分ではないから傷つくのは軽い。

そう思ったから。


『自分を守るためだった。』


自分を守るために、本当のことは自分だけ知っていて、友達には、自分の事は殆んど話さなかった…。



また、あんな風になりたくなかったから。

私が話したことが周りの人に言いふらされたくなかったから。



『自分を守るために、自分に嘘をついたんだ…。』



自分が明るくしても、噂を追い払うことなんて出来なかった…。


結局、皆は、噂の方を信じる。

私がどんなに明るくしても、笑顔を向けても変わらなかった。


新しくクラスになっても、変わらなかった。

新しい友達も出来なかった。

皆、私に関わらないようにしていたのが分かった。


けれども、気にしていないように装った。

『辛かったけど…。』


クラスの友達が居れば、大丈夫!って思っていたから。



でも…。

『大丈夫って思いたかった…。』

もしかしたら、いい方向に行って、『学校が楽しく思えるのかも。』って叶いもしないことを願っていたから。



でも、あんなことをするなんて思わなかった。


5月の暖かい日が続いた頃。

クラスの友達から遊びに誘われた。

私は、もちろん。

誘いに乗った。

高校生で初めて高校の友達と遊ぶ。

こんな日が来るなんて思ってもみなかった。


私を入れて5人全員で遊ぶものだと思っていた。


このクラスになって、5人で一緒に行動することが多かったから自然と一緒に居るようになった。



けれども、待ち合わせに来たのは、私を入れて4人だった。

ただ、そのときは、『都合が悪かっただけ』だと思っていた。


皆とカラオケに行って、歌いまくって、ハンバーガーを食べながらドリンクバーで何杯も飲みながら、色んな話をしていた。

プリクラを撮って、ものすごく楽しかった。


帰りに、今日来なかった友達のことを何気なく聞いた。


「今日、来なかったね。都合悪かったのかな。」


そしたら、誘ってきた友達が、

「誘ってもどうせ来ないよ。」


そう言ったのだった。



『きっと…誘ってないんだな……。』

そう思った。



その遊んだ日から、誘わなかった子を友達はハブいているように感じた。



教室でも、授業の時でも、ランチタイムの時も、友達は山田ちゃんをハブいていた。



なんとも言えない空気が漂っていた。

話しかけずらいような雰囲気が。

あの『ピリッ』とした空気が。

私でも感じた。


きっと、山田ちゃんも気がついていたと思う。

友達が山田ちゃんをハブいていることを。

1年の頃は同じクラスだったらしい。

その頃、一緒に居たかは分からないけれど、でも、同じクラスだったんだから、平和でいようよ。

そう思った。



人がいれば、嫌な人も嫌なことだってある。

でも、それを許そうって思わないのかな。

自分の思うがままに行動なんて大人になったら出来ないのに…。

そう思っていた。



友達は、山田ちゃんをハブいて楽しんでいるようにも見えた。



けれども、私は、なにも言えなかった。

自分を守るために、友達に逆らえなかった。

私は、ただ黙って見ているだけだった。


そんな出来事が続いたある日の体育の授業の時に起こった出来事。


授業でバレーの試合をやることになった。

相手側は、隣のクラスの女子チーム。

私たちは、5人。

いつもの友達たちとチームになった。

もちろん、山田ちゃんもいる。


けれども、やっぱり、山田ちゃんに強く当たっていた。

相手側のボールが山田ちゃん付近に飛んできたとき、山田ちゃんは取れなかった。

そのとき

「ちゃんと取ってよ。」

そう友達が冷たく言っていた。

「……。」

山田ちゃんは、なにも言えなかった。



そんな様子が、高校一年の頃の私と被って見えてしまった…。



だから、私はほんの少しだけ、笑顔で優しく言った。

「ボール来たら、トスするとき、名前呼ぶから。」

「そうすれば、取れるよ。」

きっと、その様子を友達は見ていただろう…。

ほんの少しだけの笑顔は、友達に逆らえなかったから。

本当は、もっと笑顔で話したかった…。

けど、これが精一杯だった…。



「うん…。」

山田ちゃんは、頷いた。



『ほっ……。』

私は、張り詰めた空気の中、ほんの少しだけ心がホッとした。


けれども、友達はそんな様子が気に食わないようだった…。



不穏な空気の体育は無事に終了した。

でも、それからしばらくの体育の授業は、不穏な空気が漂っていた。


友達の気分を害さないために…。

私達は、ずっと空気を読んで合わせていた…。



でも、ランチタイムの時に、山田ちゃんがずっと居ないことを私は気にかけていた。



友達が居ないところを見計らって、山田ちゃんに話をかけた。


「ねぇ。」

「山田ちゃん!」


振り向いた山田ちゃんは、

口を開いた。



「凛。」

「どうしたの?」

いつもと変わらない様子の山田ちゃん。



「山田ちゃんって、」

「いつも、どこでお弁当食べてるの?」

「ほらっ。」

「いつも、ランチタイムの時、教室に居ないからさ。」

「気になって…。」




「あぁ。」

「お弁当は、前のクラスの友達と食べてるよ。」



「そうなんだ。」

「てっきり、教室で皆で食べると思ってたから、山田ちゃんが居ないのが気になって。」



「そう。」



「うん…。」



「今度は、こっちでも一緒に食べようよ。」

「山田ちゃん居ないと寂しいし、今のランチタイム、皆、違う教室で食べてるみたいだから、人少ないし。」



「うん。」

「ありがとう。」



「うんん。」

凛は山田ちゃんに向かって微笑んだ。



私たちは、ハブく友達に歯向かえず、ただ同調するしかなかった。


それからしばらく、微妙な空気の中、あることは起こった。


また、ある日の体育の授業だった。


私たちは、一緒に着替えて、体育館へと向かった。


その時、ある一人の女子生徒がこっちに向かってこう言ったのだった。


「山田さんのこと、いじめてんじゃねぇよ。」



私は、内心、『はぁ?』って思った。

なぜなら、コイツ、私の事をいじめてるからだ。


いじめている奴が、『いじめてんじゃねぇよ。』って言える立場じゃないでしょ。って思った。



だから、私は、無視をしてその場から離れようとした。


そしたら、離れようとしたところを気付いたのだろう。


「おい。」

「無視してんじゃねぇよ。」

コイツが言った。



私は、無視を貫いた。

もし、本当に、無視をして欲しくないなら、何だって出来るでしょう。

例えば、追いかけて、目の前まで来るとか。

体押さえるとか。

何だって……。


でも、そんなことは何一つ無かった。

言葉で言うだけ。



そして、友達は、口を開いた。

「いじめてないよ。」


すべては、嘘だ…。

ハブくこと、目に見えて分かっていた。

山田ちゃんの悪口を言っているのも知ってた。


なのに、それはいじめじゃない?



あんたさえいなければ、皆で過ごせてた。

友達だって言ってた。

「あんたさえ居なければ、こっちでうまくいくのにね。」って。


リーダーを取りたがるあんたには、こっちの気持ちなんて分からないんだろうね。




「いじめてないよ。」

それだけで、『いじめてる。』『いじめてない。』の争いは終わった。



なんて、幼稚な言い争い。

呆れる。

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