第9話

 時は進み、翌日。

〈諸君、今からとある儀式を行う〉

「儀式?」

新入隊員達は戸惑いながら、次の指示を待つ。

ツユも、指示を待った。

〈今から…一時間、生き残れ〉

(―――は?)

〈隊員達は新入隊員達に例のモノを〉

『イエス、ボス!』

二階から入隊式を見ていた隊員達は、ナニかを持って一階に降りてくる。

「……え?」

「銃…?」「ナイフ…?!」「刀?!」

そう、彼らが持って来たのは…武器。

新入隊員達の背中に冷や汗が伝う。

〈各自、武器を持て。生き残った者のみ、新入隊員として認定する〉

「そ、んな…」

ツユは絶望した。

(まさか、ミーナさん達が言っていたのは…この事だったの?!)

〈始め!!〉

ピーッ、と何処からか笛の音が聴こえた。

新入隊員達は、戸惑いながら武器を持つ。

かたかたと手が震えるツユ。

其れは、他の新入隊員にも言える事だった。

〈国を護るエージェントたるもの、仲間を、敵を葬る事もある。こんな事で躊躇っていたら、戦場では生き残れないぞ〉

其の時、銃声が聴こえた。

ぴちゃりと生温いナニかがツユの背中に付着する。

「…え?」

恐る恐る背中に付着したモノを手で拭えば、其れは真っ赤な―――血だった。

「ひ…っ!」

ツユは小さく悲鳴を上げた。

他の新入隊員達は、音が聴こえた方を向いた。

其処には…ツユ達と同じ位の歳の女子が、立っていた。

「ふふ、たーのし♡ねぇねぇ!もっと私に快感を頂戴!」

髪を高く二つのお団子に結い上げ、所謂中華系に加工した服を着て、新入隊員に襲い掛かるのは…

「冥土の土産に教えてあ・げ・る♡私の名前はぁ、新鄭しんちょんれい、だよ♡」


 「…私も、誰かを殺らなきゃ…」

ツユは、覚悟を決めた。

「ごめんね!!」

ツユは横にいた男子の大動脈を包丁で切った。

どさり、と男子は倒れた。

男子は何かを小さく囁いていたが、とうとう聴こえなくなった。

ヒューッ、ヒューッと呼吸がどんどん浅くなるツユ。

ツユの頬に返り血が伝う。

どくん、どくんと心臓が鳴る。

(駄目だ…私、なんて最低な事を……!!)

そう考える間にも、どんどん悲鳴が上がり新入隊員の数も減っていく。

黎新鄭は、どんどん隊員の数を減らしていく。

とうとう、大講堂に残る隊員は黎新鄭とツユのみになった。

「えーっ?!もう終わり〜?」

ぶー、と文句を言う黎新鄭。

〈新鄭黎、もう終わりだ。流石は新鄭家の一人娘。血を引いているな〉

「あはっ、ありがとぉ♡」

〈五月雨ツユ、お前も素晴らしい。ダイヤの原石だ。存分に誇るが良い〉

「は、はい…」

(人を殺って褒められるって…複雑……)

〈黎新鄭。五月雨ツユ。二人を、messiahの新入隊員として、認定する!〉

刹那、大講堂には割れんばかりの大きな拍手が起きた。

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