Capture6 思惑


「……ふむ」


イスナの遺品である刀が保持する記憶を頼りに辿り着いた彼女の職場は都内のオフィス街の一角…ではなく、東京都とは思えないほど緑豊かな広大な敷地に大きく鎮座する円筒形の建築物だった。

成り済ましてスンナリ潜り込む心算つもりで現地を訪れたものの、ソラは具体的なプランを組み立てていないことを思い出して立ち止まる。


……しまった。イスナは仇討の為に帰郷していても表向きは休暇だからな、それらしく手土産でもなければ辻褄が合わない。ひとまず、プランを練り直す必要は大いにあるだろう。


(“環境化学研究所fog blue”ね…。あきらか怪しいだろ)


人の容姿を歪めて鴉に擬態したソラは、ゆっくりと羽ばたいて風に乗ると、広大な山に埋もれるようにして建つ施設の上空から内部の気配を探った。

建物内部は一階から三階までが事務部で、三階からその先には実験棟と連結する医療施設が入っている。そして、最上階は納骨堂だ。

漏洩防止は元より、おそらく呪詛や人外の襲撃に備えてだろう。複雑に組み合わされた障壁呪術が堅牢に建物を覆い固めていた。

構内にある気配は7つ。男女とも誰もが鳴り止まない電話の対応に追われて隊員の殆どが疲労困憊という気配を立ち昇らせて死にかけている。

その場で唯一正気なのは、イスナの腹心の部下だろう彼一人だった。

デスクに置かれた卓上カレンダーは去年の11月の日付のままであり、もう既にイスナがここを離れてそろそろ4ヶ月が経とうとしている。生死を疑われないのが逆に不安を催すが、普段から長期間の留守が当然だとしたら…。


(だとしても、もう少し期をみるか)


暮れなずむ時計台のバルコニーに降り立ったソラは、螺旋状に輪郭を溶かして容姿を鴉から人間のものに戻した。

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