第18話 ウサギの牙 ラビットファング


「どうだね、泰明!楽しんでいるかい!」


「まぁな」


相変わらずの清々しい笑顔だ。


どんな人間か知らなかったら、騙されるな。


「それは良かった…それで俺はお前の罪を全て無かった事にして、住処とお金と女をあげた訳だ」


「確かに…だが、それは前回のゲームの勝者になった結果だろう?」


「その通りだ…我々は与えた…だがこの生活を維持するお金は掛かるんだぞ…それはどうするつもりだね」


これが目的か…まぁ別に良いけどな。


「それで俺は何をすれば良いんだ?」


「なぁに簡単だ、こちらが指定するゲームに参加してくれれば良い…出場するだけで、今の環境は保証しよう」


「そうか…ありがとうな」


多分、棄権なんて出来ない気がする。


前回のゲームはあれで、恐らく『まだ安全なゲーム』の筈だ。


恐らく、此処からは『あれ以上の地獄が待っている』筈だ。


「礼などは要らんよ!私達は泰明に期待している…それでこれから説明をさせて貰うから良いかね」


「解った…」


「まず、字が決まった」


「字?」


「そうだ、君の前で私が連れを『ツクヨミ』と呼んでいたのは聞いていたと思う…勿論、これは本名ではない…字だ」


「字ですか」


格闘技でいうリングネームみたいな物か。


「そうだ、強い殺人鬼には字がつく、尤も君の場合は実績も無いのに、つけたがる奴が多くてね特別に認める事にした、いやぁ…凄い人気だね…」


「そうですか」


「なんだ、余り嬉しそうじゃないな」


「いえ、ピンと来ないだけです」


「そうか…君についた字は『ウサギの牙 ラビットファング』だどうだ、なかなか面白いだろう」


え~とウサギに牙なんてあるのか?


俺はウサギに詳しく無いけど…あれは草食動物だから、牙は無いよな。


「ウサギって牙はあるんですか…」


「そんな物は解らないな…知りたければネットで調べたまえ、まぁ君の字はラビットファングに決まった…これからは私も『ラビットファング』と呼ばせて貰う…それでラビットファング、君のこれからだが『日本最強殺人鬼決定戦 アマチュアの部』に参加して貰う」


なんだ、それ…日本最強殺人鬼決定戦…最強なのにアマチュア。


「アマチュア…?」


「ハハハッ、そこ迄緊張する事はない! 本物の日本最強の殺人鬼を決めるのはプロの部の方だ。ラビットファング、君に出て貰うのはあくまで、アマチュアだ」


「アマチュア?」


「そうだ、君みたいに経験が低い人間が出る物で、まぁ前座みたいな物だ…使える武器も非合法品は無し、一般人が買える物に限られる、まぁ大した事ないよ」


アマチュアとはいえ日本最強の殺人鬼を決める戦いだ。


『殺しあい』だ、絶対に甘い訳はない。


「参加だけで良いのですか…解りました」


「ほう…あっさりしているな」


「どうせ、逃げられないならやるしかないでしょう…」


「どうも君はやる気がないね…そうだな、それじゃ面白くないから、万が一君が優勝したら、そうだなもう一匹ペットをあげよう…明日香を手に入れる過程でもう一匹手に入れた『竹中麗』をあげても良い…どうだ、ヤル気がでたか」


多分、明日香みたいに手足が無かったりするんじゃないか。


流石に1人居れば十分だ。


竹中麗は、貧乳の幼い感じのAV嬢で可愛いとは思うが、明日香みたいに一番好きという訳じゃない。


これ以上借りを作りたくないから要らないな。


優勝しなければ手にしないなら、準優勝で良いんじゃないか。


いや、生き残れる方法があるなら1回戦敗退で充分だ。


貰わないが『要らない』と言えば角が立つ。


「ありがとうございます」


「そうか、竹中麗についてはまぁ明日香に詳しく聞きたまえ…今回は金もあるんだ、その辺りで買える物なら…問題ない、1週間後に迎えを寄越す、準備して待つんだぞ…詳しくは後程メールする…では」


また地獄が始まるのか…


◆◆◆


わざわざ明日香に話して心配させても仕方がない。


ただ、竹中麗については話して置いた方が良いかも知れない。


「明日香、竹中麗って知っているか?」


「あははっ、貧乳の天使って言われているよね、胸が本当にペタンコで黒髪のロリータ系AV嬢…泰明はああいうのが好みなのかな」


「いや、違うよ…危ないゲームの商品みたいで、明日香が詳しいと聞いたから、それだけだよ…」


明日香の顔色が変わった。


悲しそうな顔になった。


「そうか…麗ちゃん生きているんだ…」


「どうかしたのか?」


「うん…私の唯一の友達…ユアシャークで同じように地獄の日々を過ごしていたの…あの子も私と同じでいつも酷い企画物に出されていたよ…嫌がる顔が人気だから、物凄くブサイクな男に輪姦されるようなのとか、綺麗好きだから、嫌がる顔がみたいらしくて、タン壺女とか、わざと汚物で汚されるような酷いのに出されていた…の…そしてこんな体になった私のお世話をしてくれたのが彼女よ」


そうか…神代は俺がこれを聞いたら助けたくなる、そこ迄踏んで…俺にこの話をしたんだな。


「明日香は助けたいのか…」


「助けたいよ…だけど無理はしないで良いからね…確かに恩はあるし大切な友達だよ…だけどね泰明の方が大事…だから泰明が危ない思いするなら見捨ててよいから」


そう言いながら肩を震わせている。


大切な存在なんだな。


『俺には大切な存在は居ない』


しいていうなら、明日香が唯一の存在なのかも知れない。


仕方ないな…


「明日香、期待はしないでくれ…俺はそのゲームには強制的に参加させられるんだ…だから助けられるなら積極的に狙ってはみるけど…俺が勝ち残るのは難しい期待はしないでくれ」


「そう…ありがとう」


「俺は期待はしないでくれ…そう言ったんだよ」


「うん…それでもね、ありがとう」


ハァ~ 


今回の大会は前とは違う…


アマチュアとはいえ、殺人鬼との戦いだ。


前回みたいに…相手に慢心は無いだろう。


そんな中で俺はどうすれば良いんだ…


どっちみち逃げられないなら…やるしか無い…



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