第5話 ただ運が良かっただけだ

テレビのモニターは消えた。


あと1時間もすれば、理不尽なハンティングゲームが始まる。


考えろ…少しでも生き残る確率をあげる為に!


『死にたい』そう思っていたが…今は死にたくない。


神代は『生き汚い』そう言っていたが…違う。


同じ『死ぬ』と言っても…自由に成る為に死ぬのと…


誰かに、尊厳を弄ばれ死ぬのは大きく違う。


さっきドアのノブをまわしてみたら、回った。


そうでなくちゃゲームじゃない。


ゲームという名前を付けている以上はある程度の公平性がある筈だ。


何やら泣き喚いている三人を背に部屋を後にした。


ハンターである殺人鬼は2人…別行動で逃げれば、逃げられる確率は上がる。


運が良ければゼロ。


確率の高いのが1人…最悪は2人。


だが、纏まって逃げるよりは確率が高くなる可能性がある…それに…


『道具は限りがある』


まずはフォークやナイフだ。


さっき迄バーベキューで使っていた物がそのままあった。


流石に包丁や串は無くなっていた。


他には…ライター等、使えそうな物は全部持って行く。


なにか着替えは…無いな。


糞っ!


この変態みたいな恰好で逃げなくちゃいけないのか…


今の時点で10分。


少しでも時間を稼ぐ為にもう出た方が良いだろう。


少しでも時間を稼がないといけない…


中ではまだ三人が神代の事を罵っている声が聞こえる。


下手に加わって一緒に『逃げる事』になったら最悪だ。


やるなら1人…昔から仲間なんて居ない。


下手に仲間なんて作っても裏切られる。


昔からそうだ…信頼しても…裏切られる。


僕の人生はずうっとそうだった。


仲間を信じて裏切られる。


此処に来ても同じだ…心からの信頼はしていなかった。


だが、1人で死ぬのが悲しく寂しかった。


誰かに一緒に死んで欲しかった。


それだけだ…


それなのに…これだ。


いつも僕は裏切られてばかりだ…


神代、俺はお前の思う通りにはならない。


例え、死ぬにしても…お前達の思い通りには死なない!


◆◆◆


恐らく、相手は少しでも早く『下に降りる』そう考えて山の下方で構えている可能性が高い。


だから僕は敢えて上に進む…上に進んで、そこから違う方向に進む。


これだけでGPSでも無ければ追えないだろう…


一応チェックしてみるか? 


チョーカーは、簡単に外れた。


案外、神代は公平なのかも知れない。


しかし、本当に自然の多い山だ。


武器になりそうな物は無い。


不法投棄された物も何も見つからない。


幾つか石を手にした。


一応、このバニースーツポケットはあるが小さく小石しか入らない。


無いよりはまし…そう思いポケットに入れた。


がさっ…嘘だろう…


ざざぁぁぁぁぁーーっ…


「うわぁぁ…(駄目だ声を出しちゃいけない)」


草むらを踏んだ瞬間僕は釣り上げられた。


『ヤバい』もう終わりだ。


まさか、くくり罠が仕掛けてあるとは思わなかった。


幸い鈴等、音が出る物は仕掛けられていない。


回りを見るが誰も人は居ない。


『運が良かった』そうとしか思えない。


恐らく、この場所は巡回して回ってくる場所なのだろう。


今は周りには誰も居ないようだ…


良かった。


しかもワイヤーとかではなくロープだ。


僕は持っていたナイフでロープを切り下に落ちた。


高さもそれほどでも無かった。


これは運が良かっただけだ…


これがもし違う罠だったら…


例えばトラバサミだったら、僕の足はダメージを食らい真面に歩けなくなっていた。


落とし穴で下に刺さる物があったら、人生が終わっていたかも知れない。


ただ、ついていただけだ。


より慎重に行動しなければ、そこには死しかない。


今、死ななかったのは『ただ運が良かっただけだ』


気を引き締めて僕は山を登り始めた。



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