第22話 盗賊

「てめぇら、俺のキャンピングカーに傷をつけるなよ! 傷の分だけお前らの全員に倍以上の傷を負わせてやるぞ!」


 温厚な猛が珍しく怒っていた。結斗は余裕の表情でパスタを食べている。レベル五十以上の勇者結斗にとっては盗賊などどこ吹く風なのだろう。

 ではアメリア様は? 食い気だろうか? うっ、睨まれた。私の考えを察したようだ。でも太った姿で口から長いパスタを半分垂らした状態だとまるで欲張りのオークにしか見えないからその姿は止めて欲しい。


「てめぇら、何余裕ぶっこいてんだ! さっさと男どもは金目の物置いて逃げろ。でないと殺すぞ」


 あっ! 馬鹿な盗賊が剣でキャンピングカーを小突いた! 何も知らないとは恐ろしい。次の瞬間その盗賊の頭が胴に永遠の別れを告げたのだった。吹き出す血がキャンピングカーを濡らす。


「て、てめぇらの血は何色だぁ!?」


 いや、赤だろ、見えてるし。


「俺のキャンピングカーに傷をつけただけでは飽き足らず血で汚しやがってぇ!」


 いや、怒鳴ってるけど、それ自業自得だし。


「男どもを殺せ! デブ以外は殺すなよ。美人が多いぞ」


 盗賊達は一瞬たじろいだものの盗賊のかしらの一言で自らを奮い立たせ私達の制圧に取り掛かる。パスタを頬張っていたアメリア様は一瞬盗賊のかしらをキッと睨んだものの再びパスタに取り掛かる。


「怯むな! や‥‥」


 部下を叱咤していた盗賊のかしらあたまを地面に落とし自らもくずおれた。

 えっ! まさかアメリア様が一瞬で?

 私と目があったアメリア様は私にどや顔で頷いてまたパスタに取り掛かる。やはり私の考えが分かっているようだ。かしらがやられた盗賊達はかしらが殺された方法が分からず恐怖に包まれた。引き攣った顔で少しずつ後ずさった後、反転し逃亡を開始した。

 結斗たち男どもは追いかけるのかと思いきや何事もなかったようにパスタを食べ始める。


「追いかけないの?」

「もう怒ってないし」


 珍しく怒りを見せた猛は、車を小突いた盗賊に復讐を果たした所為か、いつもの猛に戻っていた。でも首切るなんて復讐の度合いが凄惨過ぎるよ! 惨烈を極めてる! もう首切るなっちゃ! アメリア様もね


 なぜそこで私を見て頷く? 絶対私の思考が漏洩してるよね? おかしいっちゃ。


 こんな時絶対騒ぐ芽衣が居ないと思ったらバートランド王子と車の中で昼ごはんの真っ最中だった。貧乳に興味のないバートランド王子に無駄な努力を続ける芽衣は健気だ。少々迷惑そうな王子の表情など一切無視して自己主張。これ余計に嫌われるやつだ。だけど本人は全く気付かないパターン。ストーカー思考だね。

 双子は落ち着いたのか漸くパスタを食べ始める。召喚されたばかりのタケ子と美桜は初めての体験だったようで相当ショックを受けている。顔が二人とも青い。パスタが大分残っているけど手を付けずコーヒーを飲んでいた。何回も盗賊に襲われている内に慣れると教えよう。

 この世の中、景気もそれほど良くないから盗賊も多い。盗賊の脅威は無くならない。芽衣の胸囲は無いけどね。ってなぜアメリア様が私見て親指立ててにやって笑ったの? 芽衣の胸事情を嘲った私に共感したのだろうか?


 △▼△


 食後、またアメリア様はルーフの上の銃座に座って周囲の風景を眺めている。相変わらず強く吹く風は彼女の髪を慌ただしく揺さぶる。一つに纏められているとはいえまるでこいのぼりの様にたなびいていた。時折巨大な空飛ぶトカゲが彼女を美味しく頂こうと急降下して来るがその度に黒い球が現れてトカゲは吸い込まれていく。


「あれ、一華、ワイバーン食べたかった?」


 どうやら私は物欲しそうな顔をしていたようだ。


「ううん、見ていただけっちゃ。でも、素材が売れたり肉が食べれたりしないのかなって思ったっちゃ」

「そうっちゃか? ワイバーンの肉は美味しいらしいよ、食べたことないけど。次は首切って肉は確保するよ」

「マネしないで」


 キャンピングカーは巨大でマックスプロの銃座が前後に二つ取り付けられている。前後ともボルト留めではなく溶接したらしい。前後の銃座の間にソーラーパネルが取り付けられていて車内の電力を賄っている。ガソリンは猛が召喚するので無料だ。恐らく元の世界のどこかのガソリンスタンドか石油メジャーからこっそりと召喚されてくるのだろう。車や銃や弾丸もアメリカから召喚しているらしい。銃は恐らくどこかの軍事基地から備品をこっそり召喚しているのだろう。出来れば地中海近辺の危ないところから召喚して欲しいがAKがないので恐らくはアメリカだろうと猛は言っていた。出口の傘立てにはまるでコンビニの傘立てに建てられた傘の様にアサルトライフルが立てられている。直ぐに使用可能だ。

 勿論銃は私達四人の勇者には効かない。召喚されたての二人の勇者、タケ子と美桜はまだまだの様で怪我をしそうだ。

 勇者ではないがアメリア様にも銃は効かないらしい。何でも殺されそうになって防御方法を見つけたのだとか。それがいつも彼女の頭の上に浮かぶ天使の輪だ。本当に天使の輪の様に頭上に輪っかが浮かんでいる。でも私達が天使の輪と呼んでいるだけなのだけど。

 その天使の輪が危険を察知すると三つの黒い球に変わって彼女の頭上を旋回し始める。まるで衛星のようだ。それが銃弾を防ぐらしい。なんでもその黒い球の引力によって弾丸だろうと光線だろうと引き寄せ消滅させるらしい。まるでブラックホールだ。

 天使の輪の状態でもそれなりに魔力を注ぎ続けているらしいけど、黒球に変わった途端膨大な魔力が必要になるらしい。その魔力をねん出できるアメリア様の魔力の元である体内の魔素は私たち勇者でも敵わない程の量を保有していると結斗が鑑定で調べて教えてくれた。



 ◇◇◇◇



 いくつかの村を素通りした。この世界には大きな街は少ない。宿もない街には寄るだけ無駄だとの結斗の一言で大きな街まで素通りすることになったのだ。誰も反対する者はいなかった。皆育ちが良く、特に異世界から来た私達は蚤や虱の跋扈する藁の布団は耐え難いものがある。皇族の双子にも藁の布団は耐え難いものがあるだろう。そして、二日後巨大な城郭を備えた城郭都市に到着した。街の名前はエルドラリア。エルドラリア公爵の治めるこの領の領都だ。


 エルドラリアは交通の要衝でいくつかの国がこの領都を通って帝都へと至ることになる。エインズワース王国もその一つで帝都に向かう時はこの都に立ち寄ることになる。

 そんな領都だからこそ各地の産物が集まり人が集まり金が集まり都市は整備されていた。しかし、光ある処に影が出来るように貧富の差は激しさを増していた。そしてそれが差別を生んでいたのだった。


「本当に行くの?」

「食料を買いこまないと。生鮮食品とかは召喚出来ないんだって。アメリア様は車で待ってていいよ、行きたいやつだけで行ってくるから」


 挙手を募るとアメリア様以外全員の手が挙がった。双子は残っていた方が良いと思うのだけど‥‥

 仕方無くアメリア様も行くことになった。双子はウイッグを召喚し髪を茶色に変え目はコンタクトレンズを召喚して茶色く変えた。アメリア様もウイッグを被ったが髪型も色も変わらなかった。そもそもアミュレットで黒の髪に見せているのだから変わる訳がなかったのだ。目も同じだ。アメリア様は残るかそのまま行くかの決断を迫られた。


「分かった、一緒に行く。元の姿になって変装する」

「双子にばれるわよ」

「双子は賢いから内緒にしてくれるでしょ。そもそも変身した容姿もバレてるのだから変装する意味もあまりないし。っていうかもうこの姿は嫌って言うのが本音かな」


 そりゃそうでしょ。キャンピングカーではいつもルーフの銃座に上がってアミュレット外してんだから。

 アメリア様はみんなの前でアミュレットを外した。みんなは知ってるけど知らなかった双子は目を瞠っていた。


「その髪と目、デブのアメリアは僕の親戚か何かか? そもそもデブじゃなかったのか?」

「チーロ、口が悪い。皇帝の息子だったけどもう違うの、もう偉そうに人を見下してはダメなのよ。それから、私はあなたの従姉よ。チーロとアリーナと私の三人は新皇帝に狙われてるの。目立っては駄目よ」


 皇子だったが故に性格が高慢になってしまった自分の従弟を躾けるアメリア様。そこには恨みの様な物が籠っていてデブと言われ続けたのが堪えていたのだろう。


 双子を諭すとアメリア様は一般的な茶色いウイッグを被り茶色いコンタクトレンズを入れる。そしてキャンピングカーは猛のアイテムボックスへ仕舞い込み全員で領都を満喫しに出かけるのであった。まさか、アメリア様が後悔することになろうとは思いもせずに。

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追放された令嬢は暗殺未遂容疑で逃亡中の父とともに匿われたが呪具で容貌を変えぶくぶく太って舞い戻る 諸行無常 @syogyoumujou

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