第6話 王女殿下とメイド

「ふぅ、こんなもんか」

「ルイス様、こちらで最後になります」

「あぁ、ご苦労」

 一通り薬草採取を終えたので、俺は薬草を詰めたカゴを持って立ち上がる。

「あれ、もこはどこに居るんだ?」

周りを見渡しても、もこの姿が見当たらない。

「おかしいですね。さっきまで、近くに居たのですが……」

 俺とリナは居なくなったもこを探す。

「もこ、どこだー!」

「居るなら返事をして下さーい!」

 すると、森の奥からもこが全速力でこちらに向かって走ってきていた。

「おーい、もこー帰るぞー!」

よく見ると、もこの後ろから何やらドデカイ何かが居るのが見えた。

 その正体はドデカイ岩のゴーレム、通称ストーンゴーレムだった。

 ここで俺はひらめく。

「リナ」

「何でしょう? ルイス様」

「俺とお前でどちらがより多くゴーレムの攻撃を避けれるか勝負だ」

「承知致しました」

「さて、鬼ごっこの始まりだ!」

 ゴーレムとの鬼ごっこが幕を上げた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「アリエル様、本当によろしかったのですか?」

「何が〜?」

 窓の外の景色を見ている少女はメイドに陽気な声で応える。

「その、陛下に報告せずに外出して」

「いいの、いいの。大体お父様は頭が固すぎるのよ」

 少女は、頬杖ほおづえを付いているひじと逆の手を左右に振りながら言う。

「お嬢様がトラブルに巻き込まれる体質では無ければ、私も少しは楽なんですが……」

「何よ、ソフィア。文句があるなら言いなさいよ」

「いえ、何でもございません」

 馬車の中でメイドの【ソフィア】と話す【アリエル】は、少数の護衛を引き連れて、どこかに向かっているようだ。

「きゃあっ!」

「お嬢様!!」

 ソフィアは咄嗟にアリエルを自分の体で護る。

「お嬢様、お怪我はありませんか?」

「イ、イタタタ、大丈夫よ。庇ってくれてありがとうソフィア」

「勿体ないお言葉です」

「それにしても一体何事?」

「アリエル様!」

 馬車にある小窓から顔を見せたのは護衛の一人である【ポール】だ。

「どうしたの、ポール! 一体何が──」

「山賊でございます! 森から山賊共が現れ、ただ今我々で交戦中です」

「山賊!?」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「あ~はっはっは!」

「ルイス様、何だか楽しそうですね」

 俺たちはゴーレムと一緒に鬼ごっこの真っ最中!

 ちなみにもこは蜘蛛糸を使って、俺の頭にしがみついている。

「あったりまえよ! 何せ、こういうのを楽しみにしてたからな!」

 俺の胸の鼓動が高鳴る。

「それにしても、流石にゴーレム相手だと避けるのは簡単ですね」

 リナはゴーレムの攻撃をジャンプで避けながら言う。

「まあ、仕方ないさ。ここら辺の魔物は俺たちにとっちゃハエみたいなもんだから」

 あれやこれやと二人で話していると、奥の方で何か人影が見えた。

「ルイス様、遠くに人影が見えます!」

リナは走りながら奥を指さした。

「あそこまで、ゴーレムを引き連れて行け。そしてリナ、お前が叩け!」

「はっ! 仰せのままに」

「では、このまま行くぞっ!」

 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「──ポールッ!!」

「アリエル様のことは、この老いぼれの命に変えても御守りして見せます。ハァ……ハァ……」

「ひゃっはぁー!! アンタ一人で何が出来るってんだ? なぁ、聞かせてくれよ。爺さん?」

 この時点で生きて残っている護衛は、ポールただ一人。他の者はみな山賊に殺られてしまった。

「クッ、ここまでか……」

 ポールたちが全員諦めた時である。

「親分大変だ!」

「おっ、どうした子分1」

「森の奥からゴーレムを連れて走ってくる奴らが来ます!」

「な、何?! ゴーレムだと?!」

 山賊の頭は海賊望遠鏡で見る。


『ほら! もっと早く!』

『はい! ルイス様!』

『そんなんでへこたれてたら、ヘタレって呼んでやるぞ!』

『はっ、はい!』


「な!? オイ、ずらかるぞ! あんな化け物、俺たちじゃ無理だ!」

「へ、へい!」

山賊共はゴーレムを見るやいなや逃げ始めた。

「助かったのかの? じゃが、一難去ってまた一難か……ツイテナイのう」

「ヤ、ヤバいよ! ソフィア〜! ゴーレムに潰されちゃうよ〜!!」

「分かっています。分かっておりますから、まずは お嬢様、私の肩を乱暴に揺らしているその手を退けてください!」

「アッ、ゴメン。ソフィア」


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