第5話 冒険者ギルド

 俺ことルイスは絶賛書類整理中!! その横ではベルファストが懐中時計を見ながら時間を測っていた。

「よーし、終わったー!!」

 俺は椅子に座ったまま、ぐーんと腕を伸ばし背伸びをする。

「ルイス様、今日もお疲れ様でした。本日は、昨日よりも少し早く終わられましたね」

 俺が背伸びをしているすぐ横でベルファストは俺が終わらせた書類をまとめていた。

「まあ、これくらい大した事ないよ。ちょっとした暇潰しみたいなものだし。なぁ、もこ〜」

 俺は頭に乗っかっている、【もこ】の首回りをそっと撫でながら話しかける。

 すると、もこはとても気持ち良さそうにしてもっとやってと、おねだりしてくる。

 【もこ】とは、先日助けた蜘蛛の魔物に付けた名前だ。どうだ! 俺にしてはとっても可愛いネーミングだと思う。

 え? なんで、もこって名前だって? どっちかって言うとゴツゴツだって? 分かってないなぁ〜。

 てか、見た目がもこもこだからって理由じゃないし。蜘蛛子→くもこ→もこ。くを抜いただけだし。

 え? 安直にも程があるだと? 良いんだよ! 俺が気に入ったから!

「それにしても、ベルファストは凄いな。書類整理の片手間に紅茶を入れるなんて並のメイドならそんなことは出来ないぞ?」

 ベルファストは書類整理の片手間に紅茶を入れるという俺には到底出来ようもない高等テクニックをやってのけていた。

「そうでしょうか? 私にとっては、このくらい普通のことでございますが……」

 あらやだ、この子。自覚が無いみたいだわ。っと前世の奥様風に心の中で呟いた。

「ルイス様、本日のご予定はどうなされますか?」

「そうだな、取り敢えずリナともこの武術の稽古かな……」

 俺は顎に手を当て考える。

「あっ、そうだ!」

「どうかなされましたか? ルイス様」

「今からリナともこを連れて、冒険者ギルドに向かう。ベルファスト残りの雑務は任せたぞ」

「承知致しました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」

 そう言い、俺は部屋を後にするのだった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「冒険者ギルドにようこそ! 私は受付を担当している【ステーシー】と申します」

 ということで、俺とリナともこは、近くにある冒険者ギルドに来ていた。

「冒険者登録をしたいのだが」

「冒険者登録ですね」

 ステーシーは机の中から紙を取り出す。

「では、まずはこちらの紙にお名前の記入をお願いします」

 俺は言われるがままに記入しているとき、ふと思った。

「あの、コイツも名前を書くのか?」

 俺は頭に乗っているもこに指を指す。

「えっと〜、人では無いので……大丈夫ですよ」

 ステーシーは苦笑しながら言った。

 何か変なことでも言っただろうか。

「はい、これで冒険者登録は完了ですね。この冒険者プレートをお受け取り下さい」

 俺はステーシーから冒険者プレートを渡された。

「早速なんだが、何か依頼はあるか?」

「そうですね〜。は今日初めて登録されたので、Fランクからのスタートになりますので、薬草採取とかですかね」

 ステーシーがそう言うとリナが口を挟んできた。

「おい、貴様。ルイス様とお呼びしろ。無礼だぞ!」

 リナは俺に対して様を付けなかったステーシーに声を張り上げる。

「リナ、よせ。俺は冒険者としてここに来ている。普段の俺は貴族でも、ここに来ている以上は冒険者の一人に過ぎない」

「はっ、失礼しました」

「うちの者が失礼した」

 俺はステーシーに深々と頭を下げて謝罪する。

 全く、忠誠心が高すぎるだろうに。

「い、いや大丈夫ですから! 頭を上げて下さい!」

 そう言われたので頭を上げる。

「あの一つ聞いて良いか?」

「はい、答えられる範囲であるば何でもお答えいたします」

 そして俺は聞かなければならないことがあるため、ステーシーに聞く。

「冒険者ギルドについて説明を受けていないと思うんだが」

「あ、すみません! うっかりしてました!」

 ステーシーは謝り慌てて説明を始める。

「まず、冒険者ギルドには冒険者ランクが存在します。OMG、S、A、B、C、D、E、Fで冒険者ランクには全部で八段階あります。OMGはオメガ級と言って世界でも片手で数える程度しか存在しません。また、ランクによっても報酬は大きく変わります。討伐依頼は最低でもC以上ではないと受けることは出来ませんのでご注意下さい」

「説明ご苦労。うっかり受付嬢!!」

「それはもう忘れて下さい!」

 ステーシーは顔を少し赤くさせながら怒ってくる。

 控えめに言って可愛い。

「じゃあ、今、Fランクの依頼は何があるんだ?」

「そうですねぇ〜、今は薬草採取くらいしかありませんが良いですか?」

「あぁ、それで構わない」

 俺は薬草採取の依頼を受けたので早速向かうことにした。

「おーい、そこのお嬢ちゃん。俺たちとパーティー組まねぇか?」

 冒険者ギルドから外に出ようとした所で、椅子に座って酒を飲んでいる柄の悪い服を着た三人の男たちがリナに話しかけてきていた。

 おい、テメェら! 俺の所有物であるリナに気安く話しかけてんじゃねぇよ! このうじ虫共!! 殺すぞゴラァアアア!! という言葉を吐くのを心の奥底で我慢していた。俺、偉い。

「お言葉ですが、私は既にパーティーを組んでおりますので。あなたたちと組むつもりはありません」

リナがキッパリと男たちに向かって言った。

 流石、俺の手駒だな。断り方も心得ている。

「良いじゃんかよ〜」っと言うと一人の男は立ち上がりリナに近付いてくる。

 

〈おい、アイツらまた絡んでるぞ〉

〈酒癖ほんとに悪すぎだろ〉

〈それに加えて初心者狩りとくる〉

〈今度はあのパーティーか、可哀想に〉


 ふむ、どうやらコイツらは評判が悪いみたいだな。

「ヒック、そんなつれねぇこと言うなって。そこにいるより気持ち良いこと出来──」

男が言い終える前に、リナのレイピアによる見えないスピードで繰り出される攻撃により首が音もなく斬り落とされた。

「外道が、私の偉大なる恩人であらせられるルイス様に対してガキとは、不敬にも程があるぞ! その言葉、万死に値する!! その罪死んで償え!!」

二人の男たちは首を斬り落とされた仲間を見て怯え、青筋を浮かべたリナは男たちに歩み寄る。

「リナ、そのくらいにしておけ。これ以上騒ぎが大きくなると少々面倒だ」

「承知致しました。ルイス様」

 リナは立ち止まり、俺の言われた通りにし、レイピアに付いている血を払い鞘に納める。

「命拾いしたな。ルイス様に言われなければお前たちを私は斬っていた。感謝するんだな」

 リナは男たちにそう言い残し、俺の元に小走りで来るのを確認した俺は薬草採取に行くため冒険者ギルドを後にした。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「そうですね〜。は今日初めて登録されたので、Fランクからのスタートになりますので、薬草採取とかですかね」

 私はこの言葉を聞いた瞬間、この娘は何を言ってるんだと思った。

 あの受付嬢の娘の何が気に入らなかったか……

 それは──我が愛しの主であるルイス様をだと……一体ルイス様を何だと、何だと思っているのか!!

 私にとっては神にも等しいお方であるルイス様を! ルイス様を! よくも! 脳が、脳が! っと頭に血が上って来るのを何とか抑え、心の中で頭を両手で抱えて悶える。

「おい、貴様。ルイス様とお呼びしろ。無礼だぞ!」

 しかし、私はルイス様の騎士。こんなところで、私が暴れてルイス様の評価を下げまいと何とか耐えるが──

「リナ、よせ。俺は冒険者としてここに来ている。普段の俺は貴族でも、ここに来ている以上は冒険者の一人に過ぎない」

 ルイス様に注意されてしまいました……す、好き♡

 平民たちにも同じように接すると、おっしゃるそのお心の大きさにリナは感動ですぅ! 

 こんな世界のゴミ共には、罵詈雑言を与えていれば良いと思っていた私は非常に愚かでした!

 ルイス様……カ、カッコイイです!! 

 ハァ、ハァ、これはご飯が何杯でも行けそうです〜。


 その後、受付嬢のステーシーの話を一通り聞き終わり、依頼にルイス様と共に依頼に向かおうとしたとき──

「おーい、そこのお嬢ちゃん。俺たちとパーティー組まねぇか?」

 椅子に座り酒を飲んでいる男達いや訂正──ゴミ虫たちが私に話しかけてきた。

「お言葉ですが、私は既にパーティーを組んでおりますので。あなたたちと組むつもりはありません」

 当然です。ルイス様だけが私の生きる価値。

 こんな、賊のような連中について行く義理はないのでキッパリと断ってやった。

 だが、近寄ってきた男は私に対して絶対に言ってはならない言葉を口にしてしまう。

「ヒック、そんなつれねぇこと言うなって。そこにいるより気持ち良いこと出来──」

 男がその言葉を発した瞬間、私は言い終わるよりも先にレイピアを抜いて、首を斬り落とした。

「外道が、私の偉大なる恩人であらせられるルイス様に対してガキとは、不敬にも程があるぞ! その言葉、万死に値する!! その罪死んで償え!!」

よくも、ルイス様を。ルイス様を!! 扱いしてくれたな!!

 流石の私もこれには許容が出来ず、堪忍袋かんにんぶくろの緒が切れた。

 私は酒を飲み怯える男たちに歩を進めた時──

「リナ、そのくらいにしておけ。これ以上騒ぎが大きくなると少々面倒だ」

 ルイス様からそう言われ、私は冷静さを取り戻した。

「命拾いしたな。ルイス様に言われなければ、お前たちを私は斬っていた。感謝するんだな」

 私は男たちにそう言い残し、ルイス様の元に向うのだった。



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