第4話 悪友との会話
「ほっ、良かった……」
やがて無事高校に到着。あれから俺を置いて自分が在籍する隣の教室へ先に行ってしまった華恋だったが、教室の扉を開けて自分の席に座った俺は、まだ高槻さんが登校していないことに安堵しながら溜息を吐いた。
「やっぱり気まずいなぁ……」
———先日俺とのデート後に嘘コクだとカミングアウトした女の子、
身長はすらりとしており、彼女の雰囲気としてはキラキラしたギャルに近いだろうか。きめ細やかな肌をした小さな顔は一つ一つパーツや輪郭が整っていて、特にぱっちりとした瞳はとても魅力的。金色のロングヘアは丁寧に手入れされているらしく非常に艶やかで、毛先はふんわりとウェーブが掛かっているようだ。制服越しに見ても締まるところは締まり出るべきところは出ている、そんなスタイル抜群なモデル体型の持ち主で、本人のその性格も陽キャの如く底抜けにポジティブで明るい。
彼女は俺や華恋と同じ同級生で、クラスでは一際目立つムードメーカー的な存在だ。幼馴染である華恋に並ぶ『百年に一度の美少女』と周りから呼ばれるほど容姿が整っているギャル系美少女である。
さて、そんな彼女に告白されて約一ヶ月間付き合った訳だが、俺はといえば登校中の華恋との会話がきっかけでとあることに対し良心の呵責に苛まれていた。
(嘘コクされたことに幻滅して遊園地に置き去りにしてしまったけれど、今思うとあの対応は流石に酷かったか……?)
俺が高槻さんに嘘コクだとカミングアウトされた昨日。勿論怒りもあったが、それ以上に嘘を吐いていた彼女への興味が途端に冷めてしまったのだ。その理由は、以前華恋との出来事が原因で嘘を吐くのも吐かれるのにも嫌悪感を示してしまうようになったから。
今思えば俺への嘘コクも罰ゲームで仕方なく、という高槻さんの事情もあったのだろうが、それを言ってしまえばこちらの事情も彼女は知らない。あの時ああすれば、こうすればといった後悔が脳裏にぽつぽつと浮かんでは消えるが、いずれにせよ俺の精神面が未熟であったのは間違いないだろう。
だからこそ、今更ながら高槻さんを置き去りにしてしまったことへ罪悪感を覚えていた。
自分の席に座りながらしばらく間これからどんな顔をして高槻さんと関われば良いのだろうと溜息を吐いて悩んでいると、ふと前方から聞き慣れた声が聞こえた。
「よっ、朝から随分元気ないな。正也どしたん?」
「智樹……」
身体ごとこちらに向き直りながら俺に話し掛けてくるのは、高校に入学した頃からの友人である
なんやかんや一緒に行動する機会の多い智樹だが、隣のクラスに在籍する華恋が古くからの幼馴染だということは知らない。どうやら隣のクラスにいる華恋が
さて、観察力が鋭い智樹のことだ。登校するなり俺が浮かない表情なのが純粋に疑問なのだろう。
「別に、なんでもない」
「いやいや、そんなばつの悪そうな顔してなんでもないってことはないだろ。ほら、ゲロっちゃえよ」
「………………はぁ」
思わず溜息を吐いてしまう俺だったが、実は智樹は俺と高槻さんが付き合っていることを知っている。本来であれば彼女が恥ずかしいから付き合っているのは秘密にしてほしいと言っていたので、クラスメイトや同級生などは俺たちが恋人同士であることは知らない。だが智樹は見た目の割に案外口が固いので彼だけには打ち明けていた。
今思えば高槻さんが付き合っていることを秘密にしてほしいと言っていたのは、きっと嘘コクだったからなのだろう。なんだか計画的というかなんというか。やや女性不振になりそうである。
それはともかく、まぁ智樹にはこれまで色々とデート場所やエスコートなどでアドバイスを貰っていた恩がある。智樹には他言無用だと念押しして、別れた事実を伝えても罰は当たらないだろう。
「絶対に大きな声で騒がないでくれよ」
「ああ」
「フリじゃないぞ」
「わかってるから、早く言ってくれ」
「彼女と別れた」
「…………はあ!?」
突然大声で叫んだ所為で教室にいたクラスメイトからの注目を浴びてしまうも、慌てた智樹がなんでもないと誤魔化すと皆興味を無くしたかのように視線を戻した。
そして驚きに目を見開きつつも表情を強張らせた智樹が改めて俺の方に顔を向けるや否や、口元に手を
「えっ、彼女ってあの彼女だよな? これまで何度かデートしたっていう高槻ちゃんで間違いない?」
「あぁ、そうだ。間違いない」
「いったいなんでだよ。付き合っていた期間はあの時からだいたい一ヶ月くらいだろ? まだ互いのことをゆっくり知っていく段階じゃんか。あんな可愛くて気配り上手な子と別れたなんてマジ信じらんねぇ……」
「いろいろ事情があるんだよ」
「……はっ! お前まさか、無理矢理キスしようと迫ったんじゃ———」
「誰が発情猿だ馬鹿野郎」
「そこまで言ってがふっ!?」
なんだが謂れのない風評被害を受けそうになったので、軽く智樹の頭のてっぺんに手刀を叩き込む。涙目で痛そうに悶えているがそこまで痛がる必要はないだろうに。
いくら小さい頃から未だに筋トレを続けているといえど、華恋との出来事を境に空手道場に通うことは無くなったので高校生の腕力など高が知れている。今では流石に黒帯有段者である華恋に勝つことも出来ない程弱くなっている筈なので、別にそれほど痛くはないと思うのだが。
「たく、自覚がないのもタチが悪い……っ」
「?」
「男がこてんと首を傾げても可愛くねぇんだよなぁ」
「話を戻すけど、そういう訳だからそっとして貰えると助かる」
「あいよ。ま、お前がヘタレってことも知ってるからなぁ」
「おい」
調子を戻した智樹の揶揄いに軽く返事を返すも、そんな友人の様子にどこか安堵している自分がいて。どうやら俺と高槻さんの間に何かがあったのだろうと察しているようだが、きっと智樹なりに気を遣ってくれているのだろう。
(嘘コクされたとはいえ、そう簡単に吹聴する事じゃないからな。それに……)
華恋には誰に嘘コクされたのかつい話してしまったが、念のため他言しないよう釘を刺しておいたのできっと大丈夫な筈だろう。彼女はそれこそ俺に対して傷つくような嘘を吐くが、嘘コクといった他人の弱みを吹聴したり、逆にそれを利用して陥れたりする卑怯な真似は絶対に許せない性格をしている。大変癪だが、その性根の部分は信頼しているのだ。
「……ま、なるようになるか」
「ん、なんか言ったか?」
「なんでもない」
やがて朝のホームルームまでゆっくりしていようと考えていた俺だったが、次の瞬間教室の扉ががららっと開いた。
「…………あっ」
「………………」
そこにいたのは、昨日遊園地にて嘘コクだとカミングアウトしてきた
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