第5話



 あの日はいつものように明苑、深欧、蓮花の三人で遊んでいた時だった。約束はしていなかったが小鈴が訪ねてきたのだ。


「蓮花、遊びにきましたわ。あら、そちらの方達は?」

「私のお友達の明苑と深欧よ。それより今日は特に約束してなかったと思うんだけど」


 暗に急に来るなと伝えようとするが、そんなものはお構い無しと言わんばかりに自慢げに話し出す小鈴。


「あら、ごめんなさいね。私以外にあなたと遊ぶような方がいるとは思わなかったものだから。と言っても貴族の方ではないのね」

「貴族じゃなくても私にとっては大事なお友達よ。そういう言い方はやめてもらえる?」


 二人をちらとみて笑いを零す小鈴にむっとして言い返す。明苑も小鈴の言い方が嫌だったのか彼女を少し睨んでいる。


「まあ、あなたのお家のことを聞いて近づく貴族の方はいらっしゃらないわよね。ああ、私は違いますから安心してくださいね、蓮花」


 それは自分より惨めな子に優しくしている自分が好きなんだろう、と子供ながらに蓮花は分かっていた。にっこりと大きな笑みを浮かべて言う小鈴に負けずと大きな笑顔を作り言い放った。


「お気遣いありがとう、小鈴。でも出来れば来る前に連絡をするという気遣いもあれば嬉しかったわ。今日は先に約束していたお客様がいるから帰っていただける?」

「なっ!」


 一気に真っ赤になった顔に横にいる明苑も深欧もついつい吹き出してしまった。それを聞いてさらに顔を赤くさせる小鈴。


「私はこんなことで怒るほど心は狭くありませんので今日のところは帰らせていただきます。ごきげんよう!」


 なんとか表面上の笑みは繕っていたがどう見ても怒っている。お付の侍女の方は肩身狭そうにペコペコ頭を下げながら出ていった小鈴を追いかけて行った。


「――っあははは! 蓮花、さすがね!」


 耐えられないと言わんばかりに明苑は大笑いし始めた。深欧はおい、と止めながら自分も笑いが止められていない。



「でも良かったのか?貴族って人付き合いが大事って聞いたことある」

「いいの、人付き合いの基本ができていなかったのはあちらの方だもの。それに小鈴といるより二人といる方が何百倍も楽しいもの」


 心配そうな深欧にそう告げると明苑も深欧も気恥ずかしそうに笑った。




 昔から蓮花も貴族の子供たちが集まる場に定期的に顔を出していたが親から柳家の状況は耳にしていたのか、蓮花と仲良くなろうという子はいなかった。そんな中小鈴は蓮花に声を掛けてくれた。

 最初は優しい子だと思っていたが、だんだん違和感を感じるようになった。これみよがしに柳家が家計が苦しくても私はずっとお友達よ、と大きな声で言ったり、周りにいる子達がなんてお優しい、と言うと満更でもない顔をしていた。どうやら小鈴の株を上げるために利用されているらしい。早々に小鈴の本性を見抜いた蓮花は適度な距離感を保ちつつ交流を続けている。


 そんな時街に出かけている時に知り合った明苑と深欧は蓮花を貴族とは知らずに遊びに誘ってくれた。蓮花は初めて友達といる楽しさを知ったのだ。自分を哀れみの目で見ないという事、言葉を発するのに気を張らなくていいという事の気楽さに気づかせてくれた。

 小鈴と二人のどちらが大事かなんて蓮花の中では最初から決まっていることだった。


  

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