第4話

 翌日、休日だった蓮花は買い物がてら市場を見て回ろうと思い立った。自分で買うことはあまりないが店頭にある手芸品や細工品などを見ることが好きだった。お店からすると迷惑かもしれないが市場の店主たちとは顔見知りのなので皆快く見せてくれる。


「蓮花? 蓮花よね?」


 市場に着き何店舗か覗いた時背後から声を掛けられた。声の方を向くとそこには艶やかな長髪をひとつにまとめた女性の人間がいた。その横には狐の獣人の男性がいる。その姿を認めた蓮花は笑顔を浮かべた。


明苑メイエン、それに深欧シンオウ

「よお、最近見かけなかったけど元気だったか?」

「元気よ、二人も相変わらず仲良しね」


 軽く手を上げる深欧に答える。明苑と深欧は蓮花の幼なじみで、二人は恋人同士だ。一時期はお互い素直になれず見守る側としてはやきもきしたが、数年前に晴れて想いが通じたのである。


「蓮花に会えなくて寂しかったのよ」

「私もよ。最近違う所で働いているものだから、なかなか時間が取れなくて……」

「そうだったの! なら仕方ないわよ、知らなくてわがまま言ってごめんね」


 少ししゅんとして謝罪する明苑に気にしないで、と笑いかける。


「ちょうど蓮花の家に行こうかと思ってたんだ」

「そう! そうなの、蓮花には一番に伝えたくて」

「なあに、どうしたの?」


 二人はお互いをちらっと見ると少し照れたように口を開いた。


「実は、私達婚約したの」


 その言葉に蓮花は目を見開いたのち、昔から一緒にいる二人の慶事に胸が熱くなった。


「おめでとう! 本当に、本当に――嬉しい」

「喜んでくれて嬉しい、ありがとう!」


 思わず明苑に抱きつくと、明苑も抱き締め返してくれた。深欧はそんな二人を見ながら笑っていた。


「明苑を幸せにしないと許さないんだからね」

「任せろって」


 その後三人で話をしながら市場を回った。その時に二人の今後どうするか――深欧の仕事が一段落した時機を見て結婚するだとか、それが決まった時に明苑のお父さんが泣いて喜んだとか色んな話を聞いた。


「――そういえば、小鈴も今度結婚することが決まったらしいの。どんどん周りの子が結婚していくととうとう自分もそんな年頃なんだって実感するわね」

「小鈴って蓮花の貴族のお友達だっけ?私あの子苦手なのよね」


 明苑は眉を寄せて呟く。こら、と深欧になだめられているが似たような顔である。


「だってあの子昔会った時、蓮花に対してすごい嫌味っぽかったんだもん」

「確かにそんな印象は残ってるな」


 まだ全員幼かった頃に明苑と深欧が蓮花の家に遊びに来ていた時、小鈴がやってきて顔を合わせたことがあった。

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