40話 水晶眼
宿の部屋だとリョウもいるから、と思ったので宿の裏手へ。
従業員の休憩中にでも使うのか、ちょうどいい場所にベンチが置いてあったので腰掛ける。そして気配遮断と防音の結界を張った。近くに誰もいないのは確認済みだ。
「ごめんね、急に呼び出して」
そう切り出す。
「いいよ。大事なことなんでしょ?ユーナちゃん、すごく真剣な顔してるもん」
顔に出てしまっていたのには気が付かなかった。気をつけよう。
さて、どう説明するべきか。
「これなんだけど」
そう言いながらポケットから拳大の結晶を取り出す。
「綺麗な石だね。どうしたの、これ」
「ルーから貰ったんだ」
実際は自分で調達したものだけれど。ルーも勝手に名前使ったことくらいは許してくれると思う。
「分かりやすく言うと、スキルブックみたいなものなんだって」
正確に言うとまだ表に出ていないスキルをランダムに呼び起こすものだ。出来ればすぐにでも欲しいものはあるけれど、それが引けるかどうかは賭けだったりする。
封印状態のものに手を付けたくはなかったけれど、出来るだけ安全に使えるように細工を施している。
「へえ、そんなのあるんだ。流石異世界」
「これ、サリーに使って欲しいなって」
「……いいの?」
こういうの喜ぶと思ってたんだけど、なんだか消極的な反応。
「ユーナちゃんが貰ったんだよね?私が使ってしまっていいの?」
そっちを気にしてくれてた。優しいな。
というかサリー用に調整したものだから、サリー以外にとってはただの綺麗な石だ。
「多分サリーにこそ必要だと思うから」
いくら敵地でも、私が……僕が傍にいれば守る自信はあるけれど。
これから先そうでない瞬間が来るかもしれない気がする。
「……ありがと。使わせてもらうね」
サリーは少し迷っていたようだったが、受け取ってくれた。
「これ、どうやって使うの?」
あ、説明してなかった。
「魔力を流したら結晶が割れて効果が現れるよ」
「へえ、面白い」
サリーが結晶に魔力を流す。
すぐに結晶にヒビが入り粉々に砕けて、サリーに吸収された。
「わ。綺麗」
結晶を砕く時の粒子はキラキラしていてとても綺麗だ。
「なにか変わった?」
そう訊きながら鑑定をかける。
「なんだろ、ユーナちゃんがキラキラしてる」
「へ?」
鑑定の結果、増えていたのは水晶眼。今欲しいものがピンポイントで来てくれた。
あらゆる耐性値アップ、デバフ解除、解呪等の浄化系特化と生命力強化のパッシブスキル。副次効果として自分に対する意識を可視化するものだった。
「それに身体が軽くなった感じがする」
「水晶眼、か」
「水晶眼?」
無意識に漏れてしまった言葉を拾われてしまった。
「あ、スキルにそういったものがあって。浄化系と生命力強化の効果がある。それと、」
副次効果について言おうとしたところで、キラキラしてるって言われたことを思い出す。これ言うの恥ずかしくない?好意だだ漏れなのバレるってことだよね?
「それと、なにかあるの?」
そうとは知らずに訊き返してくるサリー。
「それと、他人の意識を可視化してくれる」
顔が赤くなってしまってる気がする。
「それってつまり、ユーナちゃんは私に好意を示してるってこと?」
はっきり言語化されてしまった。
「それはっ、……まあ、そうなる」
スキルの効果を検証してる所なんだから正直に答えるしかないよね。
「ユーナちゃん、ちょっと距離置いてるように感じてたから意外……」
間違いではないから返答に困る。
「でも嬉しいかも。私もユーナちゃんと仲良くなりたいって思ってたし。
改めてよろしくね!」
「うん、よろしく……」
反射的に返したけれど、そのよろしくはどの意味のよろしくなんだろう……。
友情の方だろうな。
それから少し雑談をして、部屋に戻ることになった。
夜が明けたら、王都へ向かう。
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