39話 セレナータとの接触②
「リョウ!こっちこっち!」
そういえば別行動していたリョウが食堂にやって来て、サリーがさっき私を呼んだ時と同じように呼ぶ。
「遅くなってごめん、み……ユーナさんも。それと、なんで?」
リョウはまだ癖で名字で呼ぼうとしてしまったみたい。特に拘ってる訳ではないけど、サリーが世界観がどうとか言って普段の呼び方も登録名でってことになった。
そして同席しているセレナータに疑問を持った。
「突然だけど、私たちはリースベルト王都に行くことになったから、リョウはレナちゃんと待機してて!」
「え?どういうこと?」
結果だけ言ったサリーに困惑するリョウ。
「理由は分からないけど、2人だけ呼ばれたの。リョウは特に呼ばれてないから、レナさんと護衛の人と一緒に行動してて欲しい。用事が終わったら合流する予定だから」
そう、簡単に補足する。
「えっと、そのレナさんって……」
「私たちを召喚した王女様だね」
「だよな」
困惑するリョウにサリーがなんでもない事のように答える。
「わたくしの事はレナとお呼びくださいませ、勇者様」
「あ、はい。レナ、さん?俺の事もリョウでいい、です」
「呼び捨てで構いませんわよ。しばらくの間よろしくお願いしますわね、リョウ様」
「様って付けなくても……」
「いいえ。ここは譲れません」
「……まあ、いいか」
呼び方が決まったようなので、話を元に戻す。
「出発は急いだ方がいいの?」
「そうですわね。わたくしが出発してからの時間もありますし、急ぐに越したことはないと思いますわ。(それに、はやく勇者様……リョウ様と2人きりになりたいですし)」
「急いでって言ってももう夜になるし、明日出発ってことでもいいよね?」
「それで構いませんわ。夜間の行動は特に安全ではありませんもの。今から出ても朝出ても、あまり変わりませんわ」
この辺りまで話している間に、護衛であろう2人が近くの席に別れて座った。
多分自然な感じでセレナータに着いたのだろうけれど、正直浮いている。仕事熱心なのはいいと思うのだけど、むっつりと黙ったまま、こちらを気にしている様子を隠すこともない。事情を知らない人が見たら怪しいと思われても仕方がないような動きをしていた。
「今近くに来た人が護衛の人?」
そんなことを考えていると、サリーが小声でセレナータに訊いた。
「えっ?ええ、そうですわ。……でもどうしてわかったんですの?」
「だって、あからさまにこっちを気にしているもの」
サリーでも気づくレベルだった。
「できるだけ自然にって言ってありましたのに……」
「広い範囲を警戒するなら別れて座ったのはいいかもしれないけど、自然な感じにしたいのならまとまって雑談でもしながら視界には入れるって感じにした方が良かったかもね」
「その手がありましたわね。参考にするよう伝えておきますわ」
ここまで小声で話していたので、あの位置からだとよっぽど聞き耳をたてていてもギリギリ聴こえないくらいかもしれない。
きっとあの2人は話の中身が自分たちだと思いもしてないのだろう。
「ね、ここ食堂だしお腹すいちゃった。ご飯食べちゃわない?レナちゃんはこういうところのご飯食べたことあるの?」
話がひと段落着いたからか、サリーがそんなことを言った。
確かに空腹を感じる時間になっていた。周囲の席でも食事を取っている人が増えてきていた。
「宿の食堂は初めてですわね。いつもは城の料理人におまかせしていますもの。料理人以外の食事は、昨日の野営が初めてでしたわ」
「いつもいいもの食べてるんだね。口に合うといいんだけど」
「食べられないものとかあったりする?」
一応アレルギーとかないか確認しておく。お忍びとはいえお偉いさんなわけだし、食べられないものを食べてしまって毒を盛ったとか言われたくはないから。
「す、好き嫌いはありませんわ!」
これ、多分結構偏食するタイプの言い方だ。
「好き嫌いを訊いた訳じゃないんだけど……。定食でいいかな」
そう言いながら席を立つ。
「お任せしますわ!」
「あ、私も行くよ!」
と、サリーが着いてきてくれた。
「ね、もしかしてあんまり乗り気じゃない?王都に行くの」
注文して出てくるのを待っていると小声でそんなことを言われた。
「気づいてたの?」
「うーん、なんとなくなんだけどね。私も、なんというか……嫌な感じはするし」
「え?」
それなのに行くことに同意したのか。
「あ、レナちゃんが嫌な訳じゃないんだけどね。なんというか……なんて言っていいかわかんないや」
サリーも何かを感じているのなら、やっぱり。
これはルーと打ち合わせる前にサリーと話しておいた方がいいかもしれない。
気は進まないけれど、あれを使おう。
「寝る前でいいから、少し時間貰えないかな」
僕は出てきた食事を受け取りながら、サリーにそう言った。
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