第15話

 加奈子たちが駆けつけるともうすでに警察官が立っていた。

「うわー、誰か呼んじゃったのかしら」

 工藤さんは顔をしかめ、坂本さんは困った顔をした。

「まぁいつかは警察も出てくるとは思ったけど……自転車があるってことはパトロール中のところを通りかかったかも知れないわね、運が悪いわ」

 警察官を見るだけでも緊迫感が増し心拍数が上がる加奈子。野次馬もできている。


「わしはずっとここの飼い犬がしょんべんして植物ダメにするって訴えても犬だから仕方がないって言うんだが誰も聞いちゃいない!」

「まぁまぁ落ち着いて。お隣さんも何度も謝ってるじゃないですか」

「お巡りさんの前ではへこへこしてるけどさっきまでは傲慢だったぞ!」

 体格の良いお巡りさんの割にはちょっと頼りなさそう、と加奈子。それにあまり自分達が関わるとよくなさそうだと。


「じつはセンターにも相談に来られてて……要望書出ててな。だいぶ前から……市役所からも来てもらってもあの様子だ。加害者宅も無責任、被害者宅もあんな様子……」

 窪田さんも来たようだ。

「もしかしたら私たちが出てくるとセンターのわたしたちが間に入ると尚更拗れるんじゃ……」

 と思ったいた矢先に隅橋さんが加奈子の後ろの窪田さんを見つけ

「おい、センターの人たちよ! 全然改善されておらんじゃないか!」

 ほらやっぱり……と加奈子。だが加奈子の来る前の出来事であまり経緯も分かってもいない。隅橋さんがこちらに向かって歩いて来た。手にはゴルフクラブ。工藤さんが一歩踏み込もうとした時に警察官が駆け寄ってきた。


「あっ……」

 加奈子はその警察官に見覚えあがあった。あのうどん屋にいた男……そして自転車に乗って颯爽とかけて行った男。


「警察官だったんだ……」

 彼も加奈子を見る。


「あんた、センターの前で庭師やってた……」

「いや、庭師じゃないです」

「珍しい女性の庭師だと思って。豪快に切ってたもんで……あ、僕は最近こちらに赴任してきた宮野と申します。ご挨拶に伺う前にこんな形で」

「い、いえいえ……」


 気になっていた男にそう思われていたのか、あの一瞬の颯爽とした自転車でのすれ違いでそこまで見られていたとはと加奈子は恥ずかしくなった。


 だが目の前には隅橋さんが迫っていた。後ろにいたはずの窪田がいない。すかさず工藤さんが前に出る。

「センターでやれることはやりました。市役所さんにも来ていただきましたし、弁護士さんも。あとはそちらで裁判でも開いてくださいね」

 坂本さんがにこやかな顔のままそう答えると隅橋さんはたじろぐ。宮野が落ち着いてと肩を叩き家に戻っていくと坂本さんはふぅ、とため息をつく。


「全て介入しようとしてはダメよ。見極めも大事ね、まずは自分の身を大事に……」

「はぁ……」

「あなたもここに勤めてまだ二ヶ月……あぁ一ヶ月は休んじゃったものね、これからいろんなイベントもあるし春過ぎたら自治会費集金のお手伝いもあるし夏には寺子屋や夏祭りの準備に……そして普段はサークルの管理、会費の回収、いろんなことあるからねぇ」

「は、はい……」

 加奈子は頭が痛くなるがこんな仕事もあるものか……と未知なる世界に自分がどう巻き込まれるのか、そして未だに近所トラブルをなだめる宮野……。


 彼の姿をつい見てしまう。そう接点はこれからはないだろうし、早々警察沙汰になることがこの町で起きるだなんて物騒だ、そんなこと巻き込まれるんだったら主婦のままでいいわ、だなんて加奈子は思った。


「加奈子さん、早く入っておいで」

「はーい、今行きます!」


 加奈子はセンターに入って行った。


 しかしその後、いろんな出来事や厄介ごとが起こるだなんてつゆ知らず。専業主婦だった彼女の人生は一転するのであった。


 それは誰もまだ知らない。


 終

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ドメスティックプロフェッショナルー専業主婦は経歴に書けますか?ー 麻木香豆 @hacchi3dayo

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