第12話

 とある日、加奈子が仕事中に来訪者が来たのだ。

「お母さん!」

 ここ最近は老齢の人間ばかり見ているせいか64歳の加奈子の母、玲子が少し若く見える。


「あら、玲子さんー」

「久しぶりです、はなえさん」

 玲子が頭を下げる。加奈子はその様子を見てびっくりする。


「え、2人知り合い?」

「おばあちゃんのお得意先の人よ、あんたは小さかったから覚えてなかったかと思うけど……今ははなえさんの紹介でお仕事もらってて……お孫さんとか……て個人情報だけど大丈夫かしら」


 大丈夫よぉーと坂本さんは笑った。あまり坂本さんはプライベートのことは話さず、夫はいるとは言っていたが子供や孫など構成は知らなかった。

「名古屋の方で息子夫婦のカフェのデザインしてもらっててね。先日もリニューアルでお世話になって。玲子さん所のデザイナーさんが腕が良くて」

「いえいえ、オーナーのお二人が頑張ってくださってて私どもも頑張らせてもらっています」


 加奈子は母の接客姿をあまり見たことがなかった。加奈子が結婚してからは自宅をオフィスにして在宅で仕事をしているのだが目の前で客と接する母親の姿を見て普段家で家事や勉強をしてるのとはまた違う一面だ、とまじまじと見てしまった。



 今時は仕事上得た情報は家族であっても漏らしてはいけない、ときっちり誓約書を書かせるほどであるが今も昔もそうだと思うのだが田舎となると情報ダダ漏れなことが多い。多くの人たちが集う場所であり、中には悩みを抱えてくるものもいる。居場所を求めて来るものもいる。


 しかし玲子はあの噂好きの義母の香純のように噂話は好きではない。あくまでも仕事として、お客さんの好みや求めているものを知るためにいろんな情報を持っているのだ。


「今日は近くの方は仕事に来たのでご挨拶しに、ってうちの子もう、40歳近いのに……いつまでも親って心配で」

 そうだそうだ、と加奈子。そこまで過保護でなかった気もする母親の突然の来訪にタジタジなようす。


「わかりますよ、でも安心してください。娘さんは本当に細やかな所に気づいてくれてセンターも綺麗になりました。利用者の方からもそう言われて……」

 坂本さんは気づいていたようだ。加奈子は、掃除をしてもあそこしておきましたよ、汚かったのでやっておきましたよとは言わないようにしてきた。


 結婚してから義父母たちが勝手に掃除を不在中にこれした、あれした、感謝しろというものだからすごく辟易していた。

 しかも自分があまり気づかない細かなところまで先回りで掃除されてやってやった、感謝しろと言うことがなんどもあったため、加奈子も日頃から先回りの先回りをして細かなところまで掃除するようになったのもある。


 だから自分では言うまいと思っていたのだが……。


「私あまり掃除とか得意な方じゃないし……今日は窪田さんいないから言うけどあの人も掃除やるよーな人間じゃないからついつい怠けてしまいましてね……見えるところはもちろんするけど細かなところまで目がいかなくて」

 玲子もびっくりしていた。昔は部屋の汚さで喧嘩になったくらいなのだ。


「あと利用者さんは私みたいな高齢者が多いでしょ、ちゃんと目線も合わせてその人との言葉や声の大きさを変えて話してしっかり話を聞いてくれる……素晴らしい」


「うちの子、おばあちゃん子で祖母との時間も多かったし、お客さんともお話ししてて慣れてたのかしら。それが役立っていたと思うと亡くなった加奈子の祖母も喜びます」

 そう、花屋をしていた祖母は亡くなった。最後まで加奈子の結婚に反対し、結婚後三年目の時に亡くなった。




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