第11話

 危うく謙太の気の利く姿を見てキュンとなり、自分には推し活は必要はないと思ってしまったことを撤回したくなった加奈子はあと5回は1人で堪能したかったアイスを家族全員で共有することになってしまって落胆していた。


 なおかつ自分の分を相馬がワンスプーンおねだりもして結局2スプーン上げることなったのだがここで拒否をすると機嫌を悪くしてその後の家事に支障をきたして自分の時間を減らしてしまうというのをわかっているためしょうがなく、のことであった。


「仕事もして家事もしっかりして偉いわねー」

 と結婚してからずっと専業主婦であった香純はアイスをゆっくりゆっくり味わっていた。


「そんなことないです……謙太さんのおかげで」

 と一応言っておけば香純の機嫌も良いと言うことはわかっている加奈子。以前は加奈子が仕事をしたいと言ったら

「うちの謙太が稼いでないっていうの?」

 と言われたものである。庭木の剪定でさえも

「謙太は家族のために汗水流して働いているのに休みの日も働かせようとするの?」

 と言って義父母揃ってやってきて剪定してきたのだ。


 義父に関しては無口だが何も言わず香純の言いなりのような感じでもあるが謙太が言うには厳しい頑固親父で厳しい人、仕事命で全てを妻の香純にさせて送り迎えやら何やらも。

 義母はサポートすべく仕事も辞めて義父に捧げていたのだという。だからか謙太は同じように加奈子にこれをやれ、あれをやれと見たまま振る舞ってたようである。


 しかし加奈子は父がそう言うような振る舞いを母にはしたことがなく、進んで育児家事を手伝いをしていばっている姿は見たことはなかった。


 だからこそ謙太に命じられた際に拒否をしたら謙太の機嫌が悪かったのだ。しかも家出までされて義父母たちに怒られたのだ。こっちが家出したいと思い、離婚を考えた加奈子だったができなかったのはお腹の中に子供がいたからであった。


 この子供たちを守れるのだろうか、今の自分でと泣きに泣き腫らした結果、従うまでしかない、それが自分と子供を守れる行為だと。

 だがやはり無理はあった。


 一度は父の部下だったからなんとかしてくれないだろうかと父に相談しようと考えたこともあったが父の面目を潰すことになるのではと断念した。

 専業主婦になるにあたって母や祖母とぶつかって喧嘩した末に結婚した加奈子は母や祖母に相談もできなかった。反対された理由もそういうことかと思ったが……。


 自分が決めたことである以上、咲いた場所で咲きなさいという理念を飲まざる負えなくなってしまった加奈子だ。


「加奈子さんは本当にいい仕事見つかって良かったわねぇ。条件も良いじゃない」

 土日祝日休み、年末年始お盆、GWは休み。義父母夫が大喜び案件だが……。


「夏休みは子供たちがお世話になるかもしれません」

「いいのよーそれくらい」

「センターでも午前中は寺子屋やってて見てもらえるらしくって」

「そうね、託児よりもお安いしー私たちも助かるわあ。私たちもそれなりの保育料いただきますけどーほほほほお。ねぇ謙太ちゃん」

 謙太はあぁ、と。


 そう、世間で言う夏休み、冬休み、春休みは仕事が休みにならないという現実もあったのだ。いくら坂本さんが家庭重視でと言われても加奈子は心が痛むし、まず稼ぎイコール生活費の足しになっている身からするとこれ以上生活費が増えないのであればその休みも馬車馬のように働かないと採算が合わない。


 幼稚園や小学校では働いている親のためにお預かり制度があるがそれらの長期期間で夏休み以外は実施されていない、夏休みは通常の倍の値段であり、なおかつその期間は謙太から子供2人分の昼ごはん代の加算もない。働いてもマイナスになる。


 しかしお預かり制度を使わなくてもセンターで行われる寺子屋は格安でなおかつセンターの職員や自治会役員が優先(と言っても現職員で子どこが小さいのは加奈子のみ、自治会役員の子育て世代も自治会集まりの際のみ)のため無料で勤務中に確実に利用できる優遇を得た。


 なおかつこう自分から預かると言う義父母、仕事が休みの時ならと言っていた加奈子の両親もいる加奈子はこれをしめた、と思った。親に関しては金を取るようなことをしないがある程度後日お礼はするし、義父母に関しては謙太からそれなりのお礼の金額をださせればいい。心の中で加奈子がガッツポーズするがなんでこうもあんなに反対した義父母は賛成したのだろうか。


「ねぇ、たまに〇〇さんあのセンター出入りするでしょ?」

 と香純。

「え、あぁ……」

 ふと〇〇さんという初老の女性がほぼ出勤日に見るし、坂本さん曰くほぼ毎日くるよと言われていたことを思い出す。


 ご主人を亡くしてからほぼ毎日来るようになって坂本さんや利用者さんと話をしていくうちにサークル活動に参加するまで回復し、加奈子もすぐに名前を覚えてもらった。


「なんかお隣の△さんと仲良いようだけどその辺の事情知ってるかしら。また再婚するんじゃないかって噂してて」


 △さんと言う同じく奥さんを亡くした初老の男性。彼は習字サークルのリーダーで〇〇さんに声をかけたのが始まりで仲が良く、坂本さんも2人は仲がいいけど再婚する気はないってと。


 事情は2人は話したがらないけど周りの人たちがおせっかいかけて別れかけたらしいとそこまで教えてくれていた。

 噂話好きな香純は知りたがっている。ハハーン、と加奈子は思ったのだ。近所の人たちが出入りするセンターに就職を許した理由を。


 だが加奈子はキッパリといった。

「そういう個人情報はお口チャックでー誓約書書かれているんです、謙太さんにも署名してもらって……ねぇ」

「う、うん。そうなんだよ。聞くはずもない俺の職場名まで書かされてさ。余計なことをしてもめごとにでもなったら俺ら夫婦だけじゃなくて子供たちまで影響出るんだからな」

 と謙太は口を尖らして渋い顔で言う。誓約書は確かにもらったのだがもう1人のサインは誰でも良かったのだが職場名まで書く羽目になった謙太はそこは慎重になっているのだ。


 香純はわかったわ、と眉を下げているが

「センターにたまには顔覗かせるわね」

 とやはりの展開になったのだが謙太から口すっぱく言われてすこしがっかり気味の香純であった。

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