はぷにんぐあにまるず♫

第3話 村長の孫と、きのこシチュー

「ウサ、腹へりすぎて、ツラい」

「なら、メェの本でも喰うか？」

「それは不味い、喰わない」

　ここは村の中央広場です。ふたりは老人の案内で、魔族領にもっとも近い人間族の土地、コロロ村に着いたのでした。

　そして、老人はこの村の村長さんでした。

　村長は亜人のお客さんをもてなすよう村人たちに伝えまわると、

「おふたりさんは、ここで待っててくだされ。すぐ宴会の準備をいたしますからの」

　と、自らは荷物を置きに家へと帰ってゆきました。

　しばらくして、村人たちがテーブルやら、鍋やら、包丁やら、野菜やらを持ち寄ってやってきて、広場中央に山積みに置かれたオークのしかばねに歓喜しました。

「オークの肉なんてもう食べられないと思っとったわい」

「あたし、はじめて」

「オークってイノシシよりうまいんだろ？」

「すごい、これはたくさん肉とれるじゃない！」

　みな、きゃっきゃとしています。

「こら、村人ども。ウサ、オーク１匹の半分は食べる。全部はやらない」

　ウサはジト目で、はしゃぐ村人たちに釘をさしました。

「もちろん、もちろん、なんたって、オイラたちはごちそうさせてもらう立場だからな」

「わかればいい。みんなで適当に肉切って分けろ。

　ウサの分もだ。よろしくお願いします」

　ウサはぺこりとおじぎをしました。メェもついでにおじぎしました。

　村人たちは、ふたりのその可愛さに身もだえています。

「さー火を焚け！　酒樽を出せー！　今夜の宴は、肉祭りだ、肉祭り♫」

　村人のひとりが陽気に踊りだしました。女たちは、オークのしかばねからなんとかたくさん肉がとれるようにと工夫しながら、さばいています。

　子供たちは珍しいオークのしかばねと、亜人ふたりを交互に見ては喜んでいます。

　しかし、恥ずかしいのか、ウサとメェには近づいてはきません。

　そうこうしていると、村長さんが大きな鍋をもってきて、ふたりの前のテーブルに”ドン”と置きました。

「お待たせしたのぉ。これがうちの自慢のきのこシチューじゃぞい。

　たんと喰いなされ」

　村長さんは、ふたりの皿にきのこシチューをたっぷりと入れてあげました。

　ウサは大喜びです。長い耳がゆらゆらゆれて、踊っているようです。

　しかし、メェは盛られた皿を村長に突っ返しました。

「メェは、お菓子か紙しか喰わない。

　お菓子だせ。よろしくお願いします」

　メェは深々と頭を下げました。下げすぎて持っていたシルバートォクがテーブルに派手にぶつかりました。村長さんはその可愛さに、「すぐにもってくるでな」と約束して、家へと走ってゆきました。

「ワレヲソコラニ置イテカラ頭ヲ下ゲィッ」

　シルバートォクがそういうので、メェはポイと投げました。

「――小娘ェ、丁寧ニアツカワンカッ！」

「あいつ、うるさい。壊していいか、メェ？」

「ダメ。あれでもメェの大事なもの」

「そうか、じゃ、よす」

　ウサは、きのこのシチューの皿を持ち上げると、ずずっずずずと一気に飲みほしました。真っ黒い顔の小さな口元に、ちょっとシチューがついて、すこぶる可愛いです。

　さらにそれを、ウサの小さなピンクの舌ベロがぺろりとなめて、なおも可愛いらしいです。

「しかし、うまいな。きのこシチュー気に入った。

　ウサ、この鍋ごと飲みたい。メェ、してもいいか？」

「メェ、飲まない。ウサ、していいよ」

　ウサはうなずいて、熱々の鍋をもって、表情も変えずにジト目のまま、ずずずと飲みだしました。

　ウサの口は小さくて可愛らしいので、鍋のきのこシチューは、皿のようには一気に飲みほせません。

　ウサのまわりは、こぼれたシチューで白く汚れています。

　けれどおかまいなしに、ウサは飲み続けました。

　メェは村長さんが持ってきてくれたお菓子の山に舌鼓をうっています。

「メェ、全部食べたらダメ。それたぶん村長の孫のお菓子」

　ウサは、もくもくともぐもぐ食べるメェに注意をしました。

　メェは「なんで？」と首をかしげました。

「ほら、あそこ見ろ。村長の裾つかんでメェをじっとみてる女の子いるだろ。

　あれきっと、孫。村長、孫いる言ってた。メェ、食べすぎダメ」

「ん…、ヤダけど…しかたない。メェ、あの子よりお姉さん。

　あとこれくらい食べたらやめる」

　メェは、お菓子の山の残りの半分をよりわけました。

　ウサはうなずいて、またきのこのシチューをすすり飲みはじめました。

　こぼれまくったシチューで、かなりまわりが汚いです。

　ウサがきのこシチューを飲み終えたころ、オークの肉料理がたくさんできあがりました。それをみんながふたりのもとへと運んでくれました。

　とても良い香りがして、ウサのおなかの虫が”むぎゅぎゅむぎゅぎゅ”と鳴きっぱなしです。

　メェはお菓子をたくさん食べたので、もう眠そうです。

「メェ、村人がもてなしてくれている。寝るの失礼。我慢しろ」

「メェ、寝ない。がんばる」

「メェ、ついでに、ウサを魔法で綺麗にしろ。

　よろしくお願いします」

　ウサはうとうとしそうなメェに向かい、頭をさげました。

　ウサの服もズボンも、テーブルまわりもこぼれたシチューでぐちゃぐちゃしています。

　メェは椅子からおりると、シルバートォクを拾って、ウサに向かって「綺麗にな～れ、ぽめりぽめら～」と、呪文を唱えました。

　するとシルバートォクは無理やり大きく口あけさせられ、しゃべりたくてもしゃべれない状態になってしまいました。

　彼の口の奥には、深い青色のきらきらと輝く大きな球体の宝石があり、そこから美しい光が解き放たれて、ウサとその周辺を包みこみ、その光が消えると、ウサとその周辺はすっかりと綺麗になりました。

　シチューのこぼしが消えてなくなったのです。

　それどころか、ウサの毛並みもつやつやになり、服やズボンもこざっぱりとして、いい匂いすらします。

　それは、メェのお風呂の呪文の効果でした。

　メェは、とても綺麗好きなのです。

　ウサはメェにおじぎをして、運ばれてきたオーク料理のひとつに手を伸ばしました。みな山盛りで、ものすごい量です。

　ですが、ウサはまったく動じません。

「さすが、ウサ。底なしウサギの異名だけある。うらやましい」

　メェはウサのたべっぷりをみながら、感心してします。

「…ぁ、あの、しろヒツジさん、さわってもいい？　

　すごくもふもふしてて、きもちよさそう」

　メェが声の主を見ると、村長さんの孫でした。

　髪をふたつ結びにした可愛らしい女の子です。メェの近くで、もじもじとしています。

「ダメ。メェに触っちゃダメ」

　メェは女の子が伸ばそうとした手を、シルバートォクの柄で払いました。

　女の子は「ぁ、ごめんなさいっ」と謝りました。今にも泣きそうです。

「メェ、綺麗好き。ばっちぃの嫌い。

　お前は汚れているから、ダメ。メェを触っちゃダメ」

　メェはつぶらな水色のアーモンドの瞳で、村長の孫をじっと見ています。

　女の子はうつむいて、震えだしました。それは泣く前兆です。

　メェはシルバートォクを振って呪文を唱えました。

　すると、先ほどと同じように光が放たれて、女の子とメェを包み込みました。

　光りが消えて現れた女の子は、まさに洗われた状態です。

　髪もつやつやしています。ほっぺも、もちもちです。

　服の汚れも消えさり、優しい香りが女の子からしました。

　もちろん、メェも、さきほどよりはりかにもふもふしています。

「よし、メェをもふもふ許可する。メェは綺麗ならたくさんもふもふされてもいい。

　どうぞ、触ってくださいな」

　メェは自ら女の子へと近づいて、可愛らしいしぐさで女の子を抱きしめました。

「すごいやわらかいっ。すごいっいいにおいがするぅ♪」

　村長さんの孫はものすごく喜んでいます。

　メェも、もふもふされて気持ちよさそうです。

　その光景が、とっても可愛いです♪

　広場の中央では宴会が盛り上がり、村人たちと村長さんはすごぶる上機嫌です。

　宴会は、はじまったばかり、まだまだ続きそうです。