#21 ミヤビの突撃マッサージ



 俺の部屋でイスに座っているミヤビちゃんと目が合った。


「おきた?」


「え!?え!?なぜ!?なぜ俺の部屋に!?」


「特製ジュース持ってきた」


「そ、そうか・・・」


 イヤでも、それならば、玄関でウチの母さんにでも渡せばいいはずだ。

 どうやってココまでたどり着いたんだ?母さんが入れたのか?

 それに、妹ですら入ろうとしない俺の部屋で、なぜミヤビちゃんが当たり前の顔してイスに座ってるんだ?


 ま、まさか・・・特訓をドタキャンした俺の全身筋肉痛だと言う話をウソじゃないか確かめに来たのか?


「痛みはドコが一番?」


「筋肉痛のか?」


「うん」


「腕と腹筋だが。あとは脹脛ふくらはぎもだな」


「わかった」


 ミヤビちゃんは立ち上がるとベッドに近寄ってきて端に座り、「腕、出して」と言ってきた。


 言われた通りに俺が右手をミヤビちゃんに向けて伸ばすと、ミヤビちゃんは両手で俺の掌を掴み、指でモミモミマッサージを始めた。


 マッサージはモミモミしながら掌から徐々に移動して二の腕まで続き、肩まで来ると「反対の手も」と言われ、今度は左手をミヤビちゃんに向けて伸ばすと、同じように掌から両手でモミモミを始め肩までマッサージをしてくれた。


「筋肉を酷使した後、マッサージしておくと筋肉痛になり難い。 昨日やっておくべきだったのに忘れてた」


 どうやら、俺の全身筋肉痛という話は信じて貰えたようだ。


「そうなのか。知らなかった。ありがとう」


「ううん。私も忘れてた。ごめんなさい」


「いや、ミヤビちゃんが謝ることではないハズだ。謝らないでくれ」


「そう・・・脚もするから、うつ伏せになって」


「すまない」


 言われた通り、ベッドの上でうつ伏せになると、ミヤビちゃんは立ち上がってベッドに上がり、俺の足首あたりに跨り、そのまま腰を下ろし、先ほどの腕と同じように両手の指を使って俺の脚の脹脛からモミモミとマッサージを始めた。


 今日のミヤビちゃんはスカートだ。

 なのにそのまま俺の脚に座っている。

 どうしても、ミヤビちゃんのマッサージする指よりもお尻の柔らかな感触が気になってしまう。


「そ、その、すまないが・・・女性がスカートのまま跨って上に乗るというのは、俺には刺激が強すぎるのだが・・・」


「大丈夫」


 何が大丈夫なんだろうか。

 俺の動揺を他所にミヤビちゃんはマッサージを続けてくれて、左右順番に脹脛ふくらはぎから太ももまでの筋肉を揉み解してくれた。


 脚が終わるとミヤビちゃんは座る位置をお尻の方へずらして、今度は肩から背筋にかけての筋肉もモミモミと解してくれて、それも終わると立ち上がった。


 これで漸く離れてくれると思っていると、ミヤビちゃんは立ち上がったがその場からどかずに「今度は仰向けになって」と言った。


 言われた通りに体を横に回転させて仰向けになると、俺に跨ったままのミヤビちゃんは俺を見下ろしてて、スカートから伸びる脚の奥が見えそうで見えない位置で、俺は慌てて視線を逸らすように天井に向けた。


 相変わらずミヤビちゃんは俺が動揺してても気にしていない様子でストンと腰を下ろし、お腹の辺りを両手の掌を使ってモミモミし始めるが、「服着てると上手く出来ない」と言って、俺のパジャマ代わりのトレーナーをペロリと捲り、スウェットとパンツも一緒に腰から少しズラした。


 一瞬「脱がされる!?」とビックリしたが、少しズラしただけだったので身動きせずにジッとしていることにした。


 お腹が露出されると再びマッサージが再開された。


 天井へ向けていた視線をチラリとミヤビちゃんの顔へ向けると、ミヤビちゃんは口元を緩めて、それはもう楽しそうな表情だったので、俺は見てはいけない物を見た気分になり、再び視線を天井に戻した。


 お腹のマッサージを終えると、ミヤビちゃんはベッドから降りたので俺も体を起こしてベッドから脚を下ろすようにベッドの端に座りミヤビちゃんの様子を眺めていた。



 改めてミヤビちゃんを見ると、黒い七分袖の薄手のニットにギンガムチェックのハイウエストで丈の短いスカートに、淵がレースになっているニーソックスと、なんだか華やかで可愛らしいお洒落な装いだ。


 そんな俺の部屋には相応しくないお洒落なミヤビちゃんは、自分のトートバックから水筒を取り出して、カップに中身を注ぐと「今日も飲んで」と言って俺に差し出してきた。


「ああ、ありがとう」と言って受け取り特製激マズ野菜ジュースを一気に飲み干すと、今度はタオルを持って俺の隣に腰掛け、いつもの様に俺の額や首筋の汗を拭ってくれた。


 ようやく落ち着いたと思ったので、疑問だったことを聞いてみた。



「特訓を休みにしてもらったのに、態々俺の為に来てくれたのか?」


「心配だったから」


「たかが筋肉痛なんだが」


「ジュースも渡さなくてはいけなかったし、食事の相談もしたかった」


「食事?ダイエット用の食事か?」


「うん。でも、さっきあんみつくんのお母さんと相談したから、もう済んでる」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の母さんとダイエットの食事の相談をしたと言うのか?」


「うん」


「そ、そうなのか・・・」


 ミヤビちゃんは友達だしご近所さんでウチの母さんもミヤビちゃんのことは知ってたから、相談くらいはするか・・・いや、いくら友達とは言え、本当にそういうものなのか?


「大丈夫。タンパク質減らすのと、塩分控えめにするだけだから。 でも、ピザは禁止にして貰ってる」


「ああ、ピザのことは大丈夫だ。ピザとコーラに関しては、俺も反省している」


「そう」


 とりあえずは変な相談はしてないようだな。

 ウチの母さんのことだから、何か良からぬことでも吹き込んでいないかと心配したが、この様子なら大丈夫そうか。


 それにしても改めて考えると、つい最近まで友達などいなかった俺が、休日こうして友達が訪ねてくるようなことになるとは、我ながら驚きが隠せないな。


 ミヤビちゃんは俺の汗を拭き終わるとタオルをトートバッグにしまったので、俺も一度着替えようと声を掛けた。


「シャワーを浴びてこようと思うのだが、ミヤビちゃんも手を洗ったらどうだ?流石に寝起き男子の脚やお腹を触った手のままではヌルヌルして気持ち悪いだろう?」


 俺がそう言うと、ミヤビちゃんは自分の手を鼻に持っていき、クンクンと臭いを嗅いで「お手洗い貸して」と言ったので、「では1階に降りよう」と俺は着替えを持って二人で部屋を出た。


 ミヤビちゃんのマッサージのお蔭か、朝に比べ歩くのは辛くなくなっていた。


 洗面所でミヤビちゃんに手を洗ってもらい、「俺はこのままシャワーを浴びるから部屋に戻っていてくれるか」と声を掛けて、自分はお風呂場でシャワーを浴びることにした。



 30分ほどかけて全身の汗を流して、持ってきた服に着替えてトイレで本日2度目の快便を済ませて部屋に戻ろうとすると、母さんから「ミヤビちゃんもお昼食べてくか聞いて」と言われ、母さんには色々と言いたいことがあったが、とりあえず俺もお腹が空いていたので、母さんに文句を言うのはミヤビちゃんが帰った後にするとして、部屋に戻ることにした。


 俺が部屋に戻ると、ミヤビちゃんは俺の勉強机に座りノートらしきものを広げ、真剣な表情で読んでいた。


「何をそんな真剣に?」と横から覗き込むと、それは俺が中学生時代に毎日の様に書き留めていた妄想ノートだった。






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