#20 特訓の翌日は
ダイエット開始二日目、日曜日。
朝、目覚まし時計の音でベッドで目を覚ますと、全身が痛くて体を起こすのも辛い。
特に腹筋と腕が痛い。
筋肉痛になったようだ。
今は7時で、8時にミヤビちゃんとの約束があるので、着替えや朝食など出かける準備をしなくてはならないので、なんとか起き上がってみるが、踏ん張りが利かなくてベッドから転げ落ちて、更に全身に激痛が。
そして、痛みで動けず自室の床で寝転がっていると、今度は便意を催してきた。
どうやら、ミヤビちゃんの特製激マズ野菜ジュースの効果が出ている様だ。
昨日帰り際に渡された特製激マズ野菜ジュースの残りは、家に帰ってからも少しづつ飲んで、寝る前には全て飲み終えていた。
飲んだフリして捨てるという手もあったかもしれないが、友達であるミヤビちゃんが俺の為に用意してくれた物を捨てるというのは、俺には出来ない。
だって、俺がもしミヤビちゃんに渡したものを捨てられたりしたら、悲しいからな。
小学校の美術で書いた絵を女子に目の前で破り捨てられた時だって、悲しかったし。 友達であるミヤビちゃんを悲しませるようなことは、したくないし、してはいけないと俺にだって解ってる。
なんとか這い上がって1歩1歩牛歩で進みながら1階まで降りてトイレに籠り快便を済ませると、1歩1歩慎重に歩いてキッチンへ行き、食卓に座って母さんが用意してくれた朝食を頂いた。
時計を見ると、既に7時半を過ぎていた。
約束の時間までにミヤビちゃんの家に行くには、あと10分もしたら家を出なくてはいけない。
しかし、体じゅうの筋肉痛が一向に治まらず、昨日の様な運動は無理だと思えた。
こんな状態で行っても、却って迷惑を掛けてしまうか・・・
ミヤビちゃんは俺の為に色々と張り切ってくれてる様だったけど、流石に今日は休ませて貰おう。
その分、明日から頑張ろう。
そう決意したは良いが、約束の時間まであまり無いので速やかにミヤビちゃんへ今日の特訓を休む断りの連絡を入れなくてはならない。
だがミヤビちゃんへの連絡手段が固定電話しか無いのだが、俺はミヤビちゃんの家の電話番号を知らなかった。
うーん、どうすれば・・・
俺が食卓に座ったまま悩んでいると、母さんが話しかけて来た。
「ミツオ、あんた今日も運動しに行くんじゃなかったの?さっさと着替えないと遅刻するよ」
あ、母さんならご近所さんの電話番号くらい知ってるか。
「母さん、そこの公園のすぐ傍の春川さんちの電話番号、知ってるか?」
「春川さん?あーミツオと同級生のミヤビちゃんだっけ? ちょっと待ってな」
よし、これでなんとか連絡は出来るだろう。
母さんからミヤビちゃんちの電話番号を教えて貰い、コードレスの子機を片手に番号を確認しながら慎重にナンバーをプッシュする。
友達に電話を掛けるなんて初めての経験で、しかもそれが約束のドタキャンの連絡だから、過去類を見ない程に緊張する。
額も首筋も子機を持つ手も汗がダラダラのビチョビチョだ。
緊張しながら子機を耳に当てて、相手の反応を待つ。
ドキドキが半端無い。
『はい、春川です』
『あ、あの・・・安藤と申しますが、ミヤビさん、お願いします』
『ああ、安藤さんのとこのミツオくんね。ちょっと待ってね』
『はい』
今のはお母さんだろうか。
俺のフルネームを知っているとは、流石ご近所さんだ。
ウチの母さんもミヤビちゃんのフルネーム知ってたしな。
今まで知らなかった俺の方が異常ということか。
『あんみつくん?どうしたの?』
『おはよう、ミヤビちゃん』
『うん、おはよ』
『それで、その・・・急ですまないのだが、今日の特訓は休ませて欲しくて』
『そう・・・』
『情けないことに、今朝起きたら全身筋肉痛で歩くのがやっとな状況なんだ。色々世話になってるのに急なドタキャンになってすまない』
『わかった』
『本当にすまない・・・』
『大丈夫。急に激しい運動したらこうなることもある』
『明日は今日の分も頑張るから』
『うん。じゃあ』 ガチャ、ツーツーツー
ふぅ
緊張したが、なんとか連絡することは出来た。
やはりミヤビちゃんの機嫌が若干悪くなった気もするが、普段ですら他人の機微が読めない俺には、電話越しで正確にミヤビちゃんの感情を読み取ることなど出来ないのだから、気にしても仕方無いだろう。
今日は、ゆっくり体を休めて回復に努めて、明日からの特訓に備えることにするか。
俺は2階の自室に1歩1歩牛歩で戻ると、ベッドに仰向けで寝転び、2度寝することにした。
しばらくしてから目を覚ますと、時計は12時前を指していた。
朝起きた時よりは、心なしから体の痛みが緩和している様な気がする。
もうすぐお昼ご飯の時間だし、起きて着替えようと体を起こすと、俺の勉強机のイスにミヤビちゃんが座ってて、黙って俺の事を見ていた。
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