#13 ランコもびっくり



 席に戻ると、隣の席に座ったランちゃんが興奮気味に話しかけて来た。


「なんかあったん?ミヤっちがあんなにニコニコして他人の汗拭いてあげる姿なんて初めて見たよ!そんなに仲良くなったの???」


「いや、男子生徒とトラブルになってたみたいだから声掛けただけだ」


「あーあのしつこいのか。 アイツ、隣のクラスのヤツなんだけどさ、普段、私が居る時はガードするんだけどね、朝はミヤっち先に行っちゃうしちょくちょくあったんだよね。 それで、それをあんみつが追い払ったんだ?」


「追い払ったというか、傍で騒がしくすると迷惑だからって注意したんだが、怒って教室から出て行ってしまったよ。 彼は隣のクラスだったんだな。道理で出て行ったまま戻って来ない訳か」


「へー、あ!それでミヤっちがあんみつに感謝してあんな風に汗拭いてあげてたんだ!」


「そうなのか? まぁ喜んでくれたのなら、なによりだが」


「あんみつもヤルじゃん。ふふふ」


「昨日ランちゃんに頼まれていたからな。そうじゃなくても、友達とは困った時に助け合うものだろ?」


「あんみつ、マジ良いヤツじゃん。なんで今までぼっちだったんだろうね?」


「うーむ。それを俺に聞くのは酷と言う物では? まぁ、汗かきぽっちゃりさんだからな、近寄りたくないと思われてる自覚はあるさ」


「確かに、ヌルヌルしてたのはキモかったわ」


 そのお蔭で、五月蠅かった男子生徒を追い払うことが出来たんだけどな。





 朝のトラブル以降は何事も無く、俺はいつもの様に自分の席で一人静かに過ごすことが出来た。

 しかし、お昼時間になると、再び予想外の事態となった。


 4限目が終わりお昼の休憩時間になったので、いつもの様に自分の席で弁当を出して食べ始めると、ミヤビちゃんがやってきて隣の席のランちゃんの机をズズズっとズラして俺の机にくっ付けて、そのままその席に座り弁当を食べ始めた。


 おや?と思い、ランちゃんの姿を探すと、ランちゃんは他の友達と廊下に出て行くところだった。

 恐らく、売店にパンでも買いに行ったのだろう。


「ランちゃんの席だけど、勝手に使って良いのか?」


「ランコは他の友達とどっかで食べるし大丈夫」


「そうか。でもミヤビちゃんは俺と一緒で良いのか?」


「友達だから」


「そうか、ありがとう」


「むふふ」


 友達と弁当を一緒に食べるのは初めてのことだった。

 中学までの遠足とかでは、いつも一人で食べてたし、高校生になってからもずっと一人だった。

 周りを見ると、みんな各々のグループでお喋りしながら楽しそうに食べている。

 俺も何か楽しい話題を提供するべきなのだろうか?と考えたが、ミヤビちゃんは自分のペースを乱されることを何よりもイヤがることを思い出し、食事の邪魔をしないように黙って食べることにした。


 お互い静かに食べていると、ミヤビちゃんの方から話しかけてくれた。


「シャイゼ、行くの?」


「ああ、そういえば昨日ランちゃんがシャイゼに連れて行ってくれると言ってたな。 ミヤビちゃんも行くのか?」


「うん」


「ランちゃんが言うには、どうやらシャイゼとやらでは生ハムのピザがあるらしくて、焼いたら生じゃなくなるのに、なぜ生と言えるのかその謎を解き明かすのが目的なんだ」


「なるほど。それは謎」


「だろう?」


「うん」



 ミヤビちゃんはお弁当を食べながらも、俺とのお喋りに付き合ってくれていた。

 昨日、ランちゃんからは『気を許せる人以外が関わるのがイヤみたい』と聞いていた。

 つまり、俺は気を許して貰っているということだろうか。

 友達だと無条件に気を許せる物なのだろうか。

 そんなことないよな?


 その辺りのデリケートな人間関係の機微を感じ取るのが、俺は苦手だ。

 明確に嫌われるている場合は分かりやすいが、嫌悪感や敵意が無いと思った人に話しかけたのに、イヤな顔されることが多かった。


 だから、ミヤビちゃんは友達だけど、イヤな顔をさせてしまうようなことをしてしまうんじゃないかと、怖い気持ちもある。

 そんなことを苦悩しながら弁当を食べ終えると、ミヤビちゃんも弁当を食べ終えた。


 これで用が済んだので自分の席に戻るだろうし、あとはいつもの様にこのまま席で読書でもしようかと文庫本を取り出すと、ミヤビちゃんは自分の弁当をバッグにしまい、今度は今朝俺が貸した文庫本を取り出して、そのままの席で読み始めた。


 その行動に少しビックリしてしまったが、読書の邪魔をするのは不味いと思い直し、俺も読書を始めた。


 読書を始めて10分程経過した頃だろうか。

 不意に「あんみつくんに借りた本、面白い。 そっちの本も面白い?」と話しかけられた。


「ん?コレか? これも面白いよ。その本と同じ作者だ。 良かったら、次に貸そうか?」


「うん」


 それだけ会話すると、再び読書を再開したので、俺も読書を再開した。



 お昼休憩終了5分前の予鈴と同時に、ランちゃんが教室に戻って来て、俺達の所にやってきた。


「えぇ!?二人で昼休憩ずっと一緒だったの!?」


「そうだが、不味かったか?」


「いやいや、不味くないけどさ、ミヤっち変わり過ぎじゃない???私とお昼一度も一緒に食べてくれたことないじゃん!」


「ランコ、うるさい」


 そう言ってミヤビちゃんがランちゃんを睨むと、ランちゃんは「ん-!」と声にならない不満の声を漏らして何か言いたそうな顔をしてたが、ミヤビちゃんはそんなランちゃんを放置して、動かした机の位置を直すと自分の席に戻って行った。


 ミヤビちゃんが行ってしまうと、ランちゃんは「今日のミヤっち、朝から衝撃ハンパねーし・・・」と独り言を零していた。




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