#09 ヒーローだから恰好付けたい



 駅までの道のりや電車の中でそんな他愛も無いことを話していると、地元の駅に着いたので3人とも降りて改札を出た。

 やはりミヤっちさんも俺やランちゃんと同じ駅を利用しているようだ。


 そのまま3人で駅前にあるミニストップに寄り、ソフトクリームを3人分購入した。

 店内の飲食スペースで食べるのかと思いきや、歩きながら食べるというので行儀が悪いとは思ったが二人に合わせて俺も歩きながら食べることにした。


 こんな風に女子と買い食いすることなど勿論初めてのことで、俺はドキドキしつつ二人の様子を気にしながらペロペロしていた。


 ランちゃんは、豪快にガブリとかぶりつく様に食べていた。

 ミヤっちさんは、ハムハムと小動物の様に少しづつ食べていた。

 食べ方にも色々なタイプが居るのだな、と感心しながら歩道を歩いていると、俺たちの進行方向からおばあさんが乗った自転車がコチラに向かって走って来た。


 車道を走らず歩道を走行する自転車ババァは前を歩く俺たちに気付くと「あ~あ~あ~あ~」と動揺した様子を見せるが、何故かブレーキで止まるという判断が出来ていない様子。 自動車でアクセルとブレーキを間違えてるのに、なぜか更にベタ踏みしてコンビニとかにロケットダイブするタイプのクソ老人だ。


 減速しないままミヤっちさんの方へ突っ込んで来た。

 危ない!と思いミヤっちさんを見ると、垂れたクリームを舐めるのに集中してて、突進してくる自転車には気付いてない様子。


 体が勝手に動いた。

 咄嗟の動きで庇う様にミヤっちさんの前に体を滑り込ませてミヤっちさんと向かい合った瞬間、自転車の前輪が俺のお尻の割れ目にクリティカルヒットした。


「おぅふぅ・・・」


 痛みで声にならない声漏らしながら崩れ落ちて四つん這いでうずくまる俺。

 手に持ってたソフトクリームは、まだ半分以上残ってたのに地面に落としてしまった。


 そして、自転車ババァは「あらあらごめんなさいね」と言い残して、颯爽とその場を後にした。


 いくら最近はおケツのキズが治って来ていたとは言え、何カ月も毎日挿入訓練で酷使した俺の肛門は、常人の数倍は敏感になっていた。

 そこへノンブレーキ自転車に突っ込まれたのだから、その痛みの程は言わずもがな。もしこの時『限界を超えた先に辿り着く世界ザ ワールド ビヨンド リミッツ』状態だったら、確実に漏らしていただろう。


「あんみつ大丈夫!?いまお尻にガッツリハマってたよ!お尻死んだんじゃないの!?」


 うめいて起き上がれない俺に、ランちゃんは悲痛な声で心配してくれていた。

 ミヤっちさんも声には出さないが心配してくれてる空気が伝わってくる。

 だが俺はヒーローだ。

 ヒーローが心配されてたら格好が付かない。


 俺はまだ痛みが残る肛門に力を込めて立ち上がった。


「大丈夫、俺は平気だ。 俺の事よりミヤっちさん、怪我は無かったか?」


「マジかよ・・・あんみつハンパねーし」


 ヒーローらしく恰好付けて、自分のことよりもミヤっちさんの心配をした。


 ミヤっちさんは、返事の代わりに手に持ってたソフトクリームを俺に差し出してきた。


 ソフトクリームを観察すると、結構溶けててミヤっちさんの手はクリーム塗れだった。


 手がベトベトだから拭いてくれ、ということか?


 判断が付かずに悩んでいると、ミヤっちさんは「ん!」と言って再びソフトクリームを差し出して来た。


「ちょっと待ってくれ。直ぐにタオルを出すから」


 そう言って背負っていた通学用のリュックを降ろしてタオルを出そうとすると、ミヤっちさんは「ちがう!あげる」と言って俺に向かってソフトクリームを更に突き出して来た。


 ベトベトだからもう食べる気が無いということだろうか?

 所謂、残飯処理みたいな物か。


 まぁいい。

 自分の分は落としてしまったし、それに残飯処理とは言え、同世代の女子から物を貰うなんて初めての経験だ。

 ここはありがたく頂こう。


 ソフトクリームを受け取り、代わりにリュックから出したタオルをミヤっちさんに渡した。

 受け取ったソフトクリームのコーンは既にふにゃふにゃになる程ベトベトに湿っていてとても食べづらかったが、タオルで手を拭きながら俺が食べる様子を見ていたミヤっちさんは、何故か満足そうな顔をしていた。



「あんみつ、やっぱあんたアーメン様だわ」



 だからアーメン様って、だれ?



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