第42話 彼女のアタック
アルフェリズに帰って数日後。
この時間にアタックするからしっかり見なさい、と王都ヴァルメイロで別れるときに言っていた時間にロンドのアタックが星空の天幕亭でも配信された。
ダンジョンはヴェスヴィオ炭坑跡。
沢山あるダンジョンであえてここにしたってことは、俺達の初アタックの記録を意識したんだろう。
「すげえな……速い」
隣にいるアストンが感心したって感じで言う。
「アトリ……あの人に勝ったの?」
「まあ、一応な」
マリーが画面を見ながら聞いてくる。
少なくとも一度はあいつの記録を破ったのは確かだ。
「やっぱりすごいね、アトリ」
『おや、敵が来ますね。では私の技をお見せしましょう』
進行方向にはジャイアントバットの群れがいる。
ロンドの走る速度が僅かに落ちた。銀色の長い髪がふわりと舞う。
ジャイアントバットのうち三匹が飛び掛かってくるのと完全に同じタイミングでロンドが踏み込んだ。
直線的に飛んできたジャイアントバットを踏み込みで躱すと、奥のジャイアントバットに向けてレイピアを振る。
白い軌跡が空中に弧を描いて正確に切っ先がジャイアントバットを捉えた。フラッシュのようにヒットエフェクトが光る。
切られたジャイアントバッドが甲高い声を上げて狭い天井まで逃れた。
その隙にロンドが加速する。ジャイアントバットを置き去りにしてロンドがヴェスヴィオ炭坑跡の黒い通路を駆け抜けた。
『これが私の走り方です。一歩目の間の取り方さえ体感できれば難しい技ではありません。練習してみてください』
画面のなかのロンドが解説するかのように言う。
あれがあいつの得意技、13・STEPだ。独特の緩急で相手の攻撃を誘って、相手のその攻撃に合わせて、スピードを殺さないままに避けつつ横をすり抜ける。
世界中のミッドガルドのRTAのプレイヤーの誰もが多分一度は練習したと思う。
俺もやったが、間の取り方が安定しないから使うのは止めた。どれだけ速くても安定感がないと長丁場ではタイムロスにつながる。
「すげえ……」
「あんなに速いの見たことないぞ」
「しかもソロだぜ……怖くねえのかよ」
普段だとアタックでは大いに盛り上がる星空の天幕亭だが、今日は声援は少な目で皆が食い入るように画面を見ている。
一人でやるということはミスれば死ぬわけで、そう言う意味では普通のアタックとは全く違う。
デスゲームを観戦している感じに近いかもしれない。
隣で俺の手を握っているマリーの指にも力が入っている。敵と交錯する時に小さく息を呑む気配が伝わってきた。
俺としてもソロのアタックには不安を感じないわけにはいかないんだが……ルート取りは完璧だ。
ただ、やはりあちこちでまだ迷いのようなものは見える気がした。
結局その後も恐ろしいスピードで走り続けたロンドが勢いそのままにヴェスヴィオ炭坑跡の20階層までたどり着いた。
『さて、ヴェスヴィオ炭坑跡、20階層、15分25秒で到達です』
『今日は此処までにしておきましょう。RTAスタイルはアトリたちだけではありませんので、私のも是非見ていただきたいですね、皆さん。
ロンドがそう言ってレイピアを鞘に納めて胸に手を当てて深々と頭を下げた。
『そして、闇を裂く四つ星の皆さん。貴方たちの記録は破っておきましたよ。悔しく思うなら破り返してみなさい』
煽るようにロンドが言って画面が暗転した。
ヴェスヴィオ炭鉱跡の記録はあっさりと破られた。しかも3分も。
まあ最初の不慣れな時に出した記録だから万全ではないのは確かではある。
流石だとは思うが……もう少し加減しろ。
「アトリ、どうする?」
隣の席にいたマーカス達が聞いてくるが。
「勿論破り返す」
血が騒ぐっていうか、RTAと言うのはそういうもんだ。
記録の破り合いこそRTAの醍醐味。ライバルはいた方がいい。
そういうと星空の天幕亭の客から歓声が上がった
「俺はお前らを信じてるぜ」
「新参者なんかに負けんなよ!」
「最速はお前等だぜ。頼むぞ!」
「王国最速のアタッカーはアルフェリズに在り!都会の奴になんか負けるなよ」
「景気づけに飲め、飲め!」
「頑張れよ、闇を裂く四つ星!」
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