第29話 トップアタッカーとのコラボ・下

「こっちからも一つ聞きたいんだがいいか?」

「色々教えてもらったからな。何でも答えるよ」


 カイエンが紅茶のカップを軽く上げて答えてくれる。


「あんたたちくらいの腕があればダンジョンマスターまでいけるだろ?なぜそうしないんだ?」

 

 これについては俺達もまだダンジョンマスターまで行ってないから人の事は言えない。行こうと思えば行けるだろうが。

 ミッドガルドのRTA走者を名乗る以上、いずれはダンジョンマスターを倒して完全な形で記録を作りたいとは思う。

 

 ミッドガルドのRTAはダンジョンマスターを倒してダンジョンをクリアして初めて認定記録になる。

 今のタイムはRTAのレギュレーションとしては不完全というか妥協していると言われても返す言葉が無い。


 だが、戦闘を見せることをメインするならダンジョンマスターとの戦いはいい見せ場になると思う。

 あの配信を思い出すと、ダンジョンマスターにだって十分に対抗できるだろう。

 

「できなくはないが……やろうと思うなら君くらいにマップを知らないとたどり着くのが難しい。

それと今までのアタックの歴史の中で何度かダンジョンマスターまでたどり着いた者はいるんだ。意図的に深奥を目指したものもいれば、たまたま到達してしまったものもいるんだがな」

「ああ」


「その殆どはダンジョンマスターに敗れた。

ダンジョンマスターの間は撤退のスクロールが使えない。倒すか全滅するかしかない」

「それにダンジョンマスターの情報が殆ど無いから挑むのはリスクが高いわ。それにトップアタッカーが死ぬのはギルドとしても得じゃないから、ギルドもあまり推奨しないの」

「見ている側にしても、画面の中とは言え死者は見たくないものさ」


 イシュテルとカイエンが答えてくれる。

 確かにそうかもしれない。


 俺はダンジョンマスターの情報を知っている。

 攻略サイトはいくらでもあるからミッドガルドのプレイヤーは誰だって知っている。


 しかし、この世界は検索を掛ければ攻略動画がいくらでも見れる世界じゃない。

 ダンジョンマスターの情報が無いとなれば、未知の強敵相手に戦うことになる。


 アップデートで追加されたダンジョンの何をやってくるのか分からないダンジョンマスターと戦うのは面白い。

 失敗するとしてもそれはそれで楽しい。


 だがそれはゲームだからだ。

 この世界に再出撃リスポーンは無い。

 となればダンジョンマスターを無理に倒しに行かないのは当然かもしれない。


「とはいえ、一アタッカー、一戦士としてはいずれ戦って見たいとは思っているがね」


 そう言ってカイエンが紅茶の残りを飲み干す。

 イシュテルが壁に掛けられた柱時計を見てカイエンに何かつぶやくと、カイエンが椅子から立ち上がった。

 アストンたちも弾かれたように立ち上がる。


「話は尽きないが、そろそろ行かないといけない。有意義な話が出来た。感謝するよ」

「アストン、マリーチカ、オードリー。あなたたちのアタックは本当に素晴らしいわ。いいチームね。また会いましょう」

「お互い幸運を」


「はい!」

「ありがとうございます!」

「頑張ります!」


 アストンが緊張した感じで握手する。二人が周りの客にも軽く手を振って店を出て行った。

 しかし流石に雰囲気があったな。


 アストンたちが緊張から解かれたように椅子に座り込む。

 いつの間にかミハエルはいなくなっていた。



 数日後。 

 星空の天幕亭で夕食を食べていた時に、映っていたのは真理の迫る松明のアタックだった。あんなことがあったからやはり目が行く。


 ダンジョンはこの間ルートを少し教えたドレイクの断崖。SSランクだ。

 断崖に開いた洞窟や崖の外の隧道を上る、階層を降りるダンジョンが殆どのミッドガルドではかなリ珍しいステージだ。


 龍族系のモンスターがメインな上に足場が悪く、足を踏み外すと死亡扱いだからとにかく難しい。

 カリュエストールの滝壺の難度を10倍にした感じだ。RTAの記録もかなりばらつきがあったと思う。


 映し板の中で真理の迫る松明のパーティの戦いを見る。

 崖に回廊のように刻まれた通路での戦いだ。目もくらむような高さで、見ているこっちも背筋が寒くなる。


 カイエンの矢が空中を飛びながら襲ってくるレッドドラゴンを正確に撃ち抜き、怯んだところを魔法が飛ぶ。

 散発的に飛ぶブレスをナイトの盾が受け止め、イシュテルの魔法防御が接近を阻んだ。

 

 暫くするとレッドドラゴンが撃ち落とされて歓声が上がった。


 レッドドラゴンはダンジョンマスターを除けばミッドガルドじゃ屈指の強さを誇る。それを全く寄せ付けないとは。

 個々の技量もさることながら、相互の意思疎通が完璧で全く隙が無い。改めて見ると高練度のパーティだ。


 1時間半ほどの配信が終わった。ダンジョンマスターである魔竜ドレイクまであと5階層。

 やっぱりクリアを目指せば行けそうだな。

 撤退のスクロールを使って入り口の戻った4人、カイエンとイシュテルたちが画面に映る。

 

『楽しんでもらえたかな?

ところで、今回の戦闘にはアルフェリズのパーティである‘‘闇を裂く四つ星‘‘のアストン、オードリー、マリーチカ、アトリの協力があった』

『将来有望で優秀なアタッカーたちです。彼らのアタックも見てあげてね』


 カイエンとイシュテル言って画面が暗転した。

 同時に店内から大歓声が上がった。


「おいおい、アトリ、すげーじゃねえか」

「あの真理の迫る松明の奴にこんな風に言われる奴なんてそうはいないぞ」


「俺達の誇りだぜ、いや……アルフェリズの誇りだ」

「流石俺の推しだな」

「ほれ、乾杯!」

「女将さん、酒持ってきて!」


 これはあれなんだろうか……配信者同士のコラボ的なものなんだろうか。


 ただ、その次のアタックでは、真理に迫る松明の連中のおかげで俺達の視聴者も増えた。

 いつか礼を言わないとな。



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