第2話・ピンクのハートは黄色いシグナル

ヨーカイレッドがあっちの世界に帰ってから数分間、俺は怒涛の勢いで頭に押し込められた情報を整理していた。




戦隊ヒーローより敵のほうが数が多くて、レッドがリーダーとは限らなくて、女性リーダーもいて……




でも、あっちの世界ではちゃんと女性が女性戦士に変身してるんだろうけど、こっちの世界で「作品」を撮影する時は、女性戦士も中身はみんなただのおっさんなんだよな。




そうだ、この要素を小説に加えよう。




冒頭部分はひとまず後回しにして、アイドル的な可愛さのピンクの女性戦士が、戦いが終わってこっそりスーツを脱いだら中からただのおっさんが出てきて、それを子供に見られて号泣されるという場面を書いた。




我ながらいいアイデアを思い付いたものだ。


これは絶対に面白い小説になる。




「なんでおっさん?」




女性戦士でも中身はみんなおっさんだから。




「誰がおっさん?」




誰って…………誰だ!?




いや、この展開はさっきと同じ。




声のする方を見ると、そこにいたのはやはりヨーカイジャーのメンバーらしき人物。




今度はピンクか。




「ねえ、誰がおっさん?」




いや、あんたがおっさんと言っているわけじゃなくて……




「このくびれがおっさんに見える?」




確かに、くびれはある。




「…………くびれ『は』って?」




ゑ?




「くびれ『は』あるってどういうこと?」




ゑゑゑ!?




「何が無いって?」




ゑゑゑゑゑゑゑ!?!?




「無いから? 無いからおっさんだってこと!?」




いや、違……




「ヒドイ! 無いから! 無いからおっさんだなんて!」




だから……




「ち~~~か~~~げ~~~ちゃ~~~~~~ん!!!!」




「はいはーい」




いつの間にか黄色い人もいた。


だが黄色いのに太ってないし、どうやら女性らしい。




好きな食べ物は?




「ツナマヨおにぎり」




カレーじゃなくて?




「そっか、あんたが拓実の言ってた小説家ね。カレー好きのイエローは2人しかいないって、『作品』の中で先輩イエローが言ってくれたみたい」




そうなのか。


イエローはみんなカレー好きなのかと思ってた。




「で、何を揉めてたの?」




「この人があたしのことおっさんとか言うの! 千影ちゃんにあるものがあたしに無いからって!」




だから言ってないって!




こっちの世界であんたらが活躍する「作品」を撮影する時、女性戦士のスーツを着てるのはみんなおっさんだって話。




「いや、女性戦士は基本的に女性がスーツ着てる」




こっちの世界でも?




「うん。リーダーほどじゃないけど、私もこっちの世界のこと勉強してるの。男性が女性戦士のスーツを着ても、体型とか仕草とかでけっこうバレちゃうから、ほとんどの女性戦士は女性が担当してるんだって」




確かに、この黄色い人のスタイルをおっさんが再現するのは難しいか……




「あたしは?」




じゃあなんで「みんなおっさん」なんて言われてるんだろ?




「無視!?」




「女の子戦士がおっさんだったら夢が壊れておもしろーい! とか思ってる少年の心を忘れない人達がそう思い込んで広めたんじゃない?」




わー少年の心こわいなー。




どうでもいいけど、なんでみんな変身した姿で来るんだ?




「別の世界に飛ばされてる間けっこう苦しいんだけど、変身したらマシになるの」




「あたし、偶像妖怪ネコマタンに力をもらった、ヨーカイピンク・二ノ宮結月にのみや ゆづき




「私は幻惑妖怪キュービルンに力をもらった、ヨーカイイエロー・九条千影くじょう ちかげ




2人は自己紹介しながら変身を解除した。




意外だったな。




イエローはみんなカレー好きで太ってて怪力でお笑いキャラだって思ってたけど……




「その条件全部に当てはまるイエローは、秘密戦隊ゴレンジャーのキレンジャー先輩だけ。どっちかというとイエローは、私みたいな女性戦士とか、パワーよりスピードを武器にして戦う戦士が多いイメージかな」




イエローの女性もいるんだな。




ってことはまさか、ブルーとかグリーンの女性とかもいるの?




「いるよ。特にキラメイグリーンセンパイとか超~~カワイイの!」




「戦隊によくいる色で女性戦士がいないのは、ブラックとゴールドくらいね」




ゴールドなんているんだ。




ん?




じゃあもしかして、女性のレッドもいるってこと?




「うん、超~~カワイイセンパイが1人いるよ」




「『作品』の根幹に関わるネタバレになるから詳しくは言えないけどね」




言えないことは言わなくていいや。




すると、こっちの世界にいる「女性のレッドが1人もいないのは女性差別だー!」って言ってる人達は……




「ただ知らないだけ」




「1人はいるもん」




じゃあもっと増えてほしいとは思う?




「う~ん、どうだろ?」




「男の子向けの『作品』を女の子が見てもいいんだけど、メインの視聴者は男の子なんでしょ? うちの男子メンバー達によると、小学生くらいの男の子って、自分が女性に興味があると思われることを恥ずかしいって感じるみたい」




あ~、そういうの俺にも覚えがある。




「レッドはリーダーとは限らないけど、ほとんどの『作品』で中心人物ではある。そのレッドに女性が多くなったら?」




メイン視聴者は離れていくか。




「多分、喜ぶのは『女性差別だー!』の人達くらい」




その人達、女性がレッドの「作品」が放送されたら毎週見てくれるのかな。




「くれないかもね」




「3回くらい見たらその後は『今週はリアタイできないけど録画して後で見ます!』ってSNSに書いといて結局見なくて、グッズが売れてるように見せるためにいっぱい買い占めて、放送が終わったらネットで大量転売~~とか?」




「結月それは想像力豊かすぎでしょー」




「あははははははは」




あははははははは




「あははははははは」




「あははははははは」




あははははははは




「あははははははは」




「この話やめない?」




「やめよ」




やめよう。




「ってか、女の子メインの『作品』が見たかったら、プリキュアとかセーラームーンとかあるし」




「結月もけっこう勉強してるじゃん」




「アニメは好きだから楽しくチェックしてる~」




タキシード仮面っていう男性も出てくるけど、ちょっと手伝うだけだしな。




女の子グループの戦いが見られるのってアニメだけ?




「え……」




実写は無いの?




「えっ……と…………」




「セーラームーンは実写版もあったんだよ!」




「へぇーそうなんだしらなかったー」




何か隠してるな?




「隠してるわけじゃないんだけど……」




「私達がどうっていうより、戦隊と時々一緒に戦ってくれる人達の『作品』の裏番組……」




あ、うん、わかった、それはもういい。




「その子達はなんっにも悪くないの! すっっっごくカワイイ子達なの!!」




うん、もういい。




「すっっっごくカワイくてすっっっごくいい子達なの!!!」




だからもういいって!


なんか涙出そうになってきた!




……じゃあさ、あんたらはレッドになりたいとか思わないの?




「レッドに?」




「特に思わないかな。ピンク好きだし」




「私も黄色好きだし、レッドだけが戦隊じゃないし」




確かに……




「ピンクもイエローもグリーンも、みんなカワイくてカッコイイもんね!」




それは、今なら俺にも何となくわかる。




ってか薄くなってきてない?




「あー! また体が薄いとか!!」




だから言ってないって!!!!




「そろそろ時間みたい。結月、何か言い残したことある?」




「えっとえっとえっと、あの子達はすっっっごくカワ……」




消えた。




最後まで複雑な事情と戦ってた。




部屋が一気に静かになったが、二度あることは三度あるって言葉があったりするんだよな……




千影って子がけっこう好みだからググってみたら、こっちの世界の千影役の人はグラビアアイドルだった。




ちょっと本屋行ってくる。








【to be continue……】

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戦闘員を忘れるな! 天道暁 @satorured

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